第十八話 理不尽に立ち向かう漢
ここから第二章です!
テキトーに楽しんで頂けたら幸いです!
◆
「ああああああああ!!!」
アルティアの第五地区、その中でも芸術都市と呼ばれる区域に、少年の絶叫が木霊した。
少年の名は氷室奏多。
今は少し癖のあるその黒髪を揺らしながら、街の中を爆走している。
そしてその背後を、夥しい数の人間が追いかける。建物の背を超える高さの砂煙が、その集団の後を追随していた。
「ちくしょう!なんでこうなるんだよ!?」
「いや、当たり前だろ」
奏多の絶叫に近い疑念を、隣で並走するオヤジがジト目を向けながら返答する。
奏多はかなりの速度で走っているが、オヤジもそれに平然とついて行っていた。
「くっそ、こんな事ならあんたの口車になんて乗らなかったら良かった!」
「ハッハー、そりゃ今更だなぁ!お前は歴とした共犯者だ!」
「ぐ……!」
悔しそうに、本当に悔しそうな表情を浮かべる奏多に、オヤジはニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「待ちなさい、奏多ーー!!」
背後から追いかける集団の先頭を走る爆乳の少女、三上舞が声を張り上げる。
その声に、奏多はビクリと肩を跳ねさせた。
「おいおい、坊主。お前、あの嬢ちゃんに怯えすぎじゃねえか?」
「いや……だって、舞の右ストレートってシャレにならないし……」
何を思い出したのか、奏多は左頬をさする。
「なるほど、前科持ちか」
「前科って言うな」
奏多はこんな状況に陥った原因を思い出す。
いわゆる、回想シーンだ。
どうぞ。
◇
「温泉に入りましょう」
「温泉?」
唐突に舞がそう言い出した。さっき見た銭湯のせいだろう。
さっきの銭湯は凄かった。多分、公立の中学校ぐらいの大きさはあったと思う。実は僕も行きたいと思ってたり。
「あ、いいじゃん!アタシも行きたい!」
クリネアも賛同している。
見れば、悠も微かに頷いた。決定だな。
「なら、さっきのとこに行こっか」
「ですね」
観光し終わった後に、とでも思ってたのだが、すぐに行くことになってしまった。
『ヨコシマ温泉』と、なんとも邪な名前を付けられた可哀想な温泉に入る。
「………」
まあ、なんと言うか、残念なことに、当たり前のことだけど、中は男湯と女湯に別れていた。
「……なぜ奏多は、普通に女湯の方は来ているのですか?」
「……冗談だよ」
そして、まあ、当然と言えば当然だけど、悠と舞とクリネアは女湯に、僕だけが男湯に入ることになった。
そして。
『ヨコシマ温泉』の中は、それはそれは広かった。遊園地のアトラクションみたいな物もある。
「へぇ、凄いな。異世界でもこんなのがあるのか」
とりあえず、出口から一番近い温泉に入る。良い具合に温かく、少し眠くなってきた。
が、遠くからワーワー聞こえてきた声のせいで中々眠れない。ウォータースライダーで滑る子供達がはしゃぐ声だ。
「楽しそうだなぁ」
僕もウォータースライダーの方へと行ってみる。
この温泉には若い子から年寄りまでいる。ちょうど僕の前では、おじさんが滑っていた。後ろにもおじさんが並んでいる。
「じゃあ、次の方〜」
「あ、はい」
僕の番が回ってきた。
滑る。
滑った。
「ふぅ」
せっかくだし、もう一回滑ろうかな。
「ん?」
奇声が聞こえたので後ろを振り返ると、おじさんが滑ってきたところだった。フルチンで。
「………」
いや、一応お風呂だから裸なのは当たり前なのだが。
でも、なんかこう……うん。
まあいいや。
………。
………。
てか、
「なんで混浴じゃないんだよーーーーーっ!!!」
おかしい!おかしいよ!?
こんな広い風呂なのに!こんな遊園地みたいな風呂なのに!なんで僕は一人で入ってるんだ!?
寂しすぎるよ!なんも楽しくないよ!
てか、こういうのって水着とか着て男女で楽しむものじゃないの!?
こんなの理不尽だ!
「ふっ」
「!?」
僕の近くにいたおっさんが鼻で笑った。
白髪が混じった茶髪に、少し鋭めの目つき。そして何より、全身に刻まれた傷が特徴的だ。
だが、今は関係ない。
僕の切実な叫びを笑うなんて、良い度胸だ。
「……なにか?」
「お、おいちょっと待て!こんなとこでそんなに殺気を撒き散らすんじゃねぇ!」
「あなた、僕を笑いましたね?」
「違う違う!全く同じ事考えてたから思わず笑ったんだって!」
「同じ事を……?」
「そうそう」
そこで、おっさんはまた笑みを浮かべた。
「覗く、か?」
「っ!?」
な……なんだと!?
