38、開店中~妄想と現実~
この作品はフィクションです。
楽して痩せたい。
痩せたい願望を持ったことのある人なら、一度は頭を過ったことがあるのではないだろうか。
楽して痩せる方法はないのだろうか、と。
しかし、
楽して痩せれば、その分リバウンドをする。楽して痩せた分、心に余裕が生まれ、どうせまた太っても、また痩せればいいや、と、考えるからだ。
だが、世の中、そうそう甘くはない。
身体というものは、常に一定ではない。同じ行動を取れば同じ結果になる、とは、限らないのだ。
故に、リバウンドは恐ろしい魔物となって、ダイエッターの喉元に食らいつくのである。
妄想の中なら、太るも痩せるも実に容易だ。場合によっては、魔法一つで体型など自由自在である。
だから、妄想世界の主たる私は、痩せたい、と思ったことがない。妄想はすべてを包括するのだから。
……………しかし、
「楽して痩せる、ねぇ…。」
現実に、痩せたい、と。しかも、楽して痩せたい、と、願う人物が目の前にいる。しかもその人物は、自分に合う、楽して痩せられるものを出せ、という。
ここは、妄想雑貨屋。妄想の媒介を売るお店。
現実に、リアルに痩せたいのなら、この店に来るのはお門違いというものだ。
「そういうお悩みなら、雑貨屋じゃなくて、ジムとか病院とか薬局とかじゃないの?適材適所、ってもんがあるでしょ、世の中。」
思いっきり素のしゃべり方に戻っていたが、致し方なしとする。
「そういうところは、もう行きましたよ。行っても無駄だったから、ここに行き着いたんです。」
「無駄?」
「どこに行っても、基本は節度のある食生活とか適度な運動とか、同じことを言われたので。僕は、好きに食べて、楽をして、そして、痩せたいんですよ?」
……………う~む。
ここまで我が儘な願望を堂々と言われると、かえって清々しい。
「で、こういう、意味のわからないお店なら、逆に何か見つかるかな、と。」
…意味のわからない、とは、言ってくれるものだ。
つまり、この男は、妄想の同志ではなく、ただの我が儘ダイエッター、ということか。
さて、どうするか。
楽してダイエット出来るものなど、うちには多分、ない。トレーニンググッズもあるにはあるが、それは彼の言う、楽して、には、当てはまらないだろう。
なんせ、うちは妄想を助ける店で、現実を助ける店ではないのだから。
…しかし、このまま帰すのは、なんだか負けた気がしてムカつくわね…。




