第十七話 リアクションに文句言う奴ってなんなの?
◇
「ああ、『気配操作』を使えばいいんだ」
一時間ほど探し回った後、それに気付いた。
スキルというものにまだ完全に慣れていないっていうのもあるだろう。
「ごめん、悠。時間を無駄にしたよ」
「………」
悠に謝罪して、『気配操作』を発動する。二人の気配はすぐに見つかった。
「行こっか」
街を歩く。
人は多いが、皆楽しそうな表情を浮かべている。
なんだか僕まで楽しくなってきた。
「あ、カナタ!」
人混みの中から、そんな声と共にクリネアが突っ込んできた。
「うおっ!?」
見えないだけで、本当はそこに存在する角を躱す。
目標を見失ったクリネアは、僕の背後にあった噴水へと突っ込んでいった。
「奏多、悠様も」
「やあ、舞。随分探したよ」
「うぐ、……すみません。少し、気持ちが先走ってしまったようです」
申し訳なさそうに謝る舞に苦笑しながら頷き、後ろに振り返る。
ちょうど、クリネアが噴水から這い出てくるところだった。
「もー!なんで避けるのよ!」
「いや、避けないとまた腹に穴を開けられるじゃないか」
「……忘れてた。ごめんね?」
「はいはい」
クリネアの頭を適当に撫でておく。クリネアは僕の手を両手で触れながらニマニマしている。
「それで、カナタ達は何をしてたの?」
「ん?ああ、そうだった、クリネアに伝言があるんだった」
「へ?アタシ?」
えーっと、確か……そうだ。
「『巻き戻したことは分かっている。ただちに帰還し、詳細の説明をしよ』だってさ」
僕には意味が分からなかったけど、確かこんな事を言っていた。
「―――!」
「クリネア?」
どういう意味か確認しようと、クリネアの表情を伺うと、彼女は顔を青く染めていた。
「どうしたの?」
「か……カナタ。その伝言を残した相手って……名乗ったりした?」
「うん?ああ、ヴィラネドゥって名乗ってたよ」
「っ!」
その名前を聞いた瞬間、クリネアは驚愕に顔を歪め、さっきまでいた宿に向けて走り出した。
「ちょっ、クリネア!?」
クリネアは僕の制止を聞かず、人混みを掻き分けていく。
流石にあんな小さい子を一人にするわけにもいかないし、僕は悠と舞に声をかけてから追いかけた。
「ヴィラネドゥ!!」
クリネアは宿の一階、さっきまで僕達がいた酒場の扉を勢いよく開ける。
が、そこには既にヴィラネドゥの姿はなかった。
「っ……」
「クリネア、急にどうしたんだ?」
「……結構本気で走ったのに、カナタは息切れ一つしてないんだね」
まあ、『身体能力強化』を使ったしね。
「それを言うなら君もだろ?それより、何かあったのかい?名前を聞いて取り乱したみたいだけど」
「……ヴィラネドゥ。そう、名乗ったのよね?その男は」
「ああ」
酒場の中を油断なく見回していたクリネアは、その視線を僕の方へと移す。
「……落ち着いて聞いてね?」
「うん」
「魔族には、魔将と呼ばれる将軍が八人いるの。ヴィラネドゥは、そのうちの一人。死の魔将、ヴィラネドゥ。それが、カナタが会った魔族の正体よ」
「死の魔将、か」
あの人が、いや、あの魔族が魔将か。
まあ、分からないこともないな。
「そうなんだ」
「あれぇ!?なんか反応薄くない!?」
「え?いや、だって……別に興味ないし?」
「そ、それにしたって、もうちょっと反応があってもいいでしょう!?真剣に話したアタシが馬鹿みたいじゃない!」
「それは知らないよ……」
僕に言われても困るな。
「むきー!もうカナタなんて嫌いっ!!」
怒り出したクリネアを宥めるのに、かなりの時間がかかったことは言うまでもない。
◇
「死の魔将ですか」
舞と悠と合流し、四人で街を歩く。その道中、先程の話を共有する。
「不穏当な響きですね。そんな存在と、奏多と悠様は会っていたのですか」
「まあ、そうみたいだね」
「……ちょっと、冷静すぎませんか?」
「だよねだよね!カナタ、冷静すぎ!もっとリアクションを見せてよ!リアクションを!」
「えぇ……」
リアクションに文句言うなよ。仕方ないだろ。
「それで、その魔将っていうのは、やはり強いのですか?」
「うん、もちろん。アタシは魔族だから勇者には詳しくないけど、それでも勇者一人じゃ誰も敵わないと思う。魔将の中には、単騎で一国を滅ぼせる力を持ってる魔族がいるらしいし」
単騎で一国を滅ぼす?なんだそれあり得ないだろ。
と、言いたいところだけど、ここは異世界。僕達の常識は通用しないと考えた方がいいのかもしれない。
