59、現実3~自己嫌悪~
この作品はフィクションです。
もぞもぞ
もぞもぞ
「?」
なにやら、少女がもぞもぞと動き始めた。
「どうしたの?」
「…、あ、いえ…。…これ、どうすれば、外れるのかなぁ、って…」
もぞもぞ
もぞもぞ
なるほど。
彼女はキャリアーで運んでいた時の状態のままだから、ベルトや固定レバーで固定されたままだ。
確かにこのままキャリアーに乗ったまま、っていうのもかわいそう。だけど、ここで私が固定器具をあっさり外してしまうと、このキャリアーの持ち主が私だとばれるかもしれない。あまり話をこじらせたくはないけど…、
………よし。
「ちょっと見せて。」
「え?…はい。どうぞ。」
キャリアーのベルトをつぶさに観察するふりをする。
「ふむふむ…、なるほど…、」
何かを考えているふりをする。
「このタイプは、この辺に、ロックを外すボタンが…、………あった。」
ロックを外すボタンを、発見したふりをする。
かちっ
「よし、外れた。」
「………、」
体を締め付けていた感覚がなくなったからか、表情が少し楽になったような気がする。が、少し驚いたような表情にも見える。…私の思い込みかもしれないが。
「…どう?立てる?」
「………。」
私に言われるがまま、立ち上がろうとする彼女。
「………あ…!」
「おっと!」
ぽすっ
倒れ込んできた彼女を抱き止める。思った以上に軽い。
立ち上がった瞬間、前のめりに倒れてきた彼女。
やはり、何週間も寝たきりで固定されていたからだろうか。自分の足で立つ、という感覚を取り戻せていないのかもしれない。
………いや、わかってる。私たちのせいだってことは。
「大丈夫?どこか怪我してる?」
我ながら白々しいと思ったが、確認してみる。
「…いえ、怪我とか、どこか痛い、とかは、ないのですが…、……なんて言うか、足に力が入らなかったっていうか…。足の感覚がない、っていうか…」
…やっぱりか。
「う~ん、もしかしたら、相当長い時間、眠り続けていたのかもしれないわね。」
…平気でこういうことを言えてしまう自分が、なんだか嫌になってきた。
次回に続く。