「こんなクソったれな男湯なんて、用はないだろう?」
「そ、それは……」
「なら、やるっきゃねえ。違うか?」
……そうかもしれない。そうに違いない。
僕は男だ。
いや、漢だ。
しかも、女湯には悠がいる。更にはあの爆乳の舞も。クリネアは……まあ、別にいいか。
とにかく、ここはやるしかない。
「ふ、覚悟は決まったか?」
「……ええ。作戦はどうします?」
「あれを見ろ」
おっさんが指差す先、そこには高い壁がそびえていた。その向こうからは女性の歓声が聞こえる。
「俺ならあれを超えられるが……どうだ?」
「へぇ」
このおっさん、ただのおっさんではないらしい。あの壁を超えられるのは、そう簡単ではないだろうし。
「僕も超えれますよ。ですが、問題はどうやって監視の目を逃れるか、だと思います」
「大丈夫だ」
そう言って、おっさんは人差し指と親指で円を作る。
「金を握らせた」
「やりますね」
何がだろう。
後から思えば、この時の僕は相当に馬鹿だった。多分、雰囲気に酔ってしまっていたのだろう。
いや、一番悪いのは女湯の魅惑だ。あの魅惑が、僕をおかしくしてしまったんだ。
………。
とにかく、僕はこのダメなおっさんと一緒に壁に向かった。
「よし、登るぜ?」
「ええ」
ここは温泉。辺りは湯気で満ちている。
だから多分、見えないだろう。
「『光の回廊』」
光で形成された螺旋階段が、壁の上まで伸びた。
「おお!お前凄いなぁ!俺もこれ登れるのか?」
「登れますが……あなたも自分で登れるんじゃないんですか?」
「登れるがな、結構疲れるんだよ」
おっさんは苦笑いしながら頭を掻いた。もしかして、本当は登れないのか?
「まあ、いいですけど」
「おっ、気前良いねぇ。ありがとよ。じゃあ、行くか」
階段を登っていく。壁の頂上に近づくにつれて女湯からの声は大きくなり、少し緊張してきた。
「はは、もう少しだなぁ!」
「ですね。桃源郷はもうすぐです」
ついに頂上まで来た。壁の上に手をかけ、おっさんと顔を見合わせる。そして互いに頷いた。
「行くぜ」
「ええ」
そして―――
「……何してるんですか?」
向こう側を覗き込んだ瞬間、目の前には金髪の女性の顔があった。
しかし、裸じゃない。男湯の監視員と同じシャツを着ている。
「………」
「………」
「覗き、ですか?」
「い、いやいや、違うって!なぁ、坊主?」
「え、ええ!もちろんです!これは……その……ねぇ?」
「では、なんです?」
「えーっと……なんだ?」
「……なんでしょう?」
「私は知りませんよ。覗きなんでしょう?聞こえてましたよ?覗きって」
「なっ、嘘だろ!?」
「こんな騒がしい場所でも聞こえるなんて……もしかして、スキル持ちですか?」
「いえ、嘘です。ですが、これで覗きだと分かりましたね」
「………」
「………」
謀られた。
「皆さーん!!ここに覗き魔がいますよーーーっ!!!」
急に監視員のお姉さんが声を張り上げた。
「やっべぇ!」
僕とおっさんは急いで光の回廊を駆け下り、更衣室へ入る。
「おい、坊主!すぐに着替えるぞ!」
「分かってるよ!」
秒速で着替えた僕とおっさんは、これまた秒速で靴を履いて外に飛び出す。
「女ってのは着替えが遅いもんだ!今のうちに逃げるぞ!」
「え?いや、あれ……」
今まさに『ヨコシマ温泉』から出てきた人達を指差す。
僕の目がおかしくなかったら、あの人達は全員女性に見えるが……。
「……女、だな」
「……あんた、なんも役に立たねぇなぁ!!!」
つい、言葉を荒げてしまった。
仕方がない、と思う。
◆
閑話休題。
とにかく、そんな経緯で、奏多と得体の知れないオヤジは逃走劇を繰り広げていた。
そんな二人が、この先どうなるのか。
結末は、まさかの次回で。
この土日は、「ニーア◯ートマタめっちゃ楽しいやん!」って感じの剣玉でした。
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