プロローグ
世界が終わるはずだった。
空には巨大な亀裂が走り、まるでガラスが砕けるように世界そのものが悲鳴を上げている。
大地は崩れ、海は逆巻き、遠くに見える王都の城壁さえもゆっくりと崩壊していた。
俺たちは敗北した。
《終焉の王》。
エターナル・フロンティア最後のレイドボス。
サービス終了前に運営が用意した、史上最大の討伐イベント。
数万人のプレイヤーが集結した。
有力ギルドはもちろん、中堅プレイヤーも、生産職ですら支援に回った。
ありとあらゆる戦力を投入した総力戦。
それでも届かなかった。
巨大なボスのHPバーには、あとわずか数%が残っている。
ほんの少し。
本当にあと少しだった。
「これ、無理じゃね?」
誰かがチャットへ打ち込んだ。
その言葉に反論する者はいない。
全員が理解していたからだ。
負けたのだと。
その直後だった。
視界いっぱいに赤いシステムメッセージが表示される。
《世界崩壊イベントが開始されました》
次の瞬間、空が割れた。
轟音と共に巨大な亀裂が広がり、世界を覆っていく。
大地が沈む。
街が崩れる。
ダンジョンが消える。
俺たちが何年も冒険してきた世界が、目の前で終わっていった。
誰も言葉を発しない。
ただ崩壊を見つめていた。
俺――シモンも、その一人だった。
崩れかけた丘の上に立ち、遠くの景色を眺める。
隣には長年連れ添った召喚獣たち。
風狼フェン。
精霊ノア。
火竜イグニス。
どいつも普段は騒がしいくせに、この時ばかりは静かだった。
まるで世界の終わりを理解しているかのように。
「結局、サービス終了イベントだったのか……」
小さく呟く。
寂しさはあった。
この世界には思い出がある。
仲間がいた。
ライバルがいた。
何度も挑んだレイドがあった。
最強ではなかったが、それなりに必死で駆け抜けてきた。
だからこそ終わるのは少し惜しい。
俺はメニューを開いた。
時計を見る。
サービス終了まで、あと数秒。
ついに終わりだ。
最後にログアウトボタンへ視線を向ける。
その時だった。
フェンが空を見上げた。
ノアも。
イグニスも。
何かに気付いたように。
「……?」
違和感を覚えた瞬間。
世界が白く染まった。
眩い光が視界を埋め尽くす。
耳鳴りが響く。
身体が浮く。
まるで世界そのものに飲み込まれるような感覚。
そして――
俺の意識は途切れた。




