44.マザナレッカ伯爵
部屋のドアの隙間から、こっそりと中を覗き込んでいたルシエルは、ホッと吐息を溢した。
どうやら問題はない様である。
まあ、普段の二人を知っている為、あまり心配はしていなかったが、もしもと言う事もある。
ルシエルの体に戻って急いで見に来てみたが、二人のラブラブぶりを見せつけられるだけで終わった。
勘弁してくれ。と思いながらも、やはり両親が仲の良くしている姿は嬉しいものである。
ドアから離れたルシエルに、顔を青くさせたネルダルが頭を下げる。
「早とちりを致しました。大変申し訳ございません」
「まあ良い。だが、これは少し問題だな・・」
謝罪するネルダルから、自分の手に視線を移す。
両手が小刻みに震えており、止まらない。
「回復魔法を掛けますか?」
「いや・・。ルシエルの体は、まだ魔力への耐性が確立されていないからな。これ以上、余計な負荷はかけない方がいい。自然治癒を待つ」
そう告げるルシエルだったが、その顔は晴れない。
今回、ルシエルの体から離れたのは一日と十八時間ほど。
ファスターと買い物をしていたのが午前中。
ナディアと魔物の戦いが午後一番。
そこでザガリルに入れ替わって、二回夜を過ごし、さっきルシエルの体に戻ったのだ。
今までは、長くても一日以内には戻っていたのだが、今回は少しだけ長かった。
どうやら一日以上離れていると、ルシエルの体への負荷が強い様である。
呼吸が荒く、全身が重くて思考も上手く定まらない。
呼び戻しは確かにネルダルの早とちりであったが、あれ以上ザガリルの体のままであったら、ルシエルの体がまずかったかもしれない。
寝ていたルシエルの体に、パッと見問題がある様には見えなかった。
となると、外から見ていただけでは気が付けない様だ。そして気が付ける位になった時には、相当危険な状態になっている可能性が高い。
ナディアの前に姿を現してしまった以上、これからもザガリルとして会いにいかなければならない。
そうなって来ると、やはりどちらかの生活を捨てるしか無い様だ。
ルシエルは、横にあるドアに視線を移す。
この家の者達は、自分がいなくなっても、もう大丈夫であろう。
仲の良い両親と、領土の安定した収入があればちゃんと生活していける。もし駄目そうなら、ザガリルとして手助けしても良い。
二十五年間、家族と言うものを楽しんできたが、そろそろ終わりにするべきかもしれない。
薄暗い瞳をしたルシエルは、視線を床に移した。
「ルーシェ!!」
廊下に響く大きな声に顔を上げると、自分の部屋から出て来たばかりのロイドが、走って来ていた。
側まで来ると、今にも泣き出しそうな顔でルシエルを抱き締める。
「良かった!目が覚めたんだね。本当に良かった!」
「兄様・・」
兄の瞳から零れ落ちる涙が、ルシエルの服を濡らしていく。
ロイドの声に、部屋のドアが開かれ、ファスターとエミリアが慌てた様子で顔を出した。
ルシエルの姿を捉えたファスターが床に膝をつく。
ロイドが離したルシエルを、今度はファスターが強く抱き締めた。
「ルーシェ!!無事で良かった。怖い思いをさせてしまって、本当にすまない。許してくれ、ルーシェ」
「良かった。本当に良かった」
ファスターとエミリアにサンドイッチにされながら、ルシエルはファスターにしがみ付く。暖かい二人の体温がルシエルの体を優しく癒していく。
魔力による回復では無い。
親の愛情という名の奇跡である。
ルシエルはゆっくりと瞳を閉じる。
先ほどまで捨てようとしていたルシエルという名の人生。
でもやっぱり捨てたく無い。
この大切な家族達を手放したく無いのだ。
「父様・・。僕、まだ体が重い。もう一度お休みするから側にいて」
「ああ、分かった。父様も母様もルーシェの側にいよう」
ルシエルを抱き上げたファスターは、家族のリビングに入って行く。
