20、開店中〜スーツとお値段〜
この作品はフィクションです。
「……………。」
食い入るように宝箱を見つめている男性。そりゃそうだ。こんだけ苦労して引っ張り出して来たんだから、薄いリアクションでは困る。困るって言うか、ムカつく。
なにせ、これだけ手こずらせてくれたのだ。このままご購入〜、ってとこまでいってくれないと私が報われない。売り上げとかは二の次なんだけど、必死に引っ張り出したこれを、また倉庫に戻すのが至極面倒だからだ。
「………あの、」
…来たか?
「はい〜、なんでしょうか〜?」
「…この、宝箱って、…開きますか?」
「はい〜。もちろんです。ちゃんと、中に収納も出来ますよ〜?」
なんだ、そんなことか。…本格仕様の宝箱をなめるなよ?
「ただですね〜。こちら、本格仕様となっておりますので〜…」
宝箱の蓋に手をかける。そして、
き、きぅぃうぃ、きき、ぃぃ〜〜〜〜〜
なんとも形容し難い音を立てて、蓋がゆっくりと開いていく。
「いろいろな部分が、あえて、錆び付いているんですね〜。一応、メーカーさんに連絡すれば、新品の金具に取り替えてもらえるみたいですが〜。」
「……………。」
無言の男性。が、なんとなく、恍惚の表情のように見えるのは気のせいだろうか?
「…………あの、」
…来たか?今度こそ。
「はい〜。」
「………これ、配送していただくことは、可能ですか?」
………来た。
「はい〜、勿論です〜。これすごく重いですから〜。お買い上げいただければ、配送料無料でお届けさせていただきますよ〜?」
「……………。」
…ふっ。これはもう、もらったでしょ。あとは、あの一言を言ってもらうだけ。それだけで、
「……………あの、」
全ては完結するっ!!
「おいくら、ですか?」
……………。
…もう一段階、あったわね。
「はい〜、こちらですね〜、細かな部分に手作業の入った本格仕様の宝箱となっておりますので〜、少々お値段張るんですが〜…」
「……………。」
「税込49800円となっております〜。」
「……………。」
…さぁ、どうでる。
この値段、国産檜製であることを考えても、その辺の木製の箪笥やチェストと比べて、高額である感じは否めないと思う。
勿論、その金額に相当するだけの手間はかかっているわけだが。
…さぁ、どうでる!
「……………あの。」
暫しの沈黙の後、彼はゆっくりと、こう告げた。
「そんなに安くて、いいんですか?」




