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脳内選択肢が俺を世界最強に導いてくれる(強制)  作者: かませ犬


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1/3

0.脳内選択肢が俺を殺しにきている

 ───今から200年も昔の話だ。


 この世界では一度、大きな戦いが起きた。後世において『人魔戦争』と呼ばれる戦いだ。


 戦いのきっかけは人の国と魔族の国、その領地の境界線で希少鉱石が発掘できる鉱山が発見された事だった。


 莫大な富を生み出す希少鉱石はどちらの国も欲してやまないもの。互いに利権を欲し、争いが起きた。


 10年にも及ぶ激しい戦いは、勇者パーティーと呼ばれる者たちの活躍で終結したとされる。鉱山の利権は人の国へと渡り、また魔族は領地の多くを手放す事となった。


 人の国の大勝利で終わったからこそ、この戦いが今も語り継がれているのだろう。


「この戦いにおいて活躍した我らがご先祖さまは国王陛下から直々に『辺境伯』の爵位と領地を授けられた。魔国との隣接する土地だ。ご先祖さまがどれだけ国王陛下に重用されていたか、分かるなフリード?」


「はい!」


 耳にタコができるまで聞いたご先祖さまの武勇伝に、俺の横に座っている弟───フリードが目を輝かせながら返事をする。


 この話をしている父上はそれはもう誇らしげに語ってはいるが、あの戦いによって魔国との関係は最悪と言っていい。


 いつ戦いが起きてもおかしくない緊張感がこの領地にいると嫌というほど伝わってくる。何かのきっかけで争いが起きれば真っ先に攻められるのは俺たちの領地だろう。


 正直、気が気じゃない。


「我らは国王陛下から授けられたこの領地を護らなければならない。その為に必要なものが何か、わかるなフリード?」


「はい、魔法です!」


 フリードの返答に父上は満足そうに頷く。


「魔法は魔力を持たぬ者には使えない。選ばれし者にしか使えない特別なものなのだ」


「僕が知る限りだと我一族を除けば魔力を持つのは公爵家と王家の御方のみです!」


「その通り!我が一族がどれだけ優れているか、よく分かるな?」


「はい!」


 ご先祖さまが現れるまでは魔法は王家の人間にしか使えないものだと言われていた。その常識を覆したのが我らがご先祖さま───魔導士エイボンだ。


「我が一族の人間であるならば、魔法は使えなくてはならない。そうだな、フリード」


「はい!」


 嫌な目が俺に向けられている。隣に座るフリードからは勝ち誇るような笑みが見えた。


「それで、少しは魔法は使えるようになったか?ジーク」


「っ───」


「使えるようになったのか?」


「申し訳ございません」


 俺に話を振るだろうという事は予想していた。だが、俺は父上が満足する返答を持ち合わせていない。


「それではダメだ。いくら、お前が落ちこぼれとはいえマクスウェル家の人間なのだ。自覚があるなら何をするべきか分かるな」


「はい⋯⋯」


「なら、お前との話はこれで終わりだ。フリードのように少しは魔法が使えるようになってからワシの前にこい」


 呼び出したのはアンタだろ、と喉元まで出かけた言葉をグッと堪え、父上に頭を下げてから部屋を出る。


 その最中に聞こえた俺をバカにするようなフリードの笑い声が不愉快だった。けど言い返す資格のない俺の無力さに酷く苛立ちを覚えた。


「くそっー!!」


 屋敷の中庭に出て、気付けば感情のままに叫んでいた。


 ───どうして俺には魔法が使えない?


 同じ血を引く兄上やフリードは息を吐くように魔法が使えるというのに⋯⋯。


「才能がない⋯⋯」


 自分で口にして、心が折れそうになる。


 魔力はある。それは俺も自覚している。


 けど、肝心の魔法が使えない。


 父上や兄上、フリードからもやり方を聞いて実践しても魔法が使えない。何度も何度も、日が出てから沈むまでずっと繰り返してもダメだった。


 家族から向けられる失望の目がとにかく怖かった。


「なんでダメなんだ⋯⋯」


 魔法を使う為に必要な勉学を勤しんだ。魔力を増やす為の鍛錬もした。なのに───。


「なんで俺だけ使えないんだ!!」




 ───才能がない。




 そんな事は自分だって分かってる。


 それでも諦めきれない。


 ご先祖さまのようになりたい。


 そんな想いを今も捨てきれずにいる。


「強くなりたい」


 魔法を使えるようになって、ご先祖さまのように活躍して───家族を見返せる人間になりたい!


 その時だった───。


『強くなりたいか?』


「え?」


 頭の中に知らない人の声がした。


 慌てて辺りを見渡しても誰もいない。


『強くなりたいか?』


 また同じ声。


 俺をからかっているのかと思って、再度辺りを見渡しても人の影すらない。


 ───強くなりたいか?


 どこの誰かも分からない者の問いかけ。声の正体は分からない。もしかしたら俺自身の弱さが生み出した幻聴かもしれない。


 なら、応えても構わないか。自分の弱さを振り払え。


「強くなりたい!誰よりも!」


 声に出して、なんてバカな事をしてるんだろうかとハッと我に帰った。けど、不思議と気分は晴れている。


 自分の才能のなさに嫌気がして、現実に打ちのめされていたからこそ、こんな些細なことでも心が救われる。



『ならば叶えよう。世界最強に汝を導こう』




 また、声がした。


 バカバカしい。


 この声は俺の弱さが生み出した幻聴だ。


 そう決めつけて動こうとした。だが、身体が動かない。足を動かそうとしても地に吸い付いたかのように微動だにしない。


『選ぶがいい!この二択が汝が求める頂へと導こう!』


 何が起きているのか理解が追いつかず、混乱している俺に畳み掛けるようにまた声が聞こえた。


『さぁ、選ぶのだ!』


①【魂が叫んでいる。強くなりたいと! 素振り1万回を実行】

②【魂が叫んでいる。強くなりたいと!素振りいちまんかいを実行】


 頭の中に文字が浮かび上がる。


『強くなりたいのであろう?ならばこの二つの選択肢から汝が選ぶのだ』


 正直、意味が分からない。


 声の正体も誰か分からないまま。


 頭の中に浮かぶ文字───選択肢とやらも、俺の身体が動かない理由も何も分からない。


 頼むから教えてくれ。事細かにとは言わないが最低限の説明はしてくれと、心の中で抗議するが俺に起きている現象に変化はない。


『さぁ、選ぶのだ!』


 いい加減鬱陶しくなってきた。よく分からないが、頭の中に浮かぶ選択肢とやらのどちらかを選べばいいんだろ?


 そうしないと何も進まないのだろう?


『さぁ、選ぶのだ!』


 分かった、分かった。選べばいいんだろ?


 頭の中に浮かぶ二つの文字の列。それは選択肢というらしい。


①【魂が叫んでいる。強くなりたいと! 素振り1万回を実行】

②【魂が叫んでいる。強くなりたいと!素振りいちまんかいを実行】


 幸いな事に何て書いてあるか、読むことができた。