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It’s my life  作者: やまと
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不明瞭の不安

攻略に想定以上の時間を要していることに舌を巻く。

あちらの指揮官は優秀らしい。

自爆覚悟の大規模戦闘に、分散しての逃走。

そして降伏要員。

戦力を分散せざるを得ない戦況に加え、抱えた捕虜の管理。

密に地上と連携を取らねばならない状況で、爆撃と噴煙による通信妨害。

「己の仕事をよくわかっている」

「は…?」

「いや、こちらの話だ。地上の様子はどうだ?」

「戦闘部隊とはまだ連絡が取れませんが、不利にはならないでしょう。徴収班の作業は順調です。輸送艇の積載率はすでに60%を超えています」

「そうか。エネルギー切れには気をつけろ」

「はは、ありえませんよ。大型恒星からの光で充填は常に100%を保たれています。こんなに恵まれた環境、そう見つかりませんよね」

オペレーターの言う通り、宇宙の最果てなるこの惑星は、大型恒星の光と熱に加え、充分な水分のおかげで多彩な生命の宝庫となっている。動物だけでなく植物も豊富な生態系は、楽園と呼んで遜色ない。

「いっそこのまま…」

このまま、この星を拠点として、永住できたなら。

そんな夢の様な話を語り掛けて、オペレーターは頭を振る。

すでにこの星はやつらに見つかっている。

どれだけ大規模なアウトサイダーズだとしても、正面から戦えば、勝ち目はない。

今は、できるだけ多くの資源を奪い取って、宇宙の端で息をひそめ、何とか生き延びている仲間たちに、資源を持ち帰ることだけを考えなければ。

「少し休む。下と連絡が取れたら起こしてくれ」

「了解しました」

司令官が静かに退室すると、作戦室は静かになった。

正面のモニターに浮かぶ惑星は、恒星の光を反射して、真っ暗な宇宙の中、青く浮かび上がっていた。



地上は雨だった。

爆発と、火事によって巻き上げられた土や、爆薬に混じっていた化学薬品は、木々を、土を濁していく。

耳をすませば聞こえてくる、水滴が葉や船体を打つ音に耳を傾けながら、襲撃者のリーダーを務めるクエンスはしばしの休息をとっていた。

彼女に与えられた任務は、この星に眠っているとされる未知の兵器を徴収すること。

危険を伴う作業に、信頼できる部下の命は使えない。

手順として、まずは降伏の意思を見せた作業員の中から、作戦に使える人材をスカウトし、偵察させることで安全を確保する。

のんびりはしていられない。

第二次開拓部隊に紛れ込ませたスパイの信号を辿って亜空間転移した彼らに気づいた政府の軍が宇宙共通時間で七日もしないうちに追い付いてくるだろう。

目的の兵器がどんなものであるのかは、知らされていない。

だが、どんな兵器だろうと、それが人の生み出したものであるならば、人によって奪うことができるのだ。

常に快適を保つスーツに身を包まれながら、クエンスは静かに目を閉じる。

不定期の音を奏でる雨音に耳を傾けながら、やがて静かに眠りについた。



分厚い雲が晴れて恒星の光が地上に届いたのは、自転が半周してからだった。

切れ目から照らす日光が、薄くなった雲に反射して幻想的な風景を描いても、それを観測する者はいなかった。

「安定しました。通信、繋がります」

オペレーターの報告と同時に、コール音が断続し、やがて通信が繋がる。

不安定な音声に対し、互いのオペレーターが調節を繰り返すと、やがて声が鮮明になった。

「様子はどうだ?」

上空で待機する隊長の問いに、画面をのぞき込んでいたクエンスは背筋を伸ばす。

「問題ありません。が、むしろそれが問題です」

「ふむ。通信妨害、雨、移動直後。条件はそろっているのに、捕虜奪還の様子がない、ということか」

「はい。捕虜の様子から、軍人どもが外に潜伏しているのは明らかです。ただ、奪還できない理由もあります。こちらを」

持ち出したアーカイブから抜き取ったデータを送り付ける。

開拓者たちの活動履歴、その最初期に、襲撃により軍が壊滅したことが記されていた。

「現場の指揮を引き継いだのは害獣駆除部隊のバートレットという男です。チームの詳細は軍事アーカイブの方に記録されているため索引できませんでしたが、記録の中で各部署のチームリーダーとして派遣された記録がいくつか残っていました。拠点開発、生態調査、医療関係、採掘、それぞれに最低一名を配置、統制を取っていたようです」

