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3、開店初日〜経営者として〜

この小説はフィクションです。

「いい?」


レジカウンター越しに話をしている、後輩くんと私。水の入ったグラスをカウンターの上に、ことん、と乗せて。私は言葉を切り出す。


「この店は利益を求めて開店したわけじゃないの。妄想を楽しみ、味わい、愛し愛される。その時間を味わってもらう手助けのために存在するの。利益なんて二の次よ。」

「そんなことを本気で言うのは、先輩くらいのものですよ…。」


そのグラスを手元に引き寄せる後輩くんの声は、明らかに呆れていた。


「建前としてそれを言う経営者はいても、実際に利益を二の次扱いする経営者は、経営者失格です。」

「そんなのキミの価値観でしょ?そもそも私、経営者じゃないし。」

「じゃあ、なんですか?」

「妄想世界の主。」

「……………。」


音には出さないものの、心の中で完全にため息をついたであろう後輩くん。ま、その反応も予想通りだけど。


「別に主でも王でも支配者でもいいです。けど、ボランティアでやってるわけじゃないんでしょう?」

「当然。」

「だったら収支プラスマイナスのことも考えないと。」

「考えない、とは、言ってないじゃない。二の次って言ってるだけで。」

「二の次に回してることは大抵考えないでしょ。」


グラスの水を一口。そして、


「だいたい。妄想を手助けするとかなんとか言ってますけど、妄想って一人で、しかも頭の中でするものでしょう?」

「基本はね。」

「妄想のために、わざわざこの場所まで足を運んで、尚且、お金を払うような人がいるんですか?…まぁ雑貨屋だから、買わなきゃお金は発生しませんが。」

「さぁね?」


実にあっけらかんと返事を返す。それは、間違いなく私の本音。


実際のところ、妄想をするためにお金を払う人物がいるかどうかは、私にもわからない。仮に私が、思う存分妄想をする手助けをしてやるから金払え、と言われたとしても、素直には乗っからないだろう。


妄想とは、世界であり、愛である。決して、お金で買うものではないのだ。


ならば、だ。何故私はこの店を開いたのか。妄想をお金で買うものではないと断じつつ、妄想を利用しているのは何故なのか。


理由は簡単。


「妄想の素晴らしさを世に広めるためよ。」

「………え?」


目をぱちくりする後輩くん。


「後輩くんの言う通り、妄想は基本、一人でするものよ。だけど私は、それを共有したいの。たくさんの人と。妄想の内容とかじゃなくて、妄想する、って行為自体を。そのための媒介として、これだけの物を集めたんだから。」

「…はぁ。」


あまりピンと来てないわね…。全く、妄想の修行が足りないわ。


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