第三十五話 18時を待つ街
2027年3月16日(火) 17:03
大阪市内。
先ほどまで街を覆っていた喧騒は、幾分か落ち着いていた。
人々の手には、まだスマートフォンが握られている。
どの画面にも、同じ文章が表示されている。
【政府からの緊急情報】
本日18時、内閣総理大臣から国民の皆様へ重要な説明があります。
「重要な説明って、何だよ」
「やっと政府が説明するのか」
「今さら何を言うんだ」
「こんなの見てられるか。俺はいくぞ」
「でも、一応見てみようかな。何か分かったのかもしれないし」
「政府は何か知ってたんじゃないのか」
「明日のことじゃない?」
「だから、それが何なんだよ」
あちこちで声が飛び交う。
誰も答えを知らない。
それでも、先ほどまでとは少しだけ違っていた。
駅へ向かう者。
店の列に並び続ける者。
その場で誰かと話し込む者。
人々の行動は、それぞれだった。
見る者。
見ない者。
期待する者。
疑う者。
それでも――
18時。
その時刻だけは、確実に人々の中へ広がっていた。
◇
2027年3月16日(火) 17:57
東京 新聞社。
編集部に並ぶテレビには、各局の放送が映し出されていた。
17時57分。
一つのローカル局を除き、画面が次々と切り替わっていく。
『まもなく内閣総理大臣から、国民の皆様へ重要なお話があります』
『このあと18時より、内閣総理大臣が国民に向けて――』
『総理からの発表まで、あと3分です』
相沢は自分の席から、黙ってテレビを見つめていた。
隣にいた記者が腕を組む。
「この状況で、何を言うんだろうな……」
「……」
相沢は答えない。
ただ、画面を見つめている。
やがて、壁に掛けられた時計の針が18時を指した。