「…人員配置記録はこれで全部か?」

「い、いえ、それが、頻繁に配置換えを行っていたようで。記録が膨大過ぎて、整理に難航しています」

「攪乱か、人員不足か。いずれにせよ結果としてあちらの有利に働いているな。一時的な軍事権限を与えられた者、取り消された者、記録に手を加えた様子もある。周到だな」

「解析を続けますか?」

資料は膨大で、解析が完了した時点で、潜り込んだバグを見つけ出すことはできないかもしれない。

得られる情報は莫大だが、今回の任務に有用かと言われれば、微妙だった。

クエンスの問いに、ボスもすぐに応えない。

「タークを…」

「…っ」

数時間前に始末した同僚の名前に、動揺する。

ほとんど、独断による処刑だった。

咎められれば、なすすべはない。

「処分した結果、士気はどうだ?」

「は…?」

予想していた咎めではない質問に、思わず聞き返す。

ボスは、同じ質問を繰り返しただけだった。

「私見をよろしいでしょうか」

口をはさんだのはオペレーター。

かまわん、という答えに、話を続ける。

「死体の処理、および作業の補填に回された隊員以外の士気はおおむね上昇、作業効率も上がっていると思われます」

オペレーターが追加の資料を送る。

周辺施設を利用し、奪った資源の量を記録したものだ。

比較対象が無いため、どれほど効率が上がったかはわからないが、予定していた強奪量を上回っていることだけはわかる。

奪いきれないほどの資源。それだけでも、彼らがこの星を訪れた意味はある。

兵器の奪取など、しょせんおまけに過ぎないのだ。

「無茶はするな。しかし全力を尽くせ」

「了解…」

「プランを送れ。人員が余るようなら、手を借りたい地帯がある」

「すぐにでも…おい」

すでにプランは作成済みだった。

捕虜の中にボットの免許を持っている者が少なかったため、選別の必要もなかったのだ。

採掘現場を襲撃した部隊の壊滅した知らせを受けて、応援の必要も考慮に入れていた。

相手方の大将、バートレットという男がそこそこできる軍人らしいことはわかっていたが、兵力の差はあまりにも大きい。

自分の部下を撤収させ、外に隠したのも、作業員たちを囮にし、部下だけでも無事帰還させるつもりなのだろう。

一つ、彼らにとっての誤算は、クエンスたちが人員に不足しているどころか、むしろ余らせているところだ。

捕えた捕虜を連れ去る計画は今のところない。

火山地帯で大量に道連れにされた仲間たちの大半は、ステーションを襲撃して強奪した捕虜たちだった。

失ったところで、クエンスの属するコミュニティーには何の影響もない。

「ボス…?」

プランを送信したオペレーターが、向こうの様子がおかしいことに気づいて声をかける。

上等のヘッドフォンをつけているオペレーターの耳にだけ、ボスの、どうしてお前がここに、という呻きの様な呟きが聞こえていた。

「あの…」

「こいつをここに連れてこいっ!」

「は…っ!」

受信音量をオーバーして、ノイズが混じる。

鼓膜を破壊せんが如くの強い口調に驚くクエンスたちに気づいて、ボスが我に返る。

「す、すまん。悪いが緊急だ。迎えはこちらが出す。すぐに彼を…」

「いえ、こちらから送り届けます。すぐにでも…」

「そうか、すまない」

「問題ありません。しかし、ボス…彼は、一体?」

「……」

答えが返ることはなく、クエンスは早々にあきらめて、部下に指示を出すのだった。



首の爆弾を抜き取った後は、ひたすら体力を温存しろというルーカスの指示に従って、リヒト達は床に寝そべって休息をとっていた。

電源を切られた居住区は天然の牢獄と化し、自動扉は開けられない。

「ってわけでもないんだろ?逃げちまおうぜ」

緊急脱出用のハッチを開けば、簡単に逃げ出せることを知っているザックが、こっそりリヒトに耳打ちする。

しかし、よく通る彼の声は、潜めたところで、静かすぎる空間によく響いた。

「雨、夜、移動直後。確かに脱出および襲撃には適した条件だなァ」

ルーカスの呟きに、けれどザックは悪びれる様子はない。

「お相手さんもそう思ってるだろうよ」

付け加えたのは、ラスカだった。大柄な体を部屋の隅に押しやって、狭そうに足を組んでいる。

「碌な装備もなく、このきったねぇ雨の中、フル装備の敵相手にチェイスしたいってんなら俺は止めねぇぜ」

「いや、お前は止めろよ」

唯一、首輪の爆薬が除去できていないルーカスは、脱出に気づかれた時点で真っ先に犠牲になるだろう。口ぶりからして、共に脱出する気はないようだし、ザックたちが逃げ出して一番被害をうけるのはルーカスだ。