ファスターの膝の上で瞳を閉じるルシエル。
ルシエルにそっと毛布を掛けるエミリア。
そして、集まって来た兄姉達に見守られながらルシエルは眠りに就く。
(やっぱりルシエルも捨てられない。起きたら、ザガリルとルシエルを共存させる方法をちゃんと考えなくっちゃ・・)
優しい大切な家族。
それは、直ぐに切り捨てられるものではなかった。
ルシエルを殺し、ザガリルに戻った方が全てが丸く収まり、これからの生活が楽なのは分かっている。
それでも、大切な者達の為に面倒で厄介な道を選ぶ。
何物にも執着しなかった過去の自分とはもう違う。
護りたい物が増える事が、こんなにも自身の負担になるとは思っても見なかったが、その負担がこの家族なのだと思うと、不思議と心は軽い。
薄らと開いていた瞳は、家族達の笑顔を見つめながら、静かにゆっくりと閉じていった。
◇◆◇◆◇
ルシエルに戻って三日後の昼間。
ルシエルは家族達と共に、馬車で王都に向かっていた。今日はこれから、母方の祖父にあたるマザナレッカ伯爵に会いに行くのだ。
あの日、お昼寝から目覚めたルシエルは、絶好調とまではいかないにしても、だいぶ体が回復していた。
あの不調は一時的なものだった様なのでホッとしたが、大事をとって、それから二日間はお家で大人しくしていた。
マザナレッカ伯爵と連絡を取り合ったファスターは『もう領土の不安は無くなったと言っていたな。それならばいい加減、家族全員に会わせろ』と言う伯爵の怒りの言葉に、家族全員で会いに行く事を決めた。
ルシエルの体調をとても心配していたが、謝罪をするのに伯爵に来て頂くわけにもいかず、もう大丈夫だと言うルシエルの言葉に行く事が決まった。
ネルダルとタナウスはお家でお留守番。
マギルスは、お留守番は嫌だと言うので連れて来ている。
六人乗りの馬車は、マギルスが乗った事により、ルシエルを除いて人数ピッタリ。
座席の無いルシエルは、ファスターのお膝に座って甘えていた。その為にマギルスを連れて来たと言うのは内緒である。
母方の実家の伯爵家に行くのは初めてだ。
馬車の中を見回すと、少し緊張気味の家族がいる。
そんな家族を見て、ロイドがクスクスと笑った。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。お爺様達はとても優しいから」
「兄さんは会ってたからいいかもしれないけど、僕と姉さんは初めてなんだよ!緊張するなって方が無理だよ」
「そうよ!兄さんはずるいわ!」
プリプリと怒る二人に、ロイドが苦笑いをする。
「お父様達は、ロイドに貴族としての教育や教えをして下さっていたのよね?」
「ええ。お爺様もマリザム様もとても良くして下さってます」
「マリザム兄様まで、知っていただなんて・・」
エミリアはキュッと唇を噛んだ。
リオール家の跡取りであるロイドは、もしもの時、ファスターと共に責任を取って家に残るつもりだった。
その為、ロイドにだけは内密に会わせて欲しいとマザナレッカ伯爵から要請があった。
全ての責任を取る覚悟の孫に、少しでも祖父として関わり合いを持ちたかったのだ。
学校に通う様になったロイドは、時々伯爵と連絡を取り、コッソリ会っていた。
エミリアの実家がマザナレッカ伯爵家であることをルシエルとマイロとアシュアにバラしたと同時に、ロイドの事もみんなに伝えた。
息子の、覚悟を決めた跡取りとしての決断を聞き、悲しみを見せたエミリアだったが、それを見たロイドが伝える。
「母様。私は跡取りとして当然の決断をしたまでです。ですが、この話を家族に出来たくらい、この領土はこれから未来に向かって上向いていく事でしょう。これからは、家族みんなで頑張っていく覚悟です」
全てが上手くいく。
そう願わずにはいられない。
家族の心は再び一つとなったのだった。
