外伝(後半)3/4
空中に浮かぶザガリルは、目の前に広がる青々とした空を見上げた。
透き通る様な青空の下、ザガリルの真っ赤な髪が風に靡いている。
「今日の空は青だ、クソ親父」
『青か!そうか、青か!』
記憶の中のシルベナルドが笑顔を溢す。
フッと笑顔を返したザガリルは、ふと足元に視線を移した。
見渡す限り土が剥き出しの平野が続いている。
「此処は何処だ?こんな場所あったか?」
首を傾げるザガリルに、一人の男が近付いて行く。
「師匠!!」
「ん?ルーベンか」
「これは・・。一体何があったのですか?」
「何がって・・。別に何もなかったが?」
「えっ?」
まさかの返答にルベレントは茫然とする。
あれだけの魔力の高まりを感じたのだ。
何もない訳ないだろう・・。
頭でも打ったのか?と少々不安になる。
「あの、師匠。大丈夫ですか?」
「言ってる意味が分からねえな。どこからどう見ても大丈夫そうだろ?」
「・・その服装は、あまり大丈夫そうには見えませんが・・」
「ん?」
ルベレントの言葉に、ザガリルが自身の体に視線を移した。
着ている服がかなりボロボロになっている。
自身の放った技では、自分がその技の作用点となる為、服や体への損傷は殆ど無いに等しい。
その為、服がボロボロと言う事は、恐らく何かしらの攻撃を受けたものだとは思うが、全く記憶にない。
そして恐らくあったであろう体の傷は、ザガリルの魔力が自動で修復してしまった為、どんな傷だったのかと言う情報も今となっては不明である。
よく分からなくなって来たザガリルは、顔を上げて辺りを見回した。
「それより、此処はどこだ?見た事がない場所だな」
「・・此処は魔城の森です。見た事も無いのは、師匠がこの辺一帯を吹き飛ばしてしまったからです」
「はあ?」
ザガリルは驚いてもう一度辺りを見回した。
かなりの広範囲が消滅している。
自身の魔力の低下を考えても、恐らくルベレントの言っている事は本当なのであろう。
しかし技の発動など全く覚えていない。
「覚えてねえな。俺は、此処で何をしてたんだっけ・・」
「強敵が現れたのではなかったのですか?あれだけの魔力の爆発は、それくらいしか思い浮かびませんが・・」
「いや。誰もいなかったと思うぞ?確か、青空が見たいなぁと思った様な?」
「青空ですか?」
ルベレントは驚きの表情を返す。
この師匠が、空を気にする事があるだなんて思ってもみなかった。
まあ、別に師匠だって人間なのだから、気紛れで空の事を気にしてみる事くらいあってもおかしくはない。
だが、何で態々青空が一年中見られない魔城の森に来てそれを思ったのか。
夜が明けた王都周辺並びに、リオール男爵家領土内の本日の天気は晴天なのにである。
「青空が見たいと言うそれだけの理由で、此処まで破壊したのですか?」
「・・多分?」
ザガリル自身あまりよく覚えていない。
思い出せないし考えても分からない。
面倒臭くなったザガリルは、考える事自体を放棄した。
「まあ、これくらいで済んでよかったよな。此処は魔物共の土地だし」
無理矢理良い方向で話を終わらせようとするザガリルに、ルベレントの冷たい視線が注がれる。
「マギルス様並びに、第一、第二小隊の皆様のお陰かと思われます」
「・・来ているのか?」
「来ていらっしゃった筈です」
「ふーん」
返事を返したザガリルは、探知能力を使って周囲を見る。
弱々しい反応ではあるが、取り敢えずマギルスを含む十四人の軍隊員の生命反応をキャッチした。
「・・死にかけてるな」
「第三小隊が到着致しました。直ぐに救助にあたらせます」
「ああ」
ルベレントはザガリルの元を離れて、第三小隊の元へと急いだ。
その後、第三小隊が全力で回復魔法を掛けた事により、なんとかザガリル軍から死者を出さずに済んだ。
後日談【ザガリルに提出された報告書類より抜粋】
マギルス、全治二ヶ月。
第一小隊、全治半年の重症。
第二小隊、意識不明の重体。
サジェリナ、意識不明の重体。
その護衛、全治半年の重症。
その他の集まっていた高魔族、半数以上が消滅、その他重体。
ザガリル軍の軍隊員は、一応自分の所為であると理解したザガリルの手によって回復魔法が施された事もあり、三ヶ月以内に全員が完全回復。
任務へと復帰を果たす。
サジェリナ並びにその護衛は、駆け付けた高魔族達が連れ帰った為、その後は不明である。
◇◆◇◆◇
到着した第三小隊にルベレントが指示を出している間、ザガリルは辺りを見回していた。
随分派手にぶちかましてしまった様だ。
見渡す限り土以外無い広大な土地が広がる。
その時ふと、地面からチカッと光が見えた。
まるで呼んでいるかのような小さな光に、ザガリルは地へと降りて行った。
そこには、地面に突き刺さったままの、金色の聖剣があった。
ザガリルは剣を地面から引き抜いてみる。
いつから此処にあったのかは知らないが、剣の力が発動した後の様で、新品の様な美しさを取り戻していた。
