46.町のお披露目会
家族一丸となっての町づくりは、全てが順調に進み、ようやく全てが完成をした。
今日は開園、開店前に行われるザガリルの最終視察日である。
お披露目も兼ねている為、町づくりに力を貸してくれた貴族達等を含む百人ほどが招待されている。
リオール家一同と、マザナレッカ夫妻が博物館の前でザガリルの到着を待っていた。
次々と馬車から降りる貴族達に、頭を下げ挨拶をして回る。
そこに姿を現した一台の魔導馬車。
降りて来たのは、ラファレイドにエスコートされたナディアであった。
「これはこれは、ナディア様。ようこそお越し下さいました」
「こんにちは、リオール男爵。この度は、ご招待頂き感謝しております」
ペコリと頭を下げたナディアは、その横に立つマザナレッカ伯爵を見つけた。
「マザナレッカ伯爵?」
「姫様、お久しぶりでございます」
「私はもう、姫ではないのですよ。あっ!庶民である私が、伯爵様に直接お声を掛けさせて頂いた事は、不敬でした。大変、申し訳ございません」
「何をおっしゃられるのですか!姫は私にとって、いつ如何なる時も姫で御座います」
「もう・・。貴方もガフォリクスと同じですね。言うだけ無駄だと言う事は分かっておりますが・・」
マザナレッカはナディアが幼少期の頃、魔法を教える講師をしていた事がある。
その為、二人は顔見知りであり、気心が知れた者同士であった。
ガフォリクス同様マザナレッカも、こうと決めた事を変える事はしない性格である。
ため息を付いたナディアは、自分の側へと歩いて来る男に視線を移した。
「お久しぶりです、ナディア様」
「ルベレント!久しぶりですね」
ナディアは笑顔を見せた。
公爵出のルベレントとは、150歳ほどの年齢差があるが、幼き頃に王宮で遊んで貰った仲である。
ザガリルが消えてからは会う事が無かった彼との再会は、とても懐かしい。
頭を下げたルベレントは、自分の後ろを歩いて来た少女をナディアに紹介する。
「私の娘に御座います」
「お初にお目に掛かります。ルベレントの娘、シルフィナと申します」
「まあ、ルベレントの!・・そう言えば結婚したと言う話は聞いていました。確か、カナルディアとの結婚でしたね」
「そうです。ただ、妻とはとっくに離縁致しましたが・・」
「そうでしたか」
返事を返したナディアは、一人心の中で納得をしていた。
離縁しても、ルベレントは全く気にしている様子はない。
元妻であるカナルディアの事もナディアは知っている。
彼女はこの国の五本の指に入る位影響力のある公爵家の長女である。かなり気の強い女性であった為、夫に素直に従うタイプではない。
ルベレントの今の地位は伯爵だが、ザガリル軍の第三小隊である。そして実家は公爵家であるのだから、身分に申し分はない。
と言う事で、ルベレントとカナルディア二人の性格から考えると、これは間違い無く政略結婚であったと言う結論になるのだ。
男児ではないにしろ、カナルディアはルベレントの血を引く子供を産んだ。
彼女はサッサと自由の身となり、そしてルベレントは子供を得たのであろう。
二人の間に生まれた子供がルベレントと公爵家を結ぶ。
あちらにとってもルベレントにとってもプラスになる結婚だったのだ。
貴族の出であるルベレントは、やはり後継の事だけはきちんとした様である。
「そう言えば、ルベレントは伯爵の地位を得たのでしたね。少し意外でした。お兄様のルナべレスとは未だに・・なのですか?」
「ええ。伯爵の地位ではございますが、私には軍の特権階級が別に有りますので、あの馬鹿との関係も変わりなく・・」
「相変わらずなのですね」
ナディアはクスクスと笑い出した。
ルベレントとルナベレスとナディアは、幼き頃より見知った仲である。特にルベレントは、気が合う年上のお兄さん的存在であった。
ルベレントは幼き頃より、自分より劣る癖に兄貴風を吹かせて威張るルナベレスを毛嫌いしていた。
兄が公爵家を継ぎ、自分がその下になる事をずっと嫌がっていたのだ。
そこでナディアに頼み込んで、ザガリル軍の第三小隊に自分とその仲間を推薦して貰ったと言う経緯がある。
そんな事もあり、ルベレントはナディアに対しては敬意と優しさを見せる。