と言う事で、リオール家一同は、早々に伯爵に謝罪をしに出掛ける事にした。
表向きは伯爵家との関係修復ではあるが、関係は拗れていない為、ただの家族紹介である。
ルシエルはボーッと窓の外を見ていて、ずっとグルグルしていた事の答えを思い出した。
マザナレッカ伯爵と言う名前に覚えがあったのだが、誰だったかずっと思い出せなかったのだ。
確か、ナディアの魔法教育担当の一人がマザナレッカだった気がする。
だとすると、マギルスの顔を覚えている可能性が高い。
面倒な事になりそうなので、回避した方が良さそうだ。
ルシエルはマギルスに思念を送る。
『マザナレッカって奴は、ナディアの魔法教育担当だった奴だ。お前、ルーベンの家に行ってろよ』
『ルーベン・・。嫌です』
却下された・・。
ルシエルは諦める事なく説得する。
『家族で顔を見せるだけだから、楽しい事なんてないぞ。ルーベンでもからかって遊んでいろよ。終わったら迎えに行ってやるから』
『嫌です』
今度は即答だった。
なんて我儘な奴だ。
しかし、此処まで拒否すると言う事は、何を言っても無駄だと言う事になる。
仕方ないかと、このまま同行させる事にした。
『分かった。連れて行ってやるから、ちゃんと護衛をしろよ。ルシエルの体は未だ休息中なんだからな』
『御意』
本当に分かってんのか?と言う疑問は浮かぶが、仕方が無い。まあなんとかなるかと、窓の外に視線を移した。
馬車は順調に進み、大きな屋敷へと到着をした。
美しい外観に、子供達がキラキラとした目で馬車の窓から見つめる中、エミリアはギュッと両手に力を込めて俯いた。
不安そうなエミリアの手にファスターが自分の手を乗せる。顔を上げたエミリアは、大好きな人の優しさに、緊張が和らいでいく。
見つめ合った二人は、笑顔を見せた。
馬の嘶きと共に停車した馬車からファスターを先頭に、エミリア、ロイドと続いて降りていく。
沢山の執事メイドが頭を下げる中、家の玄関ホールに足を進めると、目の前にはマザナレッカ伯爵とその夫人。そして長子であるマリザムとその妻が迎え入れた。
歩みを進めたファスターに、マザナレッカが歩み寄る。
「よく来てくれた、ファスター」
「お招き、ありがとうございます。マザナレッカ伯爵」
「まだそう呼ぶつもりなのか?ファスター」
「失礼を致しました。お義父様」
ペコリと頭を下げるファスターの後ろでは、スカートの前でキュッと手に力を入れ耐えるエミリアがいた。
マザナレッカ伯爵は、優しい笑顔を向ける。
「今日は、伯爵として呼んだわけでは無い。私は、娘の家族をこの屋敷に呼んだだけだ。さあ、エミリア。私に顔を見せておくれ」
「お父様!」
駆け出したエミリアは、百年数十年ぶりに会う父の腕の中に飛び込み泣き出した。
歩み寄った母ともヒッシと抱き合う。
ずっと会いたかった大好きな両親との再会に、涙が止まらなかった。
両親や兄の瞳にも涙が溢れ出た。
整列していた執事やメイド達は、エミリアが幼き頃よりこの屋敷に仕えていた者達ばかりだ。
ようやく顔を見る事ができた伯爵家のお嬢様の姿に、次から次へと皆が駆け寄った。
エミリアは伯爵家の皆んなに、自分の家族を紹介し始めた。
一人一人を紹介していくと、マザナレッカは孫達に歩み寄る。
四人の大切な孫が愛おしい。
ようやくその腕に抱き締める事が出来た孫達を、マザナレッカは大切そうに見つめた。
「さあ、中に入ってくれ。この家で遠慮はいらないからな」
子供達を連れて行こうと前を向いたマザナレッカは、視界の端に捉えた藍色の髪に慌てて視線を戻した。
子供達の後ろに立っている男。
見間違いでは無い。
目を見開いたマザナレッカは、慌てて片膝をついて頭を下げた。
「大変失礼を致しました。マギルス様」
頭を下げたマザナレッカを見て、長男マリザムが慌てて駆け寄り、片膝をついて頭を下げた。
周りにいた者達も慌てて礼を取る。
