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まじょカル  作者: リトナ
まじょカル×魔女×シスター ~第二章 相交わる惨禍~
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第一話 デート

 逢花と水葉が帰り支度を始める三時間前――



 夕日が地平線に沈んで間もない時刻。


 山を下り、電車に乗って街中にまでやってきた瑞原みずはら薙斗なぎとは初めて来た浅間せんげん駅周辺の街並みをのんびり観察していた。


 都内ほどじゃないが、高層ビルやマンションが建ち並び多くの人々が行き交い、駅前からは十分活気が感じられる。


 月之杜つきのもり神社から最も近い神名駅周辺と比べるとまるで月とスッポンだ。


 向こうは向こうで田園風景が広がり自然も多いので、のどかな雰囲気を味わうことができるので、どちらが良いとは一概には言えないが。


「二人のバイトが終わるまで、まだ時間があるしどうしようかな」


 バイトが終わるのは22時半だと逢花と水葉から聞いていた俺は、バイト帰りに女の子二人で夜道を歩くのは危ないんじゃないかと思い、街中に出ることにした。


 バイトのある日はいつも一人か二人で通っているし大丈夫だとは言われていたのだが、街中を一度見てみたいという気持ちもあって二人に内緒で来たのだ。


 まぁ、水葉ならともかく、逢花なら何かあっても一人で解決してしまいそうだが。


 などと考えていたら、駅前で随分と派手な女の子が目に入った。


 何が派手なのかというと、場違いな真っ赤なチャイナドレスを身に纏い、金色の髪の毛を左右それぞれで一本の尾を作っている……いわゆるツインテールというやつでさらに人の目を引きそうな姿をしている。


 通り過ぎる人々はこの派手な女の子を一目見ることはあっても、特に気にしている風もなく平然と通り過ぎて行っているのが俺には不思議に思えた。


 女の子より年上に見える男と何か会話しているようだが、女の子が苦笑いを浮かべると、ここからは何を話しているのかは聞こえないが男が離れて行った。


 すると、女の子がこの場から移動をしようとするのだが、またすぐに別の男に声をかけられたのを目にする。


 遠くからでもわかるが、女の子はけっこう……というより、かなりの美人だ。


 これはひょっとして…………



「……今、食材の買出し中なんです。ごめんなさい」

「それは大変そうだね。あ、そうだ。じゃあ、俺が荷物持ってあげるよ」

「いえ、大丈夫です。毎日してることですので。お気持ちだけありがたく頂きますね」

「そう……残念。じゃあさ…………」


 赤いドレスの女の子の顔には時折困ったような表情が見て取れるのだが、それをあからさまに相手に見せるのを避けている節が感じられる。理由はわからないが。


「いえ、ですから…………」


 面倒事はイヤなんだけど、仕方ない…………



「やー、ごめんごめん! 待ち合わせに遅れてしまって」


 いきなり現われた来訪者に金髪ツインテールの女の子と男はびっくりして、俺の方を見た。


 男の顔はいかにも不審そうな目で俺を見るが、知ったことではない。


 俺は女の子にだけわかるように目で合図を送ることを試みた。


「買い物終わったらデートどこに行こうか? 今日は君の好きなとこで良いよ。……って、あれ? この人、知り合いかい?」


 は、恥ずかしい……。


 普段の自分とまったく異なる自分を演じつつ、彼女どころかデートすらしたことないのに……と心の中で誰に言うわけでもなく怨み節のように呟く俺。


 一週間前には人の顔も認識できなかった俺が、まさかこんな真似をする日がくるなんて。


「もう、遅かったじゃない! ……でも…………」


 どうやら俺の意図に気付いてくれて、こういう時にありがちな茶番に付き合ってくれるようだ。


 彼女が俺のすぐ側まで来る。


 そして人差し指で俺の胸をなぞりながら、甘えた仕草を見せ……


「好きなところに連れて行ってくれるなら許して、あ・げ・る♪」


 まてまてまて……演技だとは十二分にわかってはいるのだが、顔が近い!


 相貌失認そうぼうしつにんが治って、まだ日が浅い俺は、もともと女性と話すのが苦手ということもあるが、何より人の顔が見えるという行為が新鮮すぎて、未だに女性の顔を恥ずかしくてろくに見ることができないのだ。


 そのことでこの一週間、逢花には注意されるは、水葉にはからかわれるはで散々だった。


「ははは……じゃあ、今日は君に任せるよ」


 ちょっとやり過ぎではと思ったが、男の顔から先程までの元気が見る影も無く消え去っていたので効果は覿面てきめんなようだ。


 目の前の現実が夢のように思えているのか、自分から聞いてはならないことを口にした。


「……あの、その人は?」

「ごめんなさい。この人、私の彼氏なんです♪」


 あ、止めを刺した。


「彼も着ましたし、私たち、そろそろ行きますね」


 赤いドレスの女の子はさっきまでしつこく言い寄ってきてた男に見せびらかすように自分の腕を俺の腕に絡めてきた。柔らかい感触が当たってる……。


「さ、行きましょ」

「ああ……」


 せっかくここまで恥ずかしいのを我慢してまで演技を続けたのに、顔を真っ赤にしてしまって男にバレたら堪らない。


 俺は彼女と一緒に早々にこの場を離れることにした。




「……ここまで来れば大丈夫よね」

「そう願いたい」


 駅から数分離れた商店街にまで来た俺たちは、男が追ってきていないことを確認すると、その場で立ち止まった。


「あら。そ~んなに私のことお気に召しません?」


 今も腕を組んだままの姿勢で、女の子は知ってか知らずか自分の胸を俺の身体に押し付けるように密着し、上目遣いで俺をジッと見てきた。


 俺の言葉がどうやら気に食わなかったらしい。


「そういうわけで言ったんじゃないんだけど……」

「ふふ。冗談です。助けてくれて、ありがとう。困ってたから助かったわ」

「そっか」


 女の子は俺から離れ笑顔を見せる。


 改めて近くで見ると、相当な美人だ。逢花や黙っている時の水葉並みに。


「その服装カッコだと目立って、さっきみたいな奴が近寄ってくることが多そうだから早く着替えた方が良いんじゃないかな?」


 駅周辺に着いてわずか数分で二度ナンパされているところを目撃した俺は老婆心ながら心配になって彼女に言った。


「ふ~ん……。やっぱり、見ない顔だなぁと思ったけど、この辺に住んでる人じゃないですよね?」

「まぁ……」

「これ仕事着なんですよ。小さい時から仕事の買出しに行く時はいつもこのドレスを着たまま出歩いてるので、この辺りの人なら大抵知っているんです」

「仕事って?」

「この商店街の中にある中華料理屋で働いているんです。良かったら、ご利用お待ちしています♪」

「なるほど。それでナンパされても強く断れなかったわけか」

「そうなんですよねぇ……接客業の辛いところです。ちょっと買出しに行く度に男の方に声をかけられて……なるべくこの時間帯に出ないように、いつもなら早めに買出しは終わらせてるんですけど、今日は材料の消費が激しくて」

「なら、もしかして急いだ方が良いのかな? けっこう時間経った気がするけど」


 彼女を初めて駅前で見かけて、既に二十分は経つ。


 荷物を何も手にしていないところを見ると、買出しはこれからなのだろう。


 何か考え込みだす彼女を余所に俺は邪魔にならないようにどこか行こうと思った。


「じゃあ、俺はそろそろ行くよ」


 後ろを振り向いて去ろうとすると、後ろから服の裾を握られた。当然、握っているのは彼女であり……


「……確か、さっき好きなところへ連れて行ってくれるって言いましたよね?」

「へ?」


 そんなこと言ったかなぁと思い耽そうになるが、すぐに思い当たることがあったことに気付く。


「いや、あれは! 成り行きで言っただけというか……」

「何か用事でも?」


 逢花と水葉のバイトが終わるまで、まだまだ時間はある。正直、時間を持て余していると言って良い。


「ん~……そういうわけでは…………」


 俺の悪い癖なのだが、女の子と一緒に会話したり何かする時、恥ずかしさの余り、ついその場から逃げ去りたく思ってしまう。


 しかし、彼女はそんな俺を見逃してはくれないらしい。


「それとも私とのデートはおイヤですか?」

「…………」


 こうして俺こと瑞原薙斗は何も言わず、素直に彼女のお誘いを受けることにした。




「……で、俺はなんでこんなとこにいるんだろう?」


 商店街にある、とあるスーパー店内の野菜売り場で次から次へと手馴れた感じで野菜をカゴに入れていく金髪の少女と共にいる俺。


 もちろんカゴを持っているのは俺で、正直重い……。


 男の面子とでも言おうか、それを女の子の前で言うのにちょっと抵抗があって彼女の思うようにさせている。


「だって、私一人で買い物してるところをさっきの人に見られたら、せっかくの演技がバレちゃうじゃない」

「それはそうなんだけど……」

「『恋人』のフリを自分から始めたんだから最後まで付き合ってくださいね」

「はいはい……」


 まるで子供のように『恋人』というフレーズにいちいち恥ずかしくなる俺なのだが、なんとなく彼女は俺がそういうのに弱いことに薄々気付いているような節が見えるのだが……考え過ぎだろうか。


「それじゃあ、次は魚と肉ね」




 烏の鳴き声が聞こえる中、買い物カゴがいっぱいになるまで食材を買い込んだ少女は満足気な表情で俺の横で一緒に歩いている。


 さすがに買い過ぎたのを悪いと思ったのかツインテールの女の子は自分が持とうとしたが、俺はそれを断って両手でスーパーの袋を持って、彼女の働く中華料理店へと向かっていた。


「ところで、あなた、街には本当に用事があって来たわけじゃないのかしら?」


 ここまで連れ回しておいてなんだけど、と彼女は付け加えた。


「ああ……。バイトしてる友達を迎えに来たんだけど、まだかなり時間があってさ。俺、この島に引っ越してきたのつい最近だから、時間まで街の中を見て回ろうと思ってたんだけど何の当てもなくて。こうやって連れて行ってもらえて逆に助かるよ」

