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It’s my life  作者: やまと
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過去が追い付く時

飛びぬけて高いルーカスの身体能力に、彼が軍人であろうことを確信する。

しかし、その確信こそが疑心の引き金だった。

ボット免許所持者四人の中に軍人がまぎれこんでいる可能性は高く、その摘発の重要性もよく理解している。

一時的な隔離と様子見で分かったことは特になく、外と連絡を取る様子もないのが厄介だった。

軍人の体格規定に最も近いのはザック。次いでラスカだが、こちらの方はややオーバーしている。

圧倒的に満たしていないルーカスとリヒトだが、身体能力、およびボット操縦技術に関しては特出していた。

リヒトに至っては大型特殊生物を単独で撃退した記録も残っている。

軍という組織が能力主義で、多少の規定違反に目をつぶることを考慮すれば、全員が軍属である可能性を捨てられない。

そして、たった今、見せつけられた制圧戦闘能力。

明らかに戦闘技能を持つ二人が、しかし、指示を仰いだのは小柄なルーカス。

リーダー的存在が彼だとして、けれど、我らのボスが求めたのは、唯一戦闘技能を持たない、出遅れた男だった。

「君、こっちへ」

指示つきでリヒトを呼び出せば、真っ先に反応したのはザック。

身を乗り出すところを、数人がかりで押しとどめた。

「悪く思うな。こちらも仕事だ」

おとなしく寄って来た青年の肩に腕を回し、悪いようには扱わないとアピールする。

「君たちが余計な手間をかけさせなければ、互いに有利になるよう手配しよう」

「安全を保障してくれるんじゃないのか」

「残念ながら、私にその権限がない」

呼び出したリヒトを、ボスがどう扱うかは想像できない。

長く宇宙を流離う流浪人であるクエンスたちは、宇宙の辺境で、思わぬ仇に出会うこともままある。

どちらにせよ、普段は堅物で通っているボスが唯一見せた私情を、かなえてやりたい。

「ここで全員死ぬか、ここはひとまず生き延びるかだ」

「…ザック」

腕の中に、正確に言えばボットの腕だが、とにかくすっぽり収まってしまう小柄な少年が、静かな声で名を呼ぶと、今にも飛び掛からんと身構えていた男の剣幕が静まる。

「大丈夫、だから…」

なだめるような穏やかな声。しかし、指先から伝わるのは確かな不安。

二人がよき友人であることは、傍から見ても明らかだった。

そこへ、通信が入る。

告げられた命令に、咄嗟に不満を返したが、取り合われることはなかった。

「そいつも連れてこい」

指示通り、ザックを拘束している部下に命を下せば、今度はルーカスがわずかな動揺を見せる。

戦力が二分されるのが惜しい。

彼らにとっても不利になるが、クエンスたちにとっても、ザックのような反抗的な人物を宇宙へ運び、本部の、それもボスの近くへと連れていくのはリスクが高かった。

だが、それを指示したのがボスであるならば、彼を信じて行動するのみ。

「君たちは、おうちへ帰るんだ」

クエンスと、すぐそばに控えていた部下が、首輪の起動スイッチが付いた拳銃をルーカスとラスカに向ける。

それぞれの起爆範囲に含まれている兵士たちが、一瞬怯え、すぐに覚悟を決める。

「ずいぶん、しつけのできた犬どもだな」

ルーカスの挑発にしかし、クエンスは穏やかな声のまま返した。

「そちらには負けるよ」

銃を手放したラスカとルーカスは追いやられるようにコンテナに戻り、後ろ手に拘束されたザックとリヒトは、二の腕を掴まれ銃を突き付けられた状態で近くに待機していた飛行機体に押し込められた。

そこに居た先客に、二人は同時に息を詰める。

「早く乗れ」

小突かれて、席へと向かう。

後ろ手に組まれていた手錠が分かれ、今度は座席の手すりに拘束された。

ベルトがきつく結ばれて、いよいよ身動きができない状態になる。

見張りの二人が慌ただしく機を降りて、代わりに大きな荷物が積み込まれてきた。

向かい合っていた先客との間に大きな輸送コンテナが積み込まれ、しばらくすると、向こう側でなにか細々と会話しているのが聞こえてくる。

先生、と呼びかけられる声に、丁寧な説明が長々と加えられた。

いつもきれいに後ろで束ねられていたブロンドがぼさぼさに乱れ、疲労にやつれてはいたものの、彼女は確かにドクターケリーだった。

「最終チェック完了。いつでも行けます」

「ならさっさと行け」

「了解」

入り口で短い応答の後、数名が乗り込み、ハッチが閉じられ機内が暗くなる。

一瞬の強い振動と重力、轟音を感じた後は、ひどく静かになった。

室内にぱっと灯りがついて、けれど誰が会話を始めるわけでもなく、一つ席を開けて隣通しに座らされたザックとリヒトは、困惑した視線を向けあうだけで口を開くことはなかった。



