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MOTHER・LAND  作者: 孝乃 ユキ
Episode.009 闘技の祭典
122/122

P.122 人体合成獣(1)

 シャクルのがカヌイと出会った頃、会場ではミネアとキリの試合が続いていた。



「このッ!猫みたいにちょこまかと逃げんなミネア!!」

「攻撃されたら逃げますよ普通!」



リング中央でキリが両手から繰り出す斬撃を、クルクルと縦に横にと回転させて躱し続けるミネア。時折キリの攻撃が大振りとなる瞬間は、ミネアのしなる足蹴が襲い、息もつかせぬ攻防が繰り広げられていた。


この展開に会場は湧きに湧く。『国王』としてのキリ。『メイド』としてのミネアの、戦うとは無縁に近い両者の戦いと強さに開いた口が閉じれぬ者もいる。


VIP席ではアラーケとロンも大盛り上がり。



「うっひょ~!ミネアちゃん強いのぉ~!」

「ほらほらキリの旦那ァ!このままだと負けちまうぞぉー!んでミネアちゃんも頑張れー!」

「しかしアラーケよ…」

「ん?どうした?じいさん」

「何故…何故ミネアちゃんは短いスパッツを履いておるんじゃァ~!!あんなにクルクル回っておったら、スリット入りのスカートでパンチラし放題じゃろうがァ~!!」

「バカ野郎じいさん!そんな時はジャンプ&着地の乳揺れを見て楽しむもんだろぉ~!!」

「なんとォ!?…忘れておったわ…ビ…ビバ――…」


「「…――Fカップ♥」」



各自体で『F』の字を作り、天を仰ぐ2人。



「………」

「………」

「……リーシェちゃん?」

「?…どうかしたの?」

「うおぉぉ~!!アヤメちゃんにユーネちゃん!早く戻ってきてぇ~!!」

「虚しいのじゃ~!!」



両手両膝をつき、悲痛な叫びを上げる2人を見下ろすリーシェは、首を傾げて再びリングのミネアとキリの戦況を見つめた。



「…どっちと戦っても楽しそう…今度お願いしてみようかしら」



そう楽しそうな笑みを浮かべるリーシェの視線の先では、全く攻撃が当たらない事に苛立ちの表情を浮かべるキリが。



「…――ったくホント猫みたいに逃げやがって…!ちったぁ当たれ!」

「嫌ですっ…って!こんなっ…攻撃っ…当たりたくも…ないです!!」



ブンブンと風斬る斬撃を躱しながら答えるミネア。ギリギリをマザー刀が掠めていくだけで、ちょっと押されたような感覚すらあるキリの攻撃は、当たらずともその威力はわかる。パワーファイターでもない、非力なミネアが喰らったら吹き飛ばされるのがオチ。マザー保護があっても、ミネアにとっては命懸けの戦いの感覚と同じ。


少し大振りになった斬撃を最後に、後ろに大きく跳んで間合いを開けたミネア。


数分ぶりに離れた両者の間合い。しかしミネアの肩だけが大きく揺れる。



「はぁ…はぁ…」



対するキリは小さいため息程度。



「どーしたミネア、もうバテたか?」

「それはバテますよ…こっちは避けるのに必死なんですから…ちょっとは手加減して下さいよ」

「いやいや、最初に言ってた事と違う事言ってっし…それにリードしてんのお前の方だからな?」

「それにしては余裕ですね…わたしがバテるのを待つなんて」

「おっと、バレてたか」

「やっぱり…」

「バレてんなら始めっか」

「えっ、ちょっ…!!」



そう言うキリは再びミネアに向かい斬撃を繰り出し始める。息も整わぬまま、ミネアも慌てその斬撃を躱す。


再び始まる戦いに湧く会場。しかしいっこうに当たらぬキリの攻撃に、その会場からは「いい加減当てろ」や「何やってんだ」のヤジも飛び始めていた。このヤジに客席のアヤメは不満顔。



「何よあんな事言って…キリさんだって手を抜いてる訳じゃないのに…」

「そうですね。でも素人目に見れば、当たらぬ攻撃を繰り出すだけのもの。ですが実際は、今の戦い方こそ宮殿王が出来る本気の戦い…」

「へ?」

「実際の戦いなら、体格差を利用しての強引な力押しでいけば、おそらく宮殿王に分があります。ですがこれはポ

ンイントバトルで、あと1ポンイントでも取られれば宮殿王が負けるという所。だから今の戦いになってるんですよ」



この含みある発言に、「出たよ、武人しかわかり合えないゾーン…」っとアヤメの表情は『無』となった。


そして同様の会話はVIP席のアラーケ達も……



「つまりはどういう事?リーシェちゃん」

「ミネアは拳法家。軽打でリーチは無くとも、出の速さと手数の多さが武器。それに脚力強化のファイター型で、疾さは常人以上。おじ様は根っからのパワーファイターで、疾さは常人並…下手にポイントボールを狙っておじ様が踏み込めば、ミネアはその隙を逃さない。自分のポイントを許しての捨て身に移れる」

「なるほど…でもそれにしちゃあキリの旦那は攻めてないか?」

「あれは攻めてはいないわ。守りの戦い方よ」

「はい?」

「忘れたの?おじ様はあと1ポイントも相手に渡せないのよ。もし焦って相手のポイントボールを狙えば、意識は攻撃の方に傾くわ。でも守りに意識を置き、ぼんやりと見た『ミネア』という個体にただ剣を振るうだけ…剣に意識を置かない、ただ振り回すだけの剣でも、おじ様の攻撃の威力は相当…逃げるしかないわね」