「……ねぇ、クリネア」
ふと、気になったことを聞いてみることにした。
「なに?」
「クリネアって、どっち側なの?」
「どっち側?」
「魔族側なのか、人間側なのか」
「あ……」
クリネアは魔族だ。なのに、勇者である僕達と共に行動している。
クリネアを見ていると、敵とは思えないが、それでも、魔族であることには変わりない。
「アタシは……どっち側でもない、かな。強いて言うなら、カナタ達の味方」
「……は?僕達の?なんで?」
「それは……言えない。けど、何があってもカナタ達の味方。それだけは断言できるわ」
「………」
理由がない。根拠がない。つまり、信用できない。
……だけど、クリネアを見ていると、なぜか信用したくなる。
もしかしたら、これがクリネアの能力なのかもしれない。無条件で信じさせる能力。本当にそんな能力を持っているとすれば、恐ろしい。
「まあいいや。少なくとも、今のところは味方ってことで」
考えても仕方ないし。
それにしても、なんだか雲行きがあやしくなってきたなぁ。
◆
―――奏多が仁和寺風香を殺し、アルティアの王城でガルダークの執務室で事の顛末を話し、そして退出した後。
奏多の予想通り、そこでは再びガルダークとその娘、アリシアが顔を合わせていた。
「それで、どうだった?」
「……何も、宿していませんでした。信じ難い事ですが……恐らくカナタ様には、『罪悪感』が存在しません」
「……そうか」
狂気。
その世界に身を置いてきたこの二人からすれば、人を殺めたが故の狂気を宿さない奏多は、奇怪に映る。
異常、異質、異様、異色。
むしろ、恐怖と言い換えてもいい。
「……消しますか?」
「ガッハッハ、我が娘ながら発想が恐ろしいな!」
光の消えた目で平然と暗殺を提案するアリシアに、ガルダークは苦笑いを浮かべる。
しかし、アリシアの表情に笑みはない。
「カナタ様は危険過ぎます。確かに、突然異世界に召喚された彼も被害者です。しかし、それとこれとは話は別。私達の使命はあくまでこの国の民を守ること。元の世界に還せない以上、彼には悪いですが、それが一番の得策かと」
アリシアは淡々と語る。
それが本気の言葉だと理解したガルダークは、先程までの笑みを消した。
「だが、誰がやる?同じ勇者であるフウカを無傷で下したカナタだ。そう簡単にはいかないぞ?」
「第一期勇者の彼女に任せるのはどうでしょうか?」
「『戦乙女』ハナサキ・カオリか。確かに彼女ならば確実に始末できるだろう。だが……何がお前をそこまで駆り立てる?」
「使命感。ただ、それだけです」
「ふむ……」
ガルダークは顎に手を当て、しばしの間熟考する。アリシアはそれを黙って見ていた。
「ダメだ」
「父上」
「二度は言わん」
尚も食い下がろうとするアリシアを、ガルダークは一言で黙らせる。
「我はまだ、カナタが『神子』である可能性を捨てていない。それに、我はカナタが危険だとも思えない」
「……理由を聞いても?」
「理由はない。だが、危険といって処分するには我々は彼のことを知らなすぎる。違うか?」
「しかし……!」
「アリシア」
少し語気を強めたガルダークに、アリシアは続く言葉を飲み込んだ。
そんな自分の娘に、ガルダークは息を吐く。
「カナタ達は第五地区に行くらしい。アリシア。お前はすぐに身支度を整え、後を追え」
「……なぜでしょうか?」
「なに、カナタの事をよく知るためだ。奴を隣で見て、それでも危険だと判断するならば始末して構わん。お前の一存に任せる」
「……分かりました」
「ああ、面倒なことになるから、素性は隠すようにな。もしも危険に晒されたら迷いなく明かしていい。まあ、お前なら大丈夫だと思うが」
「ふふ、ありがとうございます。では、失礼しますね」
第一皇女であるアリシアに、監視役を任せる。
普通ならありえない話だが、相手は国の切り札となり得る勇者であり、そしてアリシア自身にもっと経験を積んで欲しいという思惑ゆえの決断だった。
こうして、アルティアの第一皇女アリシアは奏多の後を追い、第五地区へと向かった。
学校が始まりました。大学が結構遠いので、春休み中一度も合わなかった友達もいます。
そのうちの一人が、ド派手な金髪に変わっていました。
なにがあったんや……
というわけで、これで第一章は終わりになります。保留にしていた第一章のタイトルもつけておいたので、良ければご確認下さいませ。
では、これからもよろしくお願いします。