実は彼女が処刑されそうになった時、師匠が戻るまでは、と第一に進言し国王の決定を止めさせたのも彼である。
持ちつ持たれつの関係だったのだ。
「そうだわ、ルベレント。ザガリルを見なかった?今日は一緒にいてくれると言っていたのに・・」
「もうじきいらっしゃると思います。今しばらくお待ち下さい」
「そう。分かったわ」
ザガリルは最近忙しいらしく、自分の側に帰って来てくれない。自分の代わりにと、ラファレイド達を護衛に置いてくれているのだから、ザガリルからの愛情を疑う事はないが、それでもやっぱり寂しい。
自分が貴族達に混ざってザガリル博物館なる物を見る事には少し抵抗があったが、それでもナディアが此処に来たのは、ザガリルに会いたいと言う乙女心からであった。
ため息を付いたナディアに、空に顔を上げたルベレントが伝える。
「師匠がいらしたみたいです」
「えっ?本当?」
ナディアの顔はパァーッと明るくなった。
嬉しそうに見上げた空に、真っ赤な髪を靡かせる男の姿を捉えた。
「ザガリル!」
「早かったな、ナディー」
着地したと同時に抱き付いてきたナディアを、ザガリルは抱き留める。
優しく髪を撫でると、ナディアは微笑みを向けた。
「だって、ザガリルがずっと会いに来てくれなかったから・・」
「すまん。暫く忙しいんだ。落ち着くまでは我慢してくれ」
「・・うん。分かった・・」
視線を下に落としたナディアの額に、ザガリルがそっと口付けを落とした。
ナディアが寂しがっている事は分かっている。
だがしかし、長い時間ルシエルの体から自分が離れる訳にもいかず、どうする事もできない。何か良い案をと考えてはいるが、中々思い付かないのだ。
まだ暫くの間、辛い思いをさせてしまう事に対しての謝罪の気持ちからだった。
ナディアから視線を上げたザガリルは、目の前に立つファスターを見た。
「ファスター殿、ようやく全てが完成したと聞いた」
「はい!ご期待に添えるよう、家族一丸となって取り組み、ようやく完成を迎えました。どうぞごゆっくりと、ご覧下さい。博物館のご案内は、私とルシエルが・・」
ザガリルに話しながら家族へと視線を移したファスターだったが、さっきまで居た筈のルシエルの姿がない。
「ん?ルシエル?」
キョロキョロと視線を彷徨わせたファスターに、ザガリルが声を掛ける。
「ああ!ルシエルか。さっき、タナウス達と一緒に歩いていた所を見掛けてな。軍隊員の施設が見たいと言うから連れて行ってしまった。タナウスとネルダルと一緒に部屋や訓練施設を見ているから、暫く帰って来ないと思うぞ」
「そ、そうでしたか。ルシエルが我が儘を申した様で、大変申し訳ございません」
「気にする事はない。ルシエルだけは特別だ。あれには、自由にさせていたい。彼の行動をお前達が禁止したりする事のないようにな」
「はい。承知致しました」
了承の頷きを落としたファスターに、ザガリルは内心安堵を見せる。
昔の自分の事を知っているマザナレッカ爺様は、ザガリル軍と言うものにかなり警戒をしている。
しかし、こうやって釘を刺しておけば、ファスターがルシエルの行動を諫める事はないだろう。
ザガリルにルシエルが近付かないようにとされてしまうと、これからの生活に支障が出てきてしまう。
それだけは阻止しなくてはならないのだ。
チラリと視線をルベレントに移すと、なんとなくで理解をしたルベレントが小さく頷きを返した。
「ねえ、ザガリル。そのルシエル君って言うのは、どう言う子なの?」
ナディアは、不思議そうな顔をザガリルに向ける。
ザガリルが人に対して、まして子供に対してこの様に気にかける姿を今まで見た事がない。自分以外で、ザガリルが気にかける存在が気になってしまう。
「ん?どう言うと言われると、どう答えれば良いのか分からんな。ルシエルは俺が気に入っている。ただそれだけだな。今度、ナディーにも紹介しよう」
「・・分かったわ」
ナディアの顔は晴れなかった。
ザガリルが気にかける存在が、どうしても気になってしまう。特に理由も無く、ザガリルが気にかけているなんておかしいのだ。
だが、その対象が女性では無く男の子であるという事で、なんとかその気持ちを飲み込み、ザガリルと共に博物館の中へと歩みを進めていった。