「えっとつまり…ブンブン振り回される旦那の攻撃を躱すしかなくなったミネアちゃんは…」

「どんどんスタミナが削られていき、動きは鈍くなる」

「なら無理なくポイントを奪えるってか!」

「そう。でもどうかしら?」

「え?」



クスっと笑うリーシェは、空にある炎のタイマーを見る。その表記は残り5分程。



「ミネアのスタミナか、おじ様が勝負に出るかの我慢比べね。残り時間は」



そう言ってリングに視線を戻すリーシェ。アラーケは数回頷き、リーシェを追ってリングに視線を向けようとした所、何やら辺りをキョロキョロとするロンの姿が目に入る。



「どうした?じいさん」

「…今、ちょっと揺れんかったか?」

「こんだけ観客がいるんだ、ちょっとくらい揺れたりするだろ?」

「いやそういう揺れじゃないんじゃ…下からこう……リーシェちゃん、おっぱい揺れんかったか?」

「おーい、どこで質問しちゃってんだよ~」



アヤメとユーネ不在に、アラーケがツッコミに廻る。



「ん~…ちょっと揺れたかも」

「しかも返すんかいっ!」

「…ツッコんだ方がよかったかしら?」

「槍持って『?』つけちゃダメよ!ダメ、ね?ツッコむ事は大事だけど、(それ)を突っ込む事で、いっぱい血が流れちゃ――…」



っとアラーケが言いかけた瞬間、ピシッ…!!っと渇いた音が足元から響く。この音はアラーケの真下で起き、リーシェやロンを含めた3人の耳にも届いた。



「あら?」

「ピシ?」

「何じゃ?」



同時に3人が視線を下げると、アラーケの足元には50センチ四方にはしるヒビがあった。その見つめるヒビは、まるで大木が折れる時の「バキッ」っという音を発て、2~3メートルの地割れを起こす。



「いィっ!?」

「のわァ!」



割れる地面にバランスを崩すアラーケにロン。そして何かが地割れから隆起してくるように、割れた地面が持ち上がり――…




 ドッガァァァッ!!




突如爆発でもしたかの衝撃を会場にはしらせ、アラーケらのいたVIP席周囲10数メートルを噴き飛ばす。宙を舞う瓦礫に噴煙。



「なっ、何だァ!?」



衝撃はもちろんリング上の2人にも伝わり、キリもミネアも驚き動きを止める。舞い上がる瓦礫と噴煙。そして巻き込まれた観客も宙に舞う光景。



「おいおい派手な花火だな」

「キリさんあそこ!何かいますよ!」



ミネアが指差す噴煙の中。1つの巨大な黒い影が瓦礫に混ざり舞っている。



「確かにいるが、これは…」



引きつるキリの表情の先からは、低空に飛んでくる瓦礫が迫ってくる。



「逃げるぞミネア!」

「はい!」



走り出すミネアとキリの後には、次々に落下してくる瓦礫。その瓦礫は周囲の観客席にも降り注ぎ、悲鳴と混乱を巻き起こす。


そして瓦礫に遅れてリングを囲う芝生に落ちる、噴煙に紛れた巨大な影……それは着地と共に巻き起こる風により姿を見せた。亀の甲羅にサメの背ビレを生やし、2つのサメの頭にヒレを脚にした体長10メートル越える怪物…あのシャクルとカヌイが遭遇した合成獣(キメラ)だった。



「…――っだよありゃ!?」

「キリさん前!」

「は?」



ミネアの声に走る前方に視線を向けると、先にある選手入場口から何10人もの出場者達が、何から逃げるように飛び出してくる。



「おいおいまさか…」



その『まさか』…逃げる出場者達の頭の上を飛び越し、体長は5~6メートルはあろうトナカイのような巨大な角を持ち、フサフサの尻尾が4本の真っ白な毛並みをした狼が飛び出してきた。



「ゴオォォァォォッ!!」

「ウォオォォォッ!!」



突如現れた2体の合成獣(キメラ)の咆哮が会場を揺らす。


会場は降り注ぐ瓦礫に、突如現れた2体の合成獣(キメラ)に大パニック。我先にと逃げ出す客達にぶつかり、ハヤを抱えたまま尻もちをつくアヤメ。



「あ痛っ!」

「姫!大丈夫ですか!?」

「っ…ちょっと痛いけど大丈夫です。ハヤちゃんは大丈夫?痛くなかった?」



そう言って抱きかかえたハヤの頭を撫でると、ハヤは「うん」と頷き、合成獣(キメラ)のいるリングに視線を向ける。駆け寄るユーネに手を借り立ち上がるアヤメも、現れた合成獣(キメラ)を呆然と見つめた。



「ユーネさん…何なんですか?あれ…」

「あれは合成獣(キメラ)…何でここに…」

「き…きめら?」



首を傾げるアヤメの腕の中、ハヤが突然アヤメの服を「ねぇねぇ」と呼ぶように引っ張った。



「ん?どうしたの?ハヤちゃん」

「あのコ、さっきから『助けて』って言ってるよ」

「え?あのコ…?」

「うん、あのコ」



大きく頷き、ハヤは白い狼の合成獣(キメラ)を指差した。


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