剣を見るザガリルに、指示出しを終えたルベレントが近付く。
「それは、随分高価な聖剣ですね」
「ふーん。高価なのか。まあ確かに、俺の力の暴発を受けても原型を留めているくらいだ。それなりの剣なのだろうな」
「やはり先程のは、師匠の力の暴発だったのですね・・」
「・・うるせえなあ。覚えてねえよ」
「はぁ・・」
ザガリル自身が技を放った事を覚えていなかった事で、まさか・・と思っていたが、やはり無意識による力の暴発であった様だ。
力の制御をされていない最強の男の魔力の暴発。
下手したら星が吹き飛んでいたかもしれない。
本当にこれくらいで済んでよかったと吐息を落としたルベレントは、ザガリルの持つ剣を見た。
「これは、ダガルバーナ王国の紋章ですね」
「ダガルバーナ?ああ、あの国か。あそこならガキの頃に住んでいた事があったな」
「そうだったのですか?」
「ああ。確か五十歳くらいまでは、いた様な気がする」
「そうでしたか。初耳です」
ザガリルから聖剣を受け取ったルベレントは、剣を見つめる。
この剣には王国の紋章とは別に、王家の紋章までもが彫られていた。
ダガルバーナ王国に関する文献の記憶を思い出してみる。
「そう言えば、あの国の前国王は魔導王として名高い方でしたね。今は第一王子が国王となっておりますが、実力的には第二王子の方が優れていたとお聞きしています」
「ほう。どれほどの実力者だ?」
「恐らくですが、第二か第三小隊辺りかと」
「全然実力がねえじゃんか。期待させんな」
「申し訳ございません」
興味を失ったザガリルはキョロキョロと辺りを見回し、地面から顔を出していた鉄の塊を持ち上げた。
それは女物の鎧の胸当てだった。
しかし、バキバキに割れており、魔物の歯形付きである。
恐らく、倒された後に喰われたのであろう。
それを見たルベレントが先ほどの話を続けた。
「先ほどの第二王子ですが、王位継承権を放棄して勇者として旅立ったそうです。三人の仲間と共に高魔族と戦っていたとか。ですが、当時の魔王と偶然遭遇し、討ち取られたとの事です」
「それがこの剣って事か?だが、この胸当ては女のだぞ?」
「確か勇者のパーティには女性が一人いたと聞いています。その方のではないでしょうか」
「自分の女を連れて魔物退治とは、随分お気楽な奴だったんだな」
「えっ?そうなのですか?」
驚き顔をするルベレントに、ザガリルが地面から少し顔を出していたもう一本の剣を拾って手渡す。
「この剣は女物の剣だ。だが聖剣とは違い、ただの切れ味の良い剣だな。この剣だけだったのなら、俺の力には耐えられなかっただろう。そうなると、この聖剣が護ったと考えられる。通常、剣が剣を守る事はない。持ち主達の強い思念が両方の剣に残されていたのだと言う推測となり、この剣の女は勇者の女だったと言う結論となる」
「成る程・・」
ルベレントは納得をする。
確かに、女の物と思われる剣や防具では、ザガリルの力の暴発で跡形も無く消滅していた筈である。
聖剣の持ち主の、彼女を守りたいと言う強い意思を感じずにはいられない。
寄り添う様に地面から出て来た女の剣からも、男への愛情が窺える。
手に持つ二本の剣を見つめるルベレントに、ザガリルが再び口を開いた。
「まあ、これがどんな物でも構わん。金儲けに使うとしよう」
「えっ?金儲けですか?」
「こう言う過去の遺物こそ、博物館に展示するべき物だろうが!お前は馬鹿か?」
「ですが、この剣はダガルバーナ王国の物なのでは?」
「俺が拾ったんだから俺の物だろ?もし騒ぎやがったら、文句があるなら受けて立つと言っておけ」
「承知致しました」
ルベレントがペコリと頭を下げると、ザガリルはサッサと浮かび上がって行ってしまった。
ダガルバーナの紋章が入っているのだから、例え拾ったとしても、ザガリルの物になる事はない。
しかし、師匠の命令は絶対である。
面倒ではあるが、一応アグディラーナ王国の国王の耳に入れておいた方が良さそうだ。
フウッと吐息を溢したルベレントは、地面に半分埋まっているもう一つの金色の物を見つける。
しゃがんでそれを拾ってみると、かなり年代物のロケットの付いたペンダントだった。
魔力を使って開けてみると、色褪せてもう殆ど見え難くなっているセピア色の写真が両側に一枚ずつ入っている。
片方は男、片方は女で、男の方は品の良さそうな感じに見える。
「この写真は、第二王子なのかもしれませんね。となると、こちらの女性が恋人なのでしょうか・・。うちの師匠と良い勝負な程に不機嫌そうな顔ですね」
まるで睨み付けるかのように、眉間にシワを寄せて写っている女性の顔が何とも言い難い。
どうやら第二王子は、あまり女性の趣味がよろしくなかったようである。
「まあ、うちのシルフィナ程可愛い子は、なかなか居ないけどなぁ」
父馬鹿全開のルベレントはご機嫌になる。
ペンダントと胸当てと剣二本を、一緒に持ち帰るのであった。