「マギト・・」
「えっ?」
マギルスの言葉に、マザナレッカは首を傾げる。
何が言いたいのだろうか。
しかし、間違った解釈をしてしまう訳にはいかない。
この方の怒りを買うわけにはいかないのだ。
「お爺様。その人は、マギルスでは無くてマギトだよ。ザガリルがそう言ってたの。だから、使用人のマギトだよ」
ニッコリとルシエルが微笑むと、マザナレッカが驚き顔を返す。
「ルシエル!ザガリル様とマギルス様のお名前を、軽々しく口に出してはいかん。大変申し訳ございません、マギルス様」
再び頭を下げたマザナレッカを見て、ルシエルが溜息をつく。
『ほらみろ。面倒臭いじゃないか!お前の所為だぞ!』
マギルスに思念を送ると、マギルスがチラリとマザナレッカを見た。
「ルシエルには、ザガリルの許可が出ている。お前が口を出す事ではない。そして俺はマギトだ。分かったな」
「は、はい!承知致しました、マギト様」
珍しくマギルスが状況を治めた事に驚いてしまう。
どういう風の吹き回しかと思ったが、どうやらザガリルの側を離れない為の様である。
ナディアの戦いの時など、側に居れば自分も少しは楽しめたのにと思った様だ。
その為、これからは絶対に側を離れないというネットリとした怨念を感じる。
ストーカーってこんな感じなのだろうか。
ぎこちないながらも、マザナレッカは持ち直し、家族達に家の中を案内する。
リビングでは長き間会えなかった事を感じさせない程に和気藹々とした賑やかな時間が過ぎていった。
マザナレッカの好意で、その日リオール家一同は泊まって行く事となる。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
◇◆◇◆◇
次の日、家族で買い物に出掛けたルシエル達は、いろんなお店を回っていた。
そして最後に一軒の仕立て屋へと足を運んだ。
もうじき領土の町が完成を迎える。
その時に着用する洋服を仕立てて貰う事にしたのだ。
父様や兄様達は、寸法を測りながら、ジャケットの袖の長さや着丈、ズボンの裾上げなどをしており、母様とアシュアちゃんはドレスの布選びと採寸をし始める。
ルシエルのお出かけ用の洋服も、母様が選んで買ってくれたのだが、半ズボンなので裾上げはいらないし、既製服のサイズがピッタリだったのでお直しもいらない。
ルシエルは店の椅子に座り、一人暇な時間を過ごしていた。
ふと窓の外を見ると、少し離れた場所に、ナディアのいる孤児院の建物が見えた。
(そうだ!暫くザガリルにはなれないから、その事をナディーに伝えておこう)
もう四日も孤児院に戻っていない。
ナディアが心配しているといけないので、ザガリルからの伝言という形で伝えに行く事にした。
ちょっと出掛けて来ると言ったら反対されそうなので、お店のカウンターでファスター宛に手紙を書く。
『近くの孤児院に行って来ます。ルシエル』
手紙をその場に置くと、コッソリと店の外に出た。
人の多い街中を、一人でトコトコと歩いて行く。
マギルスは、この王都に昔からお気に入りのパイ屋がある為、そこに買いに行っていて今はいない。
四六時中くっついていられるよりマシだとは思う。
しかし、幼子の一人歩きの為、すれ違う人の視線が鬱陶しい。
少し足早に孤児院へと向かって行った。
ようやく孤児院の敷地に入ったルシエルは、駆け足でナディアの元に向かう。
孤児院のドアまであと五メートルほどとなった時、突如として顔スレスレに大剣が振り下ろされた。
ドガッと大きな音を立てながら地面へと食い込んだ大剣に、ルシエルの眉間にシワが寄る。
「おい。お前は誰だ?許可の無い者は、ガキであろうと通す訳にはいかん。立ち去れ」
横を見るとルシエルを見下ろすラファレイドが立っていた。
ルシエルの背が低いので仕方が無い事ではあるが、ラファレイド如きに見下ろされている事が不快に感じてしまう。
