第二十五話 それぞれの日常
2027年3月13日(土) 15:42
新大阪駅。
午後のホームを、多くの人が行き交っている。
キャリーケースを引く若い夫婦。
大きなリュックを背負った学生。
何度もスマートフォンを確認する会社員。
大きな鞄を肩に掛け、娘の手を引く母親の姿もある。
ホームへ、新幹線が滑り込んできた。
扉が開く。
車内から人々が降りてくる。
入れ替わるように、ホームで待っていた人々が乗り込んでいく。
降りる人より、乗り込む人の方が多い。
やがて扉が閉まり、新幹線はゆっくりとホームを離れていった。
◇
街では、いつもと変わらず仕事をする人たちがいる。
店先に商品を並べる店員。
荷物を抱え、ビルへ入っていく配達員。
道路脇に車を停め、工具を手に作業を続ける作業員。
時折、誰かが空を見上げる。
それでも、手は止まらない。
◇
歩道を歩く数人の若者たち。
何がおかしいのか、一人が声を上げて笑う。
隣の友人がその肩を叩き、また笑い声が上がる。
そのうちの一人が、ふと空を見上げた。
つられるように、皆が顔を上げる。
巨大な紋様は、今日もそこにある。
一人がスマートフォンを取り出し、空へ向けた。
そしてまた、何事もなかったように話し始める。
◇
スーパーの自動ドアが開く。
両手いっぱいに買い物袋を提げた女性が出てきた。
自転車の前かごへ袋を入れる。
入りきらない。
後ろの荷台にも袋を載せ、紐で固定する。
米。
水。
レトルト食品。
缶詰。
いっぱいになった荷物を確認すると、女性は自転車にまたがった。
重くなった車体をゆっくりと走らせていく。
◇
小さな仏壇の前に、一人の老女が座っている。
線香に火をつける。
細い煙が、静かに立ち上っていく。
老女は手を合わせた。
しばらく、そのまま目を閉じている。
やがて目を開けると、もう一度、深く頭を下げた。
◇
働く人がいる。
笑う人がいる。
備える人がいる。
祈る人がいる。
ほかにも、数えきれない人々が、それぞれの日常を過ごしている。
街には車が行き交い、電車が走り、人々がそれぞれの場所へ向かっている。
視点が、ゆっくりと高くなる。
人の姿が小さくなる。
車が小さくなる。
ビルが小さくなる。
やがて、大阪の街並みが眼下に広がった。
その上空。
巨大な紋様が、変わらぬ姿で浮かんでいた。