大型戦闘艦の輸送ゲートに吸い込まれた艇はレーンに運ばれて倉庫へと移動する。

再びハッチが開くとそこはもう、宇宙空間に浮かぶ戦艦の中だった。

あれほど焦がれた宇宙への帰還は、あっさりとなされた。

こんなにも簡単なことだったかと拍子抜けするが、思い返せば、あの星に降り立つ時も同じようにあっさりとことが運んだ気がする。

身体が妙に不安定なのは、まだ重力安定圏外だからだろう。

運び出される荷物たちに、積んだ時の様な重さは感じられず、連結されたままの大きなコンテナを、ボットを装着した作業員が一人で簡単そうに運んでいった。

コンテナが降ろされるのと入れ替わりに、銃を携えた兵士が乗り込んでくる。

部下がザックたちの拘束を外している間、リーダーは気遣うようにケリーに話しかけていた。

力なくリーダーに返答していたケリーだったが、ザックの厳しい視線に気づくと、暗い表情で俯く。

「来い」

胸倉を掴まれ、運ばれる。

軽重力下での人輸送で最も効率的と言われてはいるが、いい気はしない。

ケリーの方は、リーダーの腕に捕まるようにしてエスコートされているからなおさらだ。

ボットの靴底に仕込まれた吸着装置が、床と吸い付く独特な音に連れられてしばらく進むと、エレベーターがあった。

中に乗り込むと、壁に押し付けられる。

リヒト達が慌てて踵を壁に押し付けるのとほぼ同時に、重力が戻った。

取り戻した自分の重力を支えるため、わずかによろめく。

長い廊下を進む中、途中でザックとケリーは別の道へと進んでいった。

一人だけ違う道へ誘導され、動揺を示す間もなく、いかにもなゲートの前へたどり着く。

男がパネルを操作すると、開いたゲートの先は司令室だった。

「下がっていい」

「…しかし」

「大丈夫だ、二人にしてくれ」

「了解。すぐ外に居ます」

ああ、と首肯で返した司令官の男に従って、リヒトを案内した男は部屋を出ていった。

床と天井以外を硬質ガラスで覆われた司令室は、すぐ下の制御室を全て見渡せる作りになっていた。

構造からして、ガラスはボタン一つで開閉するのだろうな、とエンジニアのはしくれとしての知識が、久方ぶりに触れる宇宙機器に喜んでいた。

沈黙が流れる。

肩に妙な装飾がある以外は、他の兵士と変わらぬ装備であるその男の表情は、濃いスモークで見えない。

「よく、生きていたな」

押し殺したような声はどこか堪えるように苦し気で。

突如男は天井を仰いで深く呼吸をした。

そしておもむろに、ボットの着脱スイッチを押す。

稼働音が響いて、開いた背中側からボットを降りた男の姿に、リヒトの遠い記憶が呼び起こされる。

新たな名前を手に入れてからずっと、リヒトは特定の人物と深くかかわる生活を避けてきた。

命の恩人と呼べる人との別れを経験して以降、そういう親しい人間関係を持つことを恐れていたからだった。

生身の身体で近づいてきた男は、未だに拘束されたままだったリヒトの腕を優しく持ち上げると、あっさりと拘束をといた。

自由になった体で、けれど攻撃的な態度に出る気にもなれず、さらに思い起こした記憶の中で衝撃を受けたままのリヒトを、男はゆっくりと抱擁した。

「会いたかったよ、ハル…」

多くのものを失ってきた。名前もその一つだった。

落として失くしてしまったものを、とっくにあきらめてしまっていたものが突然手元に戻って来たような驚き。

「デイビット…」

遠い彼方の記憶から引きあげた名を呼べば、抱きしめる腕に力がこもった。

「兄…さん…」

“家族”というものが当たり前だったあの空間。

異質だった自分の唯一の味方であった存在。

驚きに塗りつぶされて、どういう反応をすればいいかわからない。

強く、強く抱きしめてくる家族の抱擁に、けれどリヒトは、ハルは、中途半端に上げた腕の行方を失くしていた。



リヒトと引き離されたザックは、ケリーと共に別の廊下を歩かされていた。

銃を突きつけられる自分と、終始気遣われているケリー。

