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まじょカル  作者: リトナ
まじょカル×魔女×マジョカル ~第三章 情勢変異~
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第七話 執行部到着一日前・雅サイド

 音羽水葉が月之杜神社に帰ってくる三時間前のこと。


 放課後、珠々香を捕まえた水葉と逢花は、珠々香を連れ立って浅間まで電車で足を運び、珠々香のお泊りに必要な物を買い揃えていた。


 昨夜、薙斗とも話して決めたことだが、珠々香を倉敷雅の家にしばらく泊めてもらうためである。


 水葉としては女の子の珠々香を、男の子の倉敷に預けるのは不満だったのだが、月之杜神社に残って戦いに巻き込まれる方が最悪なので、渋々倉敷に預けることに。


 買い物を終えた頃には既に二時間が経ち、倉敷と駅前で待ち合わせていたので、そこで水葉たちは倉敷に買ってばかりの珠々香のお泊りセットを渡し、珠々香のことを任したのだった。その後、水葉はその足でバイト先の川澄弥夕の元にしばらくバイトに入れないことを告げに行く。逢花は夕食の支度があるので、水葉とはここで別れて先に神社に戻ることとなった。


「珠々香、そろそろ行こう」

「うん!」


 珠々香が差し出す手を倉敷はマジマジと見つめる。


 長く人と付き合うことから遠ざかっていた倉敷には自分と同じ髪の色を持つ少女が何をしたいのか本気でわからなかったのだ。


「な、なに?」

「手……繋いでも良い?」

「え? も、もちろん!」


 慌てて自分の手を綺麗にしようと服で拭きだす倉敷。


 恐る恐る拭き終わった手を珠々香に差し出した。


「えへへ。ありがとう、お兄ちゃん」


(……お兄ちゃん……か。そんなふうに呼ばれるのなんて何年ぶりだろ?)


 珠々香は自分と血の繋がりがあることを覚えていない。前はよく自分の後ろを付いて来る子だったことを倉敷は思い出していた。


「あれ? お兄ちゃん、駅に行くの?」

「うん、そうだよ。悪いんだけど、今日明日だけ僕のところじゃなく、僕の知り合いの女の人のところに珠々香には泊まって欲しいんだ。明後日には迎えに行くから大丈夫だよ」

「スズカの知ってる人?」

「向こうは珠々香のこと知ってるだろうけど、珠々香は知らないんじゃないかなぁ。一緒にいてあげれなくて悪いけど、明後日にはちゃんと珠々香のところに行くからさ」

「う~ん……それならスズカ、我慢する!」

「じゃあ、一緒に学校へ行こうか。その人、いつも学校で忙しくしてるから、こっちから会いに行った方が早いんだ」

「は~い」


 こうして二人は学校のある神名へ再び向かう。




   ***



 浅間駅から神名駅に到着し、歩いて学校に向かう倉敷と珠々香。駅から徒歩十分ほどで到着したが、その頃には今日一日曇り空だったこともあり、いつもより早く、すっかり辺りは暗くなっている。


 校門の前には、こんな辺境の島にはあまりにも不釣り合いな白の高級車が一台止まっていた。今みたいにここで何度か見かけた覚えが倉敷にはある。車には興味がないので車種まではわからないが、あれがとんでもなく高い車だというのだけは詳しくなくても一目でわかる。


 自分たちには縁はないと言わんばかりに倉敷と珠々香が車の横を通り過ぎようとすると、後ろから車のドアが開いた音が聞こえてきた。


 こんな田舎に似つかわしくないセレブな車に乗ってる派手好きの顔を倉敷は一目見てやろうと振り返るが、高級車から今にも降りようとする女性の姿を見て絶句してしまう。


 女性……まだ女の子と言える年齢のはずなのに、同年代の女の子よりも佇まいに気品があるせいか、どこか大人びて見える。目の前の学園に通う生徒ならば誰でも着ている神名学園の制服を身に付けた少女。優しい女性らしい藤色をさらに薄く淡くした青紫色……淡藤色の髪にウェーブがかかった長髪。頭の両端にリボンを付けてチャーミングに決めている。いかにもお嬢様然とした少女は、この学園で最も有名な人物だ。教師から信頼厚く、男女問わず生徒からの人気が高い、学園のアイドル的存在であり生徒会長。