ファスターの案内の元、博物館の中へと歩いて行ったザガリルは辺りを見回す。
「ほお!博物館というのは、こう言う物なのか」
ルシエルの姿で何度も見ている為、新鮮さはない。
だが、ザガリルとしては初めて来たと言う設定なのだからと、少々演技を入れる。
同じ様に辺りを見回したナディアは、不思議そうな顔をした。
「ねえ、ザガリル。あれって、ザガリルに私が用意した服よね?なんで此処に置いてあるの?」
「博物館と言うのはそう言う物らしい。此処は俺の博物館だから、俺の物を飾って客に見せる施設だそうだ。これが、さっき言っていたルシエルの発想だ。中々面白い事を考えつくであろう?」
「ふーん。そうなんだ」
ナディアはザガリルと一緒に歩きながら展示されている服を見ていく。
通路は一方通行で左側にのみ展示されている。
最初の方は式典などでザガリルが着た服、そして次のフロアーは戦闘用の服、そしてラストは武器や鎧と言う順になっている。
あの部屋から適当に見映えしそうな物をルベレントに持って来させ、ここに展示させた。
一応、盗難防止の為、第三小隊が掛けた結界が展開されている。
式典用の服を見ながら歩いていたナディアは、懐かしさに包まれていた。
ザガリルの式典用の服と言うのは、自分が選んだ物ばかりである。
式典が開かれると分かると、ナディアは直ぐに支度に入った。
ザガリルが似合う服のデザインを一から決めていくのだ。コンセプトを決めて、何度も訂正をしながら形にしていく。とても大変な作業であったが、ナディアは絶対にこの作業を誰かに任せる事はしなかった。
ザガリルの婚約者として、八百年の間何度も何枚も自分が決めた服。自分がザガリルの婚約者であったと言う証の様にも感じる。
一枚一枚を見ながら当時を思い出し、ゆっくりと足を進めていく。
そんな中、ナディアはふと足を止めた。
「あら?」
展示されている一枚の服に目が止まった。
白地にオレンジ色を基調とした服で、ザガリルの赤い髪と合わせて、太陽をイメージした服だ。
それなのにタイの色が青である。
確かにワンポイントとして青色を入れた方が見栄えはよく見えるのだが、当時のナディアにとっては見栄えよりもコンセプトが重要視されていたのである。
ナディアはキュッと口元を固く結んだ。
色んな人に見て貰うのなら、見栄えが良い方がいい事は分かっている。
しかし、ナディアが考えたコンセプトを変えられた事は、自身のザガリルに対する気持ちまで汚されたような気持ちになる。
ザガリルの腕を掴んでいたナディアの手にも力が入ってしまう。
その事に気がついたザガリルは、ナディアを見つめた。
「どうした?ナディー」
「・・嫌なの。これは嫌なの!」
ジワッと涙が浮かぶナディアに、ザガリルは驚きを返した。
「服の展示はしない方が良かったか?」
ナディアは左右に首を振る。
「違うの・・。展示する事は良いの。でもこれ・・これは違うもの」
ナディアは服のタイを指差す。
「この服は太陽のイメージだから、タイは青じゃ無くて赤なのよ・・。それなのに青に変えてある。ザガリルには何度も説明したじゃない!」
「えっ?」
ザガリルの顔からサァーッと血の気が引いていく。
これはまずい事になった。
ナディアの拘りが炸裂し始めたのだ。
確かに毎回着る服のコンセプトを説明されていた。
その服を着ている間、そのコンセプトを覚えて説明出来るようにしておかないと、ナディアの機嫌が悪くなる。
毎回なんとか式の間だけはそれを覚えている努力をしていたが、次の日には忘れてしまっていた。
しかも今に至っては、これだけ時間が経っている為、全くと言って良いほど覚えていない。正直に言えば、コンセプトがあった事すら忘れていた位である。
「そ、そうだったな。この服は太陽のイメージだった。タイの色は赤だったな」
「もう!ザガリルは直ぐに忘れちゃうんだから・・」
「直させる。だから、機嫌を直してくれ」
「うん・・。あれ?」
ナディアの目は、その隣に飾ってある服に移っていた。
「ザガリル。この服はズボンが違うわ!どうしてなの?それに靴も違う!」
「そうなのか?」
ザガリルは服に視線を移した。
ズボンが違うと言われても、全然分からない。
上着の色と同じ色だし、特に気にはならないと思う。