考えずとも、彼女の正体が敵のスパイであることがわかる。

「どんな気持ちだった?」

「おいっ…」

口を開くなとばかりに銃口を押し当てられるが、どこ吹く風だ。

「いいの。当然の反応だわ」

暗い表情のまま、ケリーはとぼとぼと、力なく歩き続ける。

ケリーを気遣う兵士が歩調を合わせるので、一行の歩みは遅い。

「こんなはずじゃなかった…」

ぽつり、こぼされた言葉をきっかけに、ケリーの懺悔は続く。

「死ぬのは軍人だけのはずだったのよ。それなのに、彼らは…どうして…」

全てはあの日、壊れてしまった。

ほとんどの軍人を飲み込み、奪い去ってしまったあの事件から、計画は嫌な方へと舵を切った。

「軍人たちを片付けて…そう、掃除してから、あなたたちを、作業員を、保護、して…それから…」

任務を終えたら、また、いつものように宇宙で、ステーションの一画で、困っている住人に薬を処方して、笑顔を取り戻す、そんな日々に戻れるはずだった。それなのに。どうして。

「傲慢だな」

「怒らないでよっ」

「怒っちゃない…」

「いいえ、あなたは怒っているわ。いつだってそうだった。あなたは常に、いつだって、ずっと怒っていたわ。何にそんなに腹を立てているか、わからなかったけど、今、わかった。あなたはいつだって自分に怒っているのよ。無力な自分に!」

「なんだって?」

「…っ」

怒り、というにはあまりにも静かな声だった。

ケリーは咄嗟に悲鳴を飲み込む。

ザックと出会ったのは星の医務室だった。

温和な表情を携えた好青年。たいていの人はザックに対してそんな印象を持つだろう。

けれど、長く様々な人を診察し、時には身の危険も感じてきたケリーには、ザックの笑顔がどこか作り物染みて見えた。

痛みをこらえて笑顔を取り繕う人達のような、隠し事を抱えた人特有の笑顔。

苦しいとは違う、寂しいにも似た、ここにはいない誰か、何かを思って浮かべる顔。

触れてはならない確信に指をめり込ませてしまったような、眠る猛獣の尾を踏んでしまったかのような絶望に、息が止まる。

「いい加減にしろっ」

一撃。

銃口を突き付けていた兵士が腕を返し、銃底でザックの後頭部を殴打した。

「ちょっと!」

医師としての本能が反射的に怪我人をかばう。

ケリーを気遣っていたもう一人の兵士が、控えめに制止する間に、追撃がザックを襲い、意識を奪った。

「先生はもう、休んでください。長い潜入でお疲れでしょう」

「でも…」

「これはもう、あなたの患者ではありません」

「…、でも…」

「疲れているんですよ。さあ、休んで」

促されて、いつの間にかたどり着いていた部屋に押し込められる。

戸惑うケリーを置いてドアを閉め、ロックをかけた兵士は、倒れるザックの腕を抱え、舞っていたもう一人と共に、引きずるように彼を連行していった。



地上では、取り残されたラスカとルーカスが別の任務を与えられているところだった。

手錠をかけた状態で連れていかれた二人は、クエンスと、その傍らに用意された装置を交互に見比べる。

「だいたい察したか?」

ルーカスの方を見て、確信を持った声でクエンスは尋ねた。

人が一人簡単に収まる大きさの筒は、治療ポッドにも似ていて、けれどその性能は全くの別物である。

珍しい装置を前に、けれどラスカの目は、その後ろで作業に追われる兵士たちに、正確にはその装置群に奪われていた。

「こんなに一度に起動したら…」

「やつらが来るのが心配か?安心しろ。ステルス行動こそ、我々の本領だ」

「システム起動。オールグリーン」

「準備完了です、リーダー」

轟々と音を立てる電子機器。持ち場に着いたオペレーターの声に、一斉に起動する。

けれど、一歩外に出れば、辺りは静寂に包まれた、自然の中の一部に完全に溶け込んでいた。


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