「…怖くないの?」

思わず零れたリヒトの呟きに、室内に静寂が戻る。

機体に打ち付ける雨の音が静かにあたりを支配する。

怖くない、と言えばうそになる。けれど覚悟していたことでもある。

「怖いのは、たぶん、死ぬことじゃねぇんだ」

こういう時、いつも答えを返してくれるのは、ザックだった。

「先がわからないことなんだよ。死んだあと、どうなるかわからないだろ?だから怖い。俺たちはこの後、どうなるかわからないだろ?つまりそれは死ぬのと同じくらい怖いんだよ」

「めちゃくちゃ怖いじゃねぇか」

迷惑そうにラスカが言った。こんな状況で、恐怖についてレクチャーが始まるとは思っていなかっただろう。

「でもよ、わかんねぇってことは、悪いとは決まってねぇってことじゃねぇか?」

「…何、言ってんだ、お前」

「だからつまりよ、今まで生きてきた中でだって、いいことも悪いこともあっただろ?でもそれって、常に予想できたわけじゃねぇだろ?」

「…あー、つまりあれか、捕虜になったこの状態でも、明日にはチャンスができて一気に問題が解決してハッピーになれる可能性があるってことか?」

こういう話題に、ルーカスが乗ってくるとは思っていなかったが、その答えに、ザックは思いのほか嬉しそうに、その通り、と答えた。

「究極のポジティブ思考かよ」

やや馬鹿にした物言いではあったが、呆れの中に確かな賞賛を感じる。

ザックが満足そうな息を吐くのに、ラスカが最後に「全然意味が分からねぇ」とあきれた声で呟いた。

「…つまり、死んだ後も実はハッピーかもしれないってこと?」

「……」

「…」

「………」

全員が静まり返った後、やや遅れて話題に追い付いたリヒトの呟きに、反応する者はいなかった。



いつの間にか、眠っていた。

眠っていたのはリヒトだけかもしれない。

いや、少なくとも隣に居たザックも眠っていたようだった。

突然入れられた電源と、慎重に開けられたハッチから覗く銃口と、無遠慮な侵入者に、咄嗟に反応できなかった。

「来い」

乱暴に掴まれた腕。引きずられる身体。痛みを感じて反射的に抵抗すると、より乱暴な動作が返ってきた。

「やめろっ」

寝ぼけた思考でザックも本能的にリヒトをかばう。

抵抗には暴力が返る。

ザックを狙った容赦のない暴力はしかし、寸前のところでルーカスに防がれた。

視界の狭いヘルメットでは、小柄なルーカスが突然目の前に現れたように見える。

直後、ルーカスの背後からラスカの巨躯が視界に入れば、驚きと危機感に一瞬のパニックを引き起こすのは必然だった。

最初に前に出たのはルーカスだった。小柄で素早いのもあったが、覚醒までの時間が短かったためでもある。

やや遅れて、ザックが続いた。リヒトの危機を理解すると同時に、覚醒していた。

奥に居たラスカが遅れるのは仕方がないことだったが、むしろその遅れが時間差となって敵を攪乱した。

思いがけない抵抗を受け、リヒトを迎えに来たやつらはなし崩しに推し負ける。

なだれ落ちるように外へ転がり出た一同のうち、ルーカスに組み敷かれた男はぬかるんだ地面に叩きつけられて意識を飛ばした。

「くそっ…」

入り口を取り囲む兵士たちのうち、一人だけ形状の違う銃を持った男に、ルーカスは狙いをつける。

ぬかるんだ地面ではなく、そこに埋まる兵士の身体を足場にして、一足飛びにその男に近づいた。

「ひっ」

と悲鳴を上げたのは、その男の持つ銃が、首輪に着いた爆弾の起爆装置になっていたから。

距離を詰めたことで、起爆による被害範囲に入ってしまったため、スイッチが押せない。

それを十分理解したうえで、ルーカスは男の頭を自分の首元に押し付けるように抱きしめ、起爆スイッチにかかった指ごと銃を押さえつける。

後ろでは、飛び出してきたラスカとザックがそれぞれ奪った銃を持ち主に突き付けていた。

リヒトはというと、やや遅れて外に出ると、ルーカスが昏倒させた兵士から奪った銃を誰ともなしに構えるのが精いっぱいだった。

リヒト達が構えた銃口の倍以上の銃が、狙い返している。

両者膠着状態だが、リヒト達が劣勢なのは明らかだった。

「落ち着かないか」

静かに響いたのは落ち着いた女性の声。クエンスだった。

「寝起きに無礼を働いたのは謝る。まずは銃を降ろしてくれ」

「……」

「頼む」

互いに目配せする。ザックとラスカは目を合わせて頷くと、伺うようにルーカスを見た。

ルーカスが頷くのを待って、お互いにゆっくりと銃口を下げる。

黒く塗りつぶされたバイザーの下、クエンスの視線は静かにルーカスを見定めていた。



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