それに、ズボンや靴なんて大した違いはないのだから別に多少違くても問題ないのではないだろうかとすら思う。
しかし、ナディアは許せないようである。
ナディアの拘りはよく分からないが、自身にナディアの怒りが向けられるのだけは勘弁して欲しい。
「これを飾ったのは俺じゃなくて、ルーベンだ。怒るならルーベンに怒ってくれ」
「ルベレントなの?」
視線を向けられたルベレントは、深々と頭を下げる。
「申し訳ございません。飾るにあたり、お忙しい師匠に確認する事が出来ませんでした」
「そうだったの。それなら仕方がないわね・・。直せる物は直して貰える?」
「ええ。勿論です」
ルベレントの言葉に、ナディアは笑顔を取り戻した。そしてザガリルに向かってやる気を見せる。
「それじゃあ、もう一度最初からチェックするわね!」
「えっ?最初から?この二つが違うだけなんじゃ無かったのか?」
「だって、最初の方はよく見てなかったから。何か違う所があったらルベレントが直してくれるって言ってるし。ちゃんとチェックしなきゃね!」
ルンルンと入口方面に戻って行くナディアに、ザガリルは溜息を付いた。
また最初から服を見なければならない。
飾ってある自分の物かどうかも分からない服を見ていくだけでも正直苦痛であったのに、また最初からとなると心身共にグッタリとしてしまう。
日本で言う、女のクソ長いショッピングに付き合わされている彼氏の気分である。
とは言え、ナディアがやると言うのだから仕方がない。
ザガリルもナディアを追って入口へと移動していった。
「ルベレント。これも違うわ。もっと濃い緑色のタイよ。あっ、あれも違う。あっちはもっと薄い色の赤だったわ!それに、これの胸元の宝石は青色よ!」
さっきはサラッと通り過ぎて行ったが、よくよく見てみると違う所が多い。
ナディアは記憶を呼び戻しながら、次々と訂正箇所を指摘していく。
そんな中、ふと服の前に置かれた看板に目が止まった。
『ザガリル様、生誕千歳記念式典で着用』
しかしそこに飾られているのは、ザガリルの千百十一歳の時の服である。
「ルベレント、これも違うわ。これは千百十一歳の時の服だもの。ねっ!ザガリル」
急にふられた会話に、ザガリルが頷きを落として答える。
「違うな。ルーベン、直せ」
「承知致しました」
勿論、ザガリルがどんな服だったかを覚えている訳はない。ナディアを怒らせないように、返事を返しているだけである。
後々大変なのはルベレントとなるが、師匠の機嫌を損ねる訳にいかないルベレントは、頷きだけを返していく。
「ザガリル。服は何処に置いてあるの?」
「次元の間だ。ルーベンの許可は出してあるから、此奴に行かせれば良い」
「うーん。まだまだ訂正箇所が沢山ありそうなの。だから、ザガリルが千歳の時の服を取ってきて。私が、ちゃんと飾りたいの」
「えっ!」
またしても、まずい事になった。
服なんて区別すらつかない。
だから勿論、千歳の時の式典に出た服装なんて覚えている訳がない。
ってか、そんな記念式典やったっけ?と言うレベルである。
と言う事で、ザガリルは逃げる事にした。
「すまない、ナディー。用事を思い出した。直ぐに行って来るから、それまで待っていてくれ。あとで手伝いにネルダルを此方に向かわせる。あいつも次元の間には入れるからな」
「用事って何?直ぐ帰って来られるの?」
「多分、早く終わるとは思うが・・。おい!フォガント、ディレイル。俺が帰ってくるまでの間、ナディーを見ていろ」
ザガリルは、マギルスと共に入口から入って来たばかりのフォガント達を見付け指示を出す。彼らにナディアを任せると、直ぐにその場から立ち去った。
博物館の内覧会は中止。
他の貴族達はマザナレッカ伯爵の案内の元、鎧などを見た後で街の方を見に行った。
博物館中では、ナディアの細かい指示をルベレントとファスターがメモを取りながら聞いていた。
訂正箇所が多すぎる。
殆ど全部に訂正が入りそうな勢いである。
終わりの見えない訂正の数々に、ルベレントは小さく吐息を溢した。
服の訂正箇所が全て見つかった頃、博物館にネルダルが姿を現した。
早速、ルベレントとネルダルの二人で、服や飾り等を取りに行く事になった。
