P.120 合成獣(1)
「さぁ両者リングに出揃いました!モルハスのトップに君臨するララグド宮殿王に挑むのは、ヒューマ三大国家の1つ、ランティ城のメイドにして元賞金首!ミネア=リステナだァ!!」
レフェリーの声に歓声は更に湧き上がり会場を揺らす。
歓声に湧く観客席の一部、皇族の席で1人浮かない表情のファラン。その様子に、隣に座る皇帝ザウランが視線を向ける。
「どうした?ファランや」
「えっ、あ…いえ…何も…」
「『ランティ』の名は聞きたくもなかった…そう見えるが?」
「ち、父上!そのような事は…」
「まぁよい。気持ちはわからぬでもないが、お前を甘やかし過ぎたわたしの責任だ。ランティを恨むような顔をするな」
あの舞踏会での一件は、他の証言から皇帝ザウランの耳にも入っていた。もちろん婚約者であるアルシェン姫…アヤメを売った事も。
ファランは咄嗟に言い返そうと立ち上がるも、言葉を噛み殺すように己の太ももを拳で殴り、不機嫌そうに着席する。
「――…父上…」
「何じゃ?」
「僕は諦めてませんよ。事が落ち着いたらまた、アルシェン姫に会いに行きます」
「ファラン…アルシェン姫の前に、お前自身がもっと強く成長せねば、何の意味も無いのだぞ」
「そんな事はわかってますよ…」
渋々了承した返事をするファランは、椅子の肘掛けで頬杖をつく。ザウランとは反対方向に向き、頬杖の手で隠れた口で小さく呟いた。
「…アルシェン姫…待ってろよ…」
憎悪すら感じられる表情のファランを見つめる、隣のザウランの更に隣、ファランの兄となるカウラン。仮面の下の目はファランをジっと見ている。小さく息をはき、視線を観客席に移す。そして無言のままに、誰かを捜すように視線だけを回し始めた。
「ふっ…」
すると突然鼻で1つ笑うカウラン。ある箇所で視線を止めたまま、ゆっくりと立ち上がる。
その姿にザウラン、ファランが「どうした?」っと見上げると…
「ファラン…お前の事はおれが"強く"してやる。それからだ。それからアルシェン姫への想いを遂げろ…」
「と…遂げろ…?」
意味深なカウランの言葉に首を傾げるファラン。当のカウランは1人の兵士に「一緒に来てくれ」と伝え、皇族席から兵士と共に去っていく。
カウランの去った後を呆然と見つめるファランに対し、ザウランは空いたカウランの席を見つめる。
「………」
カウランの去った会場では、リング上でポイントボールをまとい、それぞれの武器を手にしたミネアとキリが既に向き合っていた。
「まさか相手がお前だとはな、ミネア」
「それはわたしもですよ…あんなに出場者がいたのに、初戦から味方同士で当たるなんて運悪すぎですよ、わたし達は」
「そうか?オレとしてはありがたい組み合わせだけどな。ヘタなザコと当たるより、最初っから『当たり』ってわかるお前とかの方が、全力出せっからな」
「全力って…まぁ女相手だからって、手を抜くような男よりはマシですがね」
そう言ってミネアが構えると、キリも笑みを浮かべて構えた。
「オレもただの"女"には優しくするが…武器を持ち、志ある"戦士"には全力出さねぇと失礼ってもんだろ?」
「わたしはメイドです。戦士になった覚えなんてありません」
っと言って不機嫌そうに頬を膨らますミネア。
「あれ?オレ褒めたつもりなんだが…」
そんな2人の間に立つレフェリーが、構えた両者を「始めていいのかな…?」っと確認しながらゆっくりと手を上げる。上がる手に合わせ、ミネアとキリの足に力が込められた。これにレフェリーは「あっ、OKなのね」っと数回頷きコールする。
「お互い王家に絡みがあるから知り合い同士のようですね?しかし今からは敵同士!あっ、でも国家のモメ事にはしないで下さいねー?」
「あーっ!うっせぇなお前!!前置きはいいからさっさと始めろ試合を!」
「はっ、はいィ!!」
キリの怒声にビビったレフェリーが全身を強張らせ、きおつけの姿勢となった事で下りた手。これを「開始の合図でいいや」とキリがミネアに向かい駆け出した。
「よし来いミネア!!始めっぞ!!」
「えっ!?あっ、ちょっと!」