「ふ~ん、そう……。まぁ、スーパーと精肉店にしか行ってないんだけどね」

「いつもさっきのとこで買ってるの?」

「いいえ。いつもなら明るい時間のうちに八百屋や魚屋で食材を揃えるの。昔馴染みだからおまけしてくれるしね。今日は閉店まで食材が保つか怪しかったから特別。スーパーだとまとめて買い揃えれるから、今日みたいな急ぎの時は助かるのよ。ちょっと高くつくけど」

「へ~、詳しいんだね」

「この街でずっと暮らしてるし、職業柄、ね。……それより君、この街初めてって言ってたけど、その友達の待ち合わせ場所はわかるのかしら?」


 あ~、っと俺は言いながら、ズボンのポケットに入れたままのメモ紙を取り出した。


「住所はこれに書いてもらったから、あとはスマホで探してみようかと」

「ちょっと見せてみて」


 身を乗り出してメモを見るチャイナドレスを着た華やかな少女。


「ふ~ん、なるほど……」


 その時、烏の鳴き声が聞こえた。


 見てみると電柱に二匹いて、共に五十センチ以上はあろうか。


 なんだかこちらを見ているような気がして少し気味が悪い。


 駅前からスーパーに行く最中にも烏を数匹見かけていたのだが、この街は烏が多いのだろうか?


「最近、急に増えたのよね」


 もちろん、烏のことを言っているに違いない。


「今までもたまに見かけることはあったけど。人の多い時間に……それも数も多いし、こんなこと初めてね」


 都内でも、ゴミ捨て場にゴミを袋に入れて捨てていると、朝方になって烏が袋を破ってゴミを散乱させてエサにしているというのが社会問題となっている地域があると聞いたことがある。


 この街でも同じようなことが起きているのか彼女に聞いてみると、自分の店では起きてないが、困っている店が多いとのことだ。


 日本では烏は、不吉なイメージを持つ人が多く、田畑を荒らしゴミを漁り、死肉を食らうことから忌み嫌われやすい。


 烏がよく来る店と思われてしまうとイメージダウンに繋がりかねないだろう。


「話は戻るけど、君、友達とは何時の待ち合わせ?」

「22時半頃終わるって聞いてるけど、別に待ち合わせって訳じゃないんだ。夜遅いし俺が勝手に迎えに行こうと思っただけで」

「へ~……女の子、なんだ?」

「……まぁ、そうだけど……多分、君が思っているような関係じゃないと思うよ」


 改めて女の子を迎えに行っていると自覚してしまうと、せっかく目の前の彼女と一緒に歩くのに慣れてきたところだったというのに、また頬に熱いものが込み上げてくるのを感じた。我ながら情けない……。


「あら、残念」


 すごい軽い感じで、目を少し細めて笑みを浮かべて彼女はそう言った。



 数分、商店街を歩いてチャイナドレスの少女がある店の前でふと立ち止まった。


「荷物運んでくれて、ありがとう。ここで良いわ」


 目の前の店は中華料理店のようだ。


 店名は『猫熊(パンダ)』。随分可愛らしい名前以外は特別これといって珍しいこともない普通の中華料理屋みたいだ。


 いっぱいに入ったスーパーの袋を彼女が受け取ろうとしたので、俺はこの両手に圧し掛かる重い袋を一つだけ渡したのだが、彼女は平気だからと言って両方とも手にした。


「さて、それじゃ俺はそろそろ行くよ」

「ちょっと待って。……少しここで待っててもらえるかしら?」


 何か俺の顔を観察するようにしばらく見た後、彼女から待てのお言葉が出た。時間がたっぷりあるので時間潰しにはちょうど良いかと思い、彼女の言葉を聞き入れることにする。


 すると彼女は店の中に入って行ったのだが、二十分経っても戻ってこない。


 どうしたものかと俺が試行錯誤しているところで、ようやく彼女が戻ってきた。手に紙袋を持っていて、何やら腹を刺激する良い匂いがする。


「お待たせ。……はい、これ」

「これは?」


 紙袋を渡されると、より一層の匂いとその手に温かいものを感じる。中を見ると幾つか肉まんが入っていた。


「それ作るのに思ってたより時間かかっちゃって……。時間までまだしばらくあるだろうから、それでも食べてて」

「もしかして……手作り?」


 恐る恐る俺は聞いた。


「そうよ……何かご不満でも?」

「滅相もない! ……ありがたく頂戴します」


 どうりで時間がかかったわけだ。でもこれなら待ったかいがあったな。


「あ、でも店の前で食べちゃダメよ」

「わかってる。さっき公園を見かけたから、そこで食べようと思う」


 子供か、と苦笑して答えた俺に、彼女はまたも何か不吉な笑みを浮かべ始める。


「騙されたと思って21時半になったら、ここに来なさい」


 不思議がる俺を置いて、彼女は手を振って別れの挨拶をし、店内に戻って行った。


「……とりあえず、温かいうちにこれ食べるか」


 こうして俺は彼女と買い物途中に見かけた公園へと向かうのであった。




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