この二人ではザガリルの秘密の部屋までいく事は出来ないのだが、博物館の案が出た時点で、ザガリルによって大体の服等が二番目の部屋へと移動された。
その為、向かうのは二番目の武器などが置いてあった部屋である。
「それでは、ナディア様よりお聞きした服を探しに行って参ります」
「ええ。頼んだわよ、ルベレント、ネルダル」
「「承知致しました」」
二人は、スッとその場から消え失せた。
静まり返った博物館では、ファスターがあれこれと訂正箇所を纏めに入っていた。
ナディアは、ラファレイド達と共にもう一度服を見て歩く。
そんなナディアを少し離れた場所からアシュアが見つめていた。
(折角完成した博物館だったのに・・)
人がいなくなってしまった館内を見回したアシュアはため息を付いた。
それもこれも、全部ザガリルの所為である。
服の前などに掲示されている物は、全てアシュアが担当した。
文献を読んだり、ルシエルにザガリル様に確認して欲しいと頼んだりして、その服が何の時に着用された服なのか等、一つ一つ時間を掛けて丁寧に調べた物ばかりだ。
それなのに、ザガリルはいい加減な返答をしたらしい。
掲示されている文面と服が殆ど合っていなかったからだ。
もう一度調べ直さなければならないものも多々ある。
(間違えたくないから確認したのに・・)
一生懸命作った物を、ぐちゃぐちゃにされた気分だ。アシュアはギュッと拳を握る。
「ザガリル様なんて、大っ嫌い」
ポツリと呟きを落としたアシュアの耳の横で、鉄と鉄が当たるようなキーンという音が響いてきた。
驚いて顔を向けると、アシュアに向かって振り下ろされた剣を受け止めている聖騎士ディレイルの姿があった。
そして、その剣を放った者・・それは、マギルスであった。
「マギルス様、剣をお引き下さい!」
ディレイルの言葉に、マギルスはチッと小さく舌打ちをする。
受け止めているディレイルの剣を弾き、第二の攻撃に入る。
体勢を崩されたディレイルは、直ぐに体を立て直し、第二の攻撃をギリギリ受け止めた。
しかし、瞬時に放たれた魔導攻撃に吹き飛ばされる。
冷たいマギルスの金色の瞳が、アシュアを再び捉えたと同時に第三の攻撃が放たれた。
そこに飛び込み、アシュアを守ったのはフォガントだった。
「師匠の許可なくこの娘を傷付ける行為は許されざるもの。剣を収めて下さい、マギルス様!」
フォガントの言葉も、マギルスは受け入れようとしない。
冷たく光る金色の瞳は、敵を確実に捉えたままだ。
アシュアを守っていたフォガントのすぐ後ろにナディアが駆け付け、アシュアを自分の背の後ろに隠した。
シュッと放たれたマギルスの強烈な蹴りに、フォガントが吹き飛ばされる。
「これは何なの。剣を収めなさい、マギルス!」
「退け、ナディア。そいつは敵だ」
「この子が?」
ナディアはチラリと後ろを見る。
未だに目の前で起きている事が理解出来ず、真っ青な顔で震えている少女。
どう見ても敵には見えない。
それに、もし本当にそうなら、背を見せているザガリルの弱点である自分に何かをする筈である。
ナディアは視線を前に戻した。
マギルスは、確実に少女を仕留める為に戦闘モードに入ろうとしている。
マギルスが確証を持っている証拠である。
ナディアを庇うように、大剣を抜いたラファレイドが立ち塞がる。
起き上がってきたディレイルとフォガントも、マギルスの前に立ち塞がった。
「マギルス様、剣をお収め下さい。この娘が敵であるのならば、師匠の判断を仰ぎます」
「その必要はない。この娘は敵である。この場にて排除する」
マギルスは一歩、また一歩と歩みを進める。
アシュアを守るナディア達は、少しずつ後ろに下がっていく。
「いい加減にしなさい、マギルス!貴方の判断だけで動かないで。これは、ザガリルに判断させるべき事案よ!」
「・・もう一度言う。退け、ナディア!」
金色の瞳は怒りを示していた。
邪魔立てする軍隊員とナディアに激しい怒りを見せているのだ。
マギルスがナディアを攻撃する事は絶対に無い。
だからこそ、ナディアの背にいる少女は無事なのだ。
もしこれがナディアで無かったのなら、軍隊員ごと処分されていた位の状況である。
「ザガリル、すぐに来て。早く・・」
ナディアは、ザガリルに言葉を飛ばした。