ムカッとしながら睨みを返したルシエルに、ラファレイドの瞳が鋭さを増した。
「お前・・。ただのガキじゃねえな・・」
大剣を地面から抜いて背負ったラファレイドは、目の前の子供を注意深く観察し始めた。
まだ幼い子供ではあるが、この子供からは恐怖の感情が全く伝わってこない。
恐らく魔力は使えない年齢の筈だが、薄らと体内に魔力の気配を感じる。
おかしい。普通の子供では無い。
そんな者を護衛対象に近付けさせる訳にはいかないのだ。
「この場から大人しく立ち去れ。さもなくば、ガキであろうとも叩っ斬る」
ラファレイドの言葉は脅しでは無い。
師匠からの命令は絶対だからだ。
子供が少しでも動けば大剣を振るう気でいる。
だが、目の前の子供はそれでも自分への敵意を消そうとしない。
無言のまま睨め付け続ける子供。
一瞬でも油断できない。
ピリピリとした空気の敷地内で、ガフォリクスが二人に気が付き歩み寄ってきた。
「ラファレイド様。その子供は?」
「排除対象だ」
その言葉に、ガフォリクスも剣を抜く。
姿は可愛らしい子供にしか見えない。
しかし、このラファレイドが排除対象と見做す程の者である。敵の擬態かもしれない。
ナディアを守る為、二人はドアを背に警戒し続けた。
(ウザってえなぁ・・)
ルシエルは心の中で舌打ちをする。
どうやらラファの馬鹿は、ルシエルがリオール家のルシエルだとは全く気が付いていない様である。
敵意バリバリでルシエルを睨んできている。
自分がナディアを守れと命じたから守っているのは分かっている。
しかし、上から見下ろしながらのガキ発言に、温厚で優しいルシエル君でも苛立ちが抑え切れそうにない。
第二小隊の中で一番の実力者であるラファレイドは、ルシエルが普通の子供では無いと言う事くらいには気がつけた様だが、誰かまでは分からないようだ。
マギルスは一瞬、第一小隊は数分で気が付けた事から考えても、実力はまだまだである。
ちょこっと遊んでやろうかとも思ったが、ルシエルの体はまだ休息させておきたい。
と言う事で、可愛くて愛らしいルシエル君の対応に切り替えようかとも思ったが、もう既に此方からも敵意を向けてしまった為、ラファは引き下がらないだろう。
(全く、面倒臭いな・・)
ため息を付いたルシエルは、ふと近付く気配を感じ取った。
ニヤリと悪魔の微笑みを溢す。
「何を笑っている。サッサと失せろ!」
「別に・・。ただ、帰る気はないかな。僕はナディアに会いに来たんだ。おじさん達、そこを退いてくれる?」
「それは出来ないな」
「じゃあ、勝手に通るよ」
足を一歩前に踏み出したルシエルに、ラファレイドの表情が変わる。
「舐めるなよ、クソガキ!」
振り上げられた大剣は、ルシエル目掛けて勢い良く振り下ろされた。
ガキーン!と言う音が鳴り響き、ルシエルの頭の五十センチ程上で大剣が止められた。
ラファレイドの大剣を軽々と片手で止めた男。
その男の姿を見て、ラファレイドの血の気が引いていく。
「マ、マギルス様!」
金色に輝く瞳は、チラリとルシエルを見る。
クスリと笑ったルシエルは、ラファレイドに視線を移した。
「これは、僕のボディーガードだよ。僕に何かしたいのなら、まずはこっちを倒さなきゃね」
ニコニコと天使の笑顔を向けるルシエルに、状況の把握が出来ないラファレイドが慌て出した。
「マギルス様!私は今、師匠の御命令でナディア様の護衛をしております。あの、この子供は危険な者では無いのでしょうか」
「・・知らない」
マギルスは面倒臭さくなったようだ。
事情を説明するより、ボコる方を選んだと言う方が正しいかもしれない。
「どうでもいいけど、やりすぎない様にね」
ルシエルの忠告に、素直にコクリと頷いたマギルスは小さく口角を上げた。
ラファレイドとガフォリクスの血の気が一気に引いた。




