37、開店中〜楽して〜
この作品はフィクションです。
「あはは〜…、そうですよね〜…、今の時代に、自分からミイラになりたい人なんていませんよね〜…あは、冗談ですよ〜冗談〜。」
おそらく、完全にひきつった笑顔になっていたであろう。私はそう言いながら、さっさと本を引っ込めた。
しかし…、だとすると、なんなのだろう?全身にタオルを巻く理由。
「本当は、こちらをオススメしたかったんですよ〜。」
…なんだろう…、…全身の汗を、こぼすことなく瞬時に拭き取るためか?そのために巻いているのか?
「全国の穴場スポットが掲載されていますので〜、急に遠出したくなった時とか、便利ですよ〜?」
あり得る。………この男なら、あり得る。
『厳選!全国の名湯秘湯68選!』
「温泉、ですか?」
「はい〜。ぴったりだと思いますよ〜?」
「まぁ〜………確かにそういうのがいいという話もありますけどね〜。」
…え?
テキトーに出した本が、まさかのニアミス!?
「でも、そんなに遠出しませんし…。ていうか、そんなに移動に時間かけるのもめんどくさいっていうか…」
「あはは〜。そうですよねそうですよね〜遠出は大変ですもんね〜わかりますわかります〜。」
再びさっさと本を引っ込める。
温泉で、何か引っ掛かるものがあった、ってことは…。
…リラックスか?リラクゼーションか?心の安らぎなのか?
求めているのは、安らかなるもの、なのか!?
『安らぎのヒーリングミュージック集』
「……………。」
「だいぶいい感じに安らげると思いますよ〜?」
「…僕に合いますかぁ?」
「もちろんですよ〜。」
「…でもなぁ…」
首を捻る男。
なんだ?もっと物理的な安らぎを求めているのか…?
ったく、何が欲しいのかを素直に言ってくれれば!
「これで痩せるとは思えないんだけどなぁ…」
こんな回りくどいことをしなくても済むのに!
「あ、痩せたいんですか?」
「そうですよ?」
……………。
いきなり何の前触れもなく言うなよっ!!不満言ってたのがバカみたいじゃないの!!
「はぁ。痩せたい、ですか。………なんでタオルを体に巻くんですか?」
単純な疑問が出た。
バスタオルを全身に巻くと、痩せるのだろうか?
「えぇ?そりゃあ、痩せるためですよ。」
「バスタオルを全身に巻くと痩せるんですか?」
「痩せそうじゃないですか。なんか。」
……………。
「出来る限り楽して痩せたいんですよ。運動とか嫌いなんで。」
……………。




