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55、現実3~逃走~

この作品はフィクションです。


「今すぐここから逃げろ。」


唐突な言葉だった。全く予想していなかった言葉に、脳の活動が一時停止。


「……………え?」

「今すぐに、逃げろ。」


やっと言葉を絞り出した私に、再び繰り返される言葉。


逃げろ。






逃げろ?




なんで?






「おい!聞こえているのか!」


怒声にはっとなる。意味がわからず戸惑っている場合じゃない。


現実を見ろ。


主任の彼が口を酸っぱくして言い続けていた言葉。


その彼が、逃げろ、と言っているのだ。それはつまり、逃げなければならない事態が発生した、ということを意味している。


「は、はい!」


ちょっと上ずった声で返事をする私に、冷静な声で彼は続ける。


「彼女を連れて、非常用エレベーターで地上へ出ろ。出た後は、廃棄ラボへ向かい、そこで身を隠せ。迂闊に動けば、かえって危険だ。」

「は、はい…。」


彼女、とは、ベッドで寝ている彼女のこと。どうやら、私の想像以上に事態は深刻なようだ。




私はすぐに滅菌室へと入り、彼女に装着されていたコード類を抜いていく。そして、彼女をここに運搬するときにも使った、背負い式人間用キャリアーに彼女を乗せ、それを背負った。重さの負担を五分の一程度にまで軽減してくれるという優れものだ。




「準備出来ました!」

「よし、では行け。データを抜き取り次第、私も後を追う。」

「………あの、」

「なんだ。無駄口をたたいている暇などない。」


様々な機器を手早く操作しながら、こちらを振り向かずに聞いてくる。


「一体、何があったんですか?こんなに、急に、しかも、逃げろだなんて…」

「…。」


一瞬、沈黙。


「…知らない方が良い。」


珍しく、


少しだけ、戸惑いを感じる声だった。











「!」


爆発音。


鈍く小さかったが、確実に、聞こえた。


「…ち、」


小さな舌打ち。


「さっさと行け!!」


そして怒声。


弾かれるように、


私は走り出した。











「…絶対に、その子を守りきれ。頼んだぞ…」



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