34、開店中〜まだ妄想〜
この作品はフィクションです。
「………というわけで、三代目の籠手を持ち帰ったことで、ファミリーとして認めてもらえた、ってことなのよ。」
「……………へぇ〜、」
いい加減うんざり。そんなオーラを全身から放ちながら、返事を返してくる後輩くん。
前回の終わりから、私の妄想トークはまだまだ続いていた。
後輩くんに接近した方法、殺しに来た理由。暗殺者としての厳しい鍛練。ファミリーとしての生活。と、話はどんどん遡って、どうやってファミリーとして認められたか、ってところまで妄想は進んでいた。
後輩くんは片肘なんぞついている。まったく、妄想耐久力が全く足りない。この程度で疲労するなど訓練不足だ。
私の妄想の泉は、まだまだ湧いて溢れて止まらないというのに。
「その三代目の籠手というのが、五重に仕掛けられた即死トラップを解除した先にあるという」
「え〜と、はい。そうですね。うん。もう、なんといいますか、ごめんなさい。私の見識が狭かったです。」
………ふっ、勝った。
やはり妄想は全てを超越し包括する。生半可な理屈など恐れるに足らず、なのだ。
「わかればよろしい。…これを機に、後輩くんも本格的に妄想道を極めてみればいいのに。」
「なんですか、そのいかがわしい道は…。生憎と、自分は自分の進むべき道をすでに定めておりますので。」
きっぱり。
言い切られてしまった。
まったく…、後輩くんは昔からこうだ。これ、と、自分で決めたら、他人の助言を一切受け付けなくなる。柔軟性が皆無なのだ。
「いい加減いい大人なんだから。他人の言葉に耳を傾けるくらいのことはしてみたら?世界広がるわよ、きっと。」
「変な方向に広げるより、自分の興味あるものを突き詰めたいですので。」
聞く耳持たず。
最後のシールを綺麗に剥がし終えると、ふぅ、と息をつく。
「これからは思い付きで変なことしないでくださいね。あ、それと、これ。」
そう言って渡されたビニール袋。
「なにこれ?」
「………まさかとは思いますが、忘れてるんじゃないでしょうね。無理矢理買い物頼んでおいて。」
「………。」
「………。」
「……………!。あ〜、あれか。シール剥がし液の前に頼んだやつ。」
「忘れてましたね、完全に…。」
「そんなことないわよ〜。『塩っ辛くないけど塩を感じる食べ物』、よね?覚えてる覚えてる。」
「それは何より…。で、どうですか?一応要望は満たしてると思いますが。」
「ほほぉ?どらどら…」
……………。
「…これは?」
「『塩を入れる調味料入れに入った砂糖』です。」
「……………。」
「ご要望通りだと思いますが?」
…赤点。
補習課題は何にしてやろうか。