 何が彼女を周りからそうさせているのかというと、電子工学の研究・開発において世界でも有数の企業のご令嬢のうえ、それをおくびにも出さずに、彼女自身のスペックが異常に高いことにある。容姿端麗、頭脳明晰でIQ200あると噂されているほど。性格も人当たりが良く人望も厚い。


 その完璧過ぎる稀少さ故に『ダイヤモンドの姫』と呼ばれたり。


 超が付くほどの学園のアイドル……それが神名の最強生徒会長、紅栗(くくり)瀬里菜(せりな)――


 唯一の弱点は胸の大きさが残念なことぐらい。


 この手の人物は大抵お胸もそれなりに備わっているのが相場なのだが、その唯一の弱点ゆえに彼女は時に『貧乳姫』だの『ちっぱい姫』と呼ばれていた。もちろん、面と向かってそう言う者はほぼいないが。


「倉敷君、お疲れ様です。それと……珠々香ちゃんね。こんばんは、珠々香ちゃん。私は紅栗瀬里菜と申します。よろしくね」

 

 車から降りた見目麗しい生徒会長が二人に近付き軽く会釈。珠々香の前で屈み込んで挨拶をした。どうやら生徒会長は子供の扱いにも精通しているらしい。


「ところで倉敷君、今なにか失礼なことを考えていなかったでしょうか?」

「さぁてね」


 勘も鋭い生徒会長。


「それじゃあ先輩、話通り珠々香を頼むよ」

「わかりました。明後日、珠々香ちゃんを迎えに来るってことで良いんですわよね?」

「うん、よろしく」

「こんなに可愛いんだったら、ずっと私の家にいて欲しいぐらいですわ」


 珠々香を抱きしめながら言う生徒会長の普段は見せない女の子らしい姿に、この最強の生徒会長にもまだ弱点が残されていたことを知る倉敷。


 一見完璧そうに見えても、突けば意外といろいろ弱点は出てくるのかもしれないと思ったが、彼女が怒った時の恐ろしさをよく知っているので、その知識を得るためのデメリットがあまりにも割に合わないので試してみようとすら考える気にはなれなかった。


 イメージと異なる予想外の会長の豹変ぶりに不覚にも我を一瞬忘れていた倉敷の耳元に、いつの間に珠々香から離れていたのか、スッと会長が顔を寄せて唇を動かす。


「倉敷君、預かるのは明後日までですよ? ……ご無理なさらないように」


 不思議そうに二人のやり取りを下から見る珠々香には聞こえないように耳打ちした会長は、言い終えるとすぐにその場から離れ、珠々香の横に戻って行った。そしてその手を取り、待たせていた車の後部座席の中に移動する。


(どこまで僕のやろうとしてること知ってるんだか……やっぱり、この人は油断ならないね)


 同時に敵に回してはいけない類の者だと倉敷は認識を深めた。


 閉じられたドアのドアウインドが開き、珠々香と会長の顔を覗くことができる。


「それでは御機嫌よう、倉敷君。珠々香ちゃんもご挨拶しましょうか」

「お兄ちゃん、バイバイ~!」

「…………」


 こういう時、なんて応えて良いのか知識としては知っていても、いざ自分がするとなると恥ずかしさで抵抗を感じてしまい戸惑う倉敷。


 見かねた会長が助け舟を出す。


「倉敷君、ちゃんと挨拶できないなら、倉敷君の恥ずかしいこと今晩にもうっかりとこの子にしゃべってしまいそうですわ」

「……そんなこと先輩に教えた覚え、僕一度もないんだけどさ……。まぁ、いいや……わかったよ、まったく、もう! ……さようなら! これで良い!?」

「よく出来ました」


(僕は子供かっての……!)


 開けられていた窓が上へとスライドしていく。すぐにそれは完全に閉じられ、やがて車が動き出した。


 窓の向こうから幼い少女が元気に手を振り続ける姿が見える。その姿が完全に見えなくなるまで倉敷は足を止めて、その場で見送った。


 急に静寂が訪れてしまい、なんだか胸にポッカリ穴が開いたような気がしたが、この時の倉敷にはまだその理由が何なのかよく理解できないでいたのだった。



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