慌ててミネアも駆け出すと、レフェリーも慌てて開始のコール。そしてバトル巻き込まれぬようにとリングの端に走っていく。
「先に動くなんてズルいです!」
「たいして変わんねぇだろうが…よッ!!」
両者がブツかる瞬間、渾身で振り切られるキリのマザー刀。横殴りの一閃をヒラりと側宙で躱すミネア。
ミネアとキリ、体が互いに上下逆になった所。空中でミネアが体を捻らせ、鞭のようにしならせた蹴りをキリの頭のマザーボールに打ち放つ。
「うおっ!」
サッ!っと身を引くキリの鼻頭を蹴りが掠めてく。空振った蹴りによりミネアの背がキリに向いた瞬間、振り切られるのは余すキリのもう一刀。
「ボール関係無しですか…っ!」
迫る刀にミネアの体が再び回転。逆さになったまま、クロスした両手のトンファーがキリの一撃を受け止めた。
だが真正面ではなく、いなすように斜に構え、キリの攻撃の反動を利用し縦に回転するミネアの体。そしてその体勢から放つ蹴りが、キリの頭のマザーボールを破壊する。
空中の炎の数字がカウントされると共に歓声に湧く観客席。
「あっ!しまった!」
「まだまだいきますよ~…」
っと笑みを浮かべ着地を決めるミネアは、キリが体勢が整うのを待たずして再び宙に舞う。低空で捻る体から突き出す蹴りがキリの左肩のマザーボールを、サイドスローに投げ放つトンファーが右肩のマザーボールを破壊。
「げっ!!」
「これでリーチですよ?キリさん」
着地を決め、笑顔でキリに向くミネア。会場もほんの数秒で一気に4対0になった戦況に湧くと言うよりも静まり返る。
「…すっ…すごい!すごいぞこれは!まさに電光石火!!ミネア選手があの豪腕宮殿王に無傷でリーチをかけたァーッ!!」
静まり返る会場にレフェリーの声が響くと、呼び起こされたように湧き上がる観客席。
「いいぞメイドちゃ~ん!」
「べっぴんのくせにイイ蹴りしてんな~!」
「おらおら宮殿王!男みせろー!」
響く賛美の声に、ミネアはまた赤くなりながらペコペコと頭を下げ始めた。指笛の鳴る客席のアヤメも、ハヤを抱いたまま嬉しそうにミネアを見つめる。
「すっごぉ~い!ミネア!あのキリさん相手にもうリーチだぁ」
「あの人もお姉ちゃんのお友達なの?」
「うん。お姉ちゃんのお姉ちゃん…かな」
「お姉ちゃんの…お姉ちゃん?」
いまいちよくわかっていない様子で首を傾げながら、ハヤもミネアを見つめた。その横に立つユーネはポカーンっと口を半開きしたままリングを見る。
「…ミネアさんって、本当にメイドなんですよね?」
「え?はい」
「兵士じゃないんですよね?」
「違いますけど…お城じゃ1番強かったらしいですよ」
「え?」
「何か実戦訓練に参加して、お城の一等兵士だったかな?それを200人全部倒しちゃったらしいですよ」
「ぅえっ!?」
「んで、その時の婚約者の彼を一撃KOしたらしくて――…ハっ!私がこの事バラした事、ミネアには黙ってて下さい!ミネアに殺される~!」
「えっ、あ、大丈夫ですよ。バラしたりしませんから大丈夫です…」
「ハヤちゃんもだよ?言っちゃダメだからね?」
アヤメの言葉にハヤは大きく頷き何故か手まで上げる。
「でもそれだけ強かったら、姫の護衛としては最適ですね。同じ女性同士ですし」
「そうですね。アルシェン姫も助かってたと思いますよ」
「へ?」
「え?……あっ、あ~いやいや助かってましたよー!アハハハ~!」
つい他人事で答えてしまい、焦った笑いでゴマかすアヤメ。
「大丈夫です?姫…」
「え?だ、大丈夫ですよ!全然全然!アハハハ~!」
アヤメのゴマかし笑いが続く中、リング上ではキリが転がるトンファーを拾い上げ、ミネアに向かい投げ渡していた。
「…ったく、油断しちまったぜ…さすがだな、ミネア」
「ふふっ、ありがとうございます」
笑顔でトンファーをキャッチし、小さく一礼をするミネア。
「キリさんも早く本気できた方がいいですよ。まだ本気じゃない事はわかってますからね」
「ハハっ、だな。確かに本気でいかなきゃマズい点数だしな…どれ、そろそろ続き始めるか」
「はい、喜んで」
再び両者向き合い構えると、同時に地を蹴り駆け出した。




