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5 棺桶に堕ちちゃった話し

「?????」

そこに有ったのは携帯電話。しかも革バンドのストラップ付き、新品じゃない誰かが使用している電話。

「はい、貸して。」

彼はやんわりとそれを受け取りワンプッシュでコールをした。

「君が選んだんだからね。」

首を傾げるあずさの前で

「こんばんは。こんな時間に失礼します。いや、プライベートな用件なんですよ、ええ。いえ、お恥ずかしいのですが、以前奥様の事を

“一目惚れでどうしても忘れられなかった。”

っておっしゃってましたよね。それが僕にも起きてしまいまして。」

彼の眼鏡がきらりと光った。

「ええ、ええ。その一件は残念でしたね。確か社運をかけた一大プロジェクトが動いていたんですよね。心中お察しします。従業員全てに対して責任をお持ちでいらっしゃいますからね。」

そこは今まで彼女には見せた事の無い明らかにお仕事兼用プライベートモード。

「ええ、僕も同じで手放したくないものですから、結婚を前提に口説いている所なんですが。」

物凄くヤバい雰囲気に逃げ出そうとした彼女の腰に

“がしっ!!”

腕が絡み付き、

「はい、仲人ですか?それはありがとうございます。」

震えるあずさの頭のてっぺんをとんがった顎が

“こつんこつん”

リズミカルに叩いた。

「ええ、そうして頂けると凄く嬉しいのですが如何せん、彼女に僕は役不足らしくって。というか、本気が伝わっていないという所でしょうか。」

電話越しに漏れて来るどこかで聞いた事の有る様な笑い声。

「えっ、そうですか。じゃぁ彼女と変わりますよ。」

いきなり携帯を押し付けられ

「僕の上司。」

そんな事いきなり言われても

『何しゃべれって言うのよ!!』

とりあえず大げさに口だけ動かした。その耳に

『はじめまして、白玉と申します。』

聞き覚えどころじゃない声が響いた。

『私は市原君の上司ですが、ええ、彼はとても良い青年ですよ。ははは。欲を言えば私の娘婿になって欲しい位たのもしく思っています。ここはせっかくですからいかがでしょう。彼の気持ちをくんで頂けませんか?』

それはどこから聞いても自分の父親の声だった。声を出せるはずの無い彼女の耳元で彼が呟いた。

「選んじゃったね。」

彼に電話を奪われ

「スミマセン会長。」

その白々しい声を聞いた。

「あずさ、照れてしまったみたいで。」

彼は知能犯だったりする。彼女も気がついていたけれど、まさかここまでいくとは予想だにしていなかった事も確か。

「えっ、娘さんと同じ名前?それは奇遇ですね。彼女のフルネームですか?」

わざとらしく送話部を押さえ、しかも大声で

「あずさ、君に夢中になっていて苗字を聞いていなかったね。」

彼の口元から牙が見える様な気がしたのは夢か幻か。

「白玉あずさだそうです。」

「夢オチって、無いの?」

脱力寸前のあずさに最後の一撃は襲いかかった。

「えっ?会長の娘?まさかそんな夢みたいな話しがあるますか?あはははは、いえ、正直申し上げてナンパだったんです。」

もう、だめ押し。

『あずさ、おめでとう。』

一瞬だけ彼女の耳に当てがわれた携帯ははっきりそう言っていた。それから数分後、彼女の結納の日取りは

「今すぐスケジュール確認しますね。もちろん友引の吉日で。大丈夫ですよ。あずさの職場の人達も僕達に好意的でしたから。」

という非常に有能な会長秘書の手によって決められてしまっていた。

 ハッピー・ハッピー・ハロウィン。彼はにんまり微笑みながら、腕の中で暴れる子猫を抱きしめいたくご満悦でした。小さな小箱から取り出したのは小指のサイズのプラチナのリング。

「じゃあこれは返品で、石のついたものを選ばないとね。」

ここで

“最初っからそのつもりで”

買う時に

“もしかしたらダイヤリングに変更してもらうかもしれない”

なんて言って

“喜んで交換させて頂きます♪”

そんな会話をしていた事は、秘密。


 その後彼女がいくら

『騙された!!』

って叫んでも、いや、叫べば叫ぶほど

『照れてる〜〜〜。可愛い〜〜〜。』

ってからかわれましたとさ。


                 おしまい

ここまでおつき合い頂きありがとうございます。


ハロウィンのお話だったのに季節外れになってしまって反省。


この次はシーズンらしいもの仕上げますね ♪

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