第三十四話 つのド◯ルとか覚えたらいいなぁと思いました
三章始まりです。よろしくお願いします。
◇
「忙しなかったね」
「ですね」
思えば、シーファと対峙してから今まで随分忙しかった。
気付けばソルにいて、気付けば旅に出ている。もうソルの村は見えない。
気ままなのんびり生活は、いつになったら出来るんだろう。
「どこに向かう?」
荷車を引く土竜を御者台で操るクリネアが尋ねてきた。
ソルで土竜を譲ってもらったものの、僕達の中でまともに操れるのはクリネアだけだったのだ。
いつか僕達も教えてもらわなければならない。
「どこって聞かれても、この世界の地図すら持ってないしなぁ。国がいくつあるのかとかも知らないし、とりあえず適当でいいよ」
「適当って一番困るやつじゃない」
僕達を乗せた土竜は今、だだっ広い草原を駆けている。遠くの方には大きな動物の姿がチラホラ見えるが、まだ近くには何も現れない。
気持ちいい風が吹く、のどかな雰囲気だ。
「じゃあ、ひとまずこのまま草原を走ってようよ。森とかだと危険そうだし」
「そうですね。それが無難だと思います」
無難って、あんまり褒められてる気にならないよね。
「ねーねー、この土竜の名前どうする?」
「名前?」
「そうよ。名前がないと不便だし、これからお世話になるんだから良い名前をつけてあげようよ」
「なるほど。それは良い案ですね」
「いいよ」
クリネアの提案に、舞は名案だと賛成する。一応僕も賛成しておいたけど、名前をつけるなんて初めてだ。
ペットなどの名前は、特徴から考えるのがセオリーだと思う。
土竜の特徴は……サイっぽい見た目かな?
「サイホーン」
「それはやめておきましょう」
舞に一瞬で却下された。
やっぱりポケ◯ンはダメか。
「土竜ちゃんとかどう?」
「そのまんまじゃん」
クリネアのネーミングセンスは終わってるな。なんで名前つけたいとか言ったんだよ。
僕とクリネアは撃沈したため、当然舞に期待が向けられる。
僕達の視線を一身に浴びた舞はしばらく考えたあと、
「か……奏多、なんてどうでしょう」
「なんで!?」
一番わけのわからないことを言い出した。
「いえ、奏多が目の前にいたので」
「理由がアホ過ぎない?嫌だよ名前が被るなんて」
奏多って呼ばれたら僕と土竜が反応するなんて、考えただけでめんどくさい。
「そこまで言うなら奏多が決めてくださいよ。ポ◯モンネタはダメですよ?」
サイドンと答えようとしていた僕はなんとか耐えきった。舞は本当に僕の心が読めるのかもしれない。
「じゃあ……モグとか?」
「へぇ、いいじゃない!可愛いし!」
「悪くありませんね。由来は?」
「ほら、土竜って僕達の世界じゃモグラのことだから」
「……まあ、いいでしょう」
なんとか許されたみたいだ。
こうして、僕達の旅の仲間になった土竜はモグと命名された。
自分で付けといてアレだけど、厳つい見た目なのに全く威厳を感じられない名前だ。
少し、可愛く見えたのは気のせいだろう。きっと僕は疲れているのだ。そうに違いない。
◇
それは、旅に出てから最初の夜だった。
僕達は野営地を決め、巨大なテントを建て終えていた。もちろんテントの中で寝るのは女性陣だけで、僕は荷車の中で寝るつもりだ。
見張りはいない。と言うより、必要ない。
僕の『気配察知』で擬似的な結界を作り、範囲内に何かが入れば僕は一瞬で気付くことが出来る。
ほんま便利やで。
「じゃあ私達は休みますね。……本当に奏多は外でいいんですか?」
「本音を言えば中がいいけど、血迷って手出しそうだし」
「……少しは隠してくださいよ」
「ここも悪くないし、僕は大丈夫だから。気にしなくていいよ」
実際、荷車の上にも布団を敷いているから寝心地は悪くない。元から荷車には幕もあるし、外から虫が入ってくることもないから安心だ。
そして僕は焚火の火を消し、布団に入って目を瞑る。
中は暗いし一人だし、やる事もない僕はすぐに眠りに落ちた。
のだが、結界内への侵入を感知して目を覚ます。
「っ、舞!」
僕は荷車から飛び出て指を鳴らす。それと同時にテントの中が光で満たされた。
これは敵襲時の合図だ。『光の賢者』の力を使えば、テントの中に入らなくても光を灯すことができる。
「奏多!敵ですか?」
「分からない!けど、何かが近付いてる!」
「アタシは!?」
「クリネアは悠と一緒にテント前にいてくれ!」
「分かった!」
クリネアはまだ本調子ではない。それでも、時間を操る能力は強力だ。守ることに関しては、クリネアはこの中で最強だ。
だから僕と舞が迎撃役で、クリネアが防御役に分担した。
暗闇の向こう側から、ぼんやりと人影が見えてきた。ここで光を放ってもいいが、周りから丸見えになってしまう。
「……先手必勝かな?」
「それはやめておきましょう」
割と本気で攻撃を仕掛けようとしたが、隣に立つ舞に止められた。
見れば、右目が緑色に光っている。どうやら『千里眼』を使っているらしい。
「見えるの?」
「はい……ですが、なぜ彼がここに?」
舞の呟きの真意を問う前に、影が正体を現した。
「……ガイウス君?」
そう、ガイウス君だった。
ゼエゼエと肩で息をしながら、僕達の前で膝に手をついている。
「……なにしてるの?」
「ハァ、ハァ、お……俺も!俺も一緒に連れてってくれ!」
……なんで?
ちょっと急な展開すぎて反応に困ってしまう。
というわけで聞いてみよう。
「なんで?」
「俺はもっと強くなりたいんだ!」
おお、即答か。
「でもいいの?君はソルにいた方がいいんじゃない?」
「ああ!」
「アンちゃんは?」
「うっ、……そ、そりゃ一緒にいたいけど……それでも、今の俺じゃあいつは守れない。だから、もっと強くなりたいんだ!」
「……僕達といても強くなれるとは限らないよ?」
「大将は強いじゃねえか!とにかく、俺もついていかせてくれ!頼む!」
ガイウス君は深く頭を下げた。
「どうします?」
「どうするの?」
舞と、いつの間にか近づいていたクリネアが僕に尋ねてきた。どうやら僕が決める流れらしい。
まあ、断る理由もないし。
「いいよ」
「やった!」
ガッツポーズを作って喜ぶガイウス君に思わず微笑む。
「ありがとう!大将!あと、これから俺のことは呼び捨ててくれ!大将に君付けされんのはちょっと嫌だ」
……別にいいけど、嫌ってなんだよ、嫌って。
あとで知った話だけど、ガイウス君……ガイウスは僕達がソルを出てすぐに追いかけてきたらしい。多少強引ではあったが、みんなには納得させたと。
ナナちゃんは一緒に行きたがったらしいけど、流石に同行を許すわけにはいかず、心を鬼にして諦めさせた。
それにしても、獣人って凄いな。土竜ほど速くはなくても、体力は尋常じゃない。
なにせ、僕達に追いつくまで休みなしで走り続けていたらしいのだから。
◇
「大将!町が見えてきたぞ!」
ソルを出て約一ヶ月、道に迷いつつも大きなトラブルはなかった僕達は、初めて町を見つけた。しばらく何もない旅路だったからか、ガイウスの声にも明るさが感じられた。
実際ガイウスが僕達と合流してからは、毎日手合わせをするだけの日々が続くだけで、変わり映えのしない毎日を送っていた。
大量にあった食料も底をつき、途中からは自給自足の日々。まあそれに関しては、野生動物や山菜の知識があったガイウスのおかげでなんとかなったが。
なんにせよ、僕も流石に疲労が溜まっていた。もっと高い頻度で村や町を見かけると思っていたから。
だから町の発見は嬉しい。嬉しいのだが、
「……あれ、町って言っていいの?」
目の前には、町と称していいのか分からない風景が広がっていた。
「分かりませんが……綺麗ですね」
舞の言う通り、綺麗な場所だった。
僕達の前方には大きな木が立ち並び、その立派な枝の上に家のようなものが建っている。
木と木の間には橋が渡されており、移動には困らなさそうだ。
更には辺りには光る玉のようなものが浮かんでいて、木陰になっている町全体を照らしている。
ああ、いや、町かどうか怪しいんだった。
「……ん?」
ふと、背中に背負っていた布の塊が熱くなった気がした。ヘノム邸から拝借してきた剣を包んでいる布だ。
だが、それは一瞬の出来事で、触ってみても特に変化はない。気のせいだったか。
「どうしました?」
「いや、なんでもないよ」
それより、と町を見上げる。橋を歩く人や建物から出てくる人が見えた。
よく見れば、普通の人間じゃない気がする。もしかしたら他種族かもしれない。
「とりあえず、行ってみようか」
「はい!」
まあ、なんとかなる。と思う。
三章は短めの予定ですし、内容も重くないと思うので気軽に呼んでください。




