第五話 執行部到着二日前
「あと二日……明後日か。近いうちにこうなることは覚悟してたけど、いざ来るとわかったら、もう少し時間が欲しく感じるなぁ」
「で、ナギ先輩。勝算はあるの?」
昼食を今日は外で皆と食べることになっていたが、皆と合流する前に俺は雅から話があると言われ運動場の隅っこに移動し、そこで雅の話を聞き終えたところだった。
雅の話では、昨日マジョカル本部から執行部がこの島に派遣されたことを知らせるメールが雅に届いたらしい。そして今回の任務が書かれていたと。
執行部がこんな辺境の島に来る理由など決まっている。
瑞原薙斗への粛清――
来るべき日がきたのだ。
「先輩、これからどうする気さ?」
執行部の粛清対象者である俺とこうやって接しているだけでも危険だというのに、後輩は素直ではないからはっきりとは言わないが俺の身を案じて組織の情報を流してくれた。とてもありがたいことである。だからこそ、俺は雅を今回の件に巻き込むわけにはいかない。
「そうだなぁ……俺一人が狙いなら神社から出ていくなり、それこそこの島から逃げた方が良いんだろうけど……」
「残念ながら執行部の狙いはナギ先輩だけじゃないからね。逢花先輩までが対象かどうかはまだわからないけど、音羽先輩は間違いなく狙われるよ……そうなったら逢花先輩は音羽先輩を助けるために必ず動くはずだし」
「……俺一人だけ島を出るわけにはいかないよなぁ。俺が執行部と話して、水葉が魔女じゃないこととレンとの一件を正直に話すしかないか」
もっとも、それで執行部が納得するとは思えないが。
「それだけじゃ執行部は止まらないよ。上手くいったとしても、そのやり方だとナギ先輩だけが助からないって」
「だよなぁ……」
本心ではそれでも良いと思う自分がいる。別に自殺願望があるわけではない。まだまだやりたいことはあるが、逢花と水葉が助かるなら悪くないと思える……ただそれだけだ。それに、あまり島で調べられて珠々香が魔女である可能性に辿り着かれようものなら、それこそ大変なことになる。
元々マジョカルは最初、水葉の魔女判定をグレーという位置付けにしており、その調査をするために俺たちを派遣させたぐらいだ。水葉のことに関してはグレーを白だったと執行部に報告し説得することは可能性としてまだ望みは残されている。
しかし、珠々香に関しては執行部も本部も限りなく見逃す可能性は残念ながら低いと言わざるをえない。シスターとしての珠々香なら水葉のようにグレー判定で済むと思う。けれど、珠々香には実際に魔女になってしまったという経歴があった。さらに魔力の性質は負の感情から生まれたものだ。知られれば、間違いなく珠々香はマジョカルの討伐対象になるだろう。
「雅、悪いけど、しばらく珠々香を預かっててくれないか?」
「な、な、なんでさ!?」
「むしろなんでそんなに驚くのか、こっちが聞きたいぐらいだけど」
雅のこういう姿は珍しい。
「別に理由は言わなくてもわかるだろ?」
「……そりゃあ、まぁ……今じゃ月之杜神社にいるのが一番危ないからね」
「そういうことなんで、よろしく」
「……はぁ……仕方ないなぁ、もう……で、先輩。二人にはこのこと言うの?」
二人というのは逢花と水葉のことだとすぐにわかったが、けれどすぐに答えて良いものか悩んでしまう。
「珠々香を雅に預ける以上、二人には理由を話さないといけないだろうし、予めこれからのことを知ってた方がいざという時の行動力に違いが出ると思う」
「ふ~ん……なら、二人にも知らせるってことで」
「ああ」
欲を言えば俺だけでどうにかしたいところではあるが、もしものことを考えたら、やはり二人も知ってた方がリスクは減るだろうな。
「そろそろ皆のところに行こうか。食べる時間が無くなってしまうし」
手にしていた弁当を顔の高さまで上げて、雅に見せる俺。
「そうだね。これ以上は音羽先輩の機嫌に関わるしね」
「まったくだ……」
「……先輩、ほんとにわかってる?」
「ん? 俺たちが待ち合わせに遅いから水葉が怒るって話だろ?」
「…………まぁ、いいや。僕も音羽先輩に殺されたくないしね……あ、やっぱいいや。先輩、今日は僕パスするよ。用事があったの思い出した。先輩一人で行っててもらえる?」
「? それは良いけど……」
相変わらずマイペースな後輩は「じゃあね」と一言残し、校内へと戻るのか、そちらの方へ歩み出した。
まったく……。最近ちょっとは協調性が出てきたかと思ってたんだけど。
「おっと。いつまでもこうしてるわけにはいかないんだっけ」
去り際に雅が言ってた水葉の機嫌の話には何か裏が含まれてそうで気になるにはなるが、言い出した本人がいなくなったのだし、これ以上ここにいても仕方がない。
急ぎ足で俺は皆が陣取っているであろう校庭近くにある、いつもの広場に進み始める。
こんな他愛ない日常をまた過ごせるかどうかは明後日次第だが、今はこの平和な時間を大切に使おうと俺は心に決めたのだった。




