第十二話 動いた紋様
2027年3月10日(水) 14:49
大阪府庁 危機管理室。
電話の呼び出し音と、キーボードをたたく音が絶え間なく響いていた。
職員たちは関係機関との連絡や情報整理に追われ、知事も次々と報告を受けながら指示を出している。
壁面の大型モニターには、府庁屋上の定点カメラが映す大阪上空の巨大な紋様が、朝から変わることなく映し出されていた。
その時だった。
資料を抱えて室内を横切っていた一人の職員が、何気なくモニターへ目を向ける。
足が止まった。
「……?」
目を凝らす。
何かがおかしい。
「おい、どうした。」
近くの職員が声を掛けた。
「……いや。」
職員はモニターから目を離さない。
「今、何か変わった……気がします。」
その言葉に知事が振り返る。
「どこだ。」
「いや、動いた気がするだけで……見間違いかもしれません。」
「いいから、どこだ。」
職員は戸惑いながら紋様の一角を指差した。
「……この辺りです。」
知事は大型モニターの前へ歩み寄る。
「巻き戻せ。」
職員が録画映像を呼び出す。
画面上の時刻表示が高速で過去へ戻り始めた。
雲が逆方向へ流れる。
鳥が後ろ向きに空を横切る。
巨大な紋様だけが、変わることなく空に浮かび続ける。
その瞬間。
紋様の一部が、別の形へ切り替わった。
「……変わった。」
誰かがつぶやく。
しかし、高速逆再生はそのまま流れていく。
「止めろ!」
知事の声が危機管理室に響いた。
「今の場面だ。通常速度で再生しろ。」
職員が操作する。
室内にいた職員たちが次々と大型モニターの前へ集まった。
映像がゆっくりと再生される。
雲が流れる。
巨大な紋様は静かに空へ浮かび続ける。
誰一人として声を発しない。
そして――。
カチッ。
紋様の一部が、確かに変化した。
誰も声を上げなかった。
その場にいた全員が見ていた。
変化が無いと思われていた紋様が、確かに動いた瞬間を……。
室内を沈黙が包む。
その沈黙を破ったのは、知事だった。
「出現直後の映像を。」
止まっていた危機管理室が、一斉に動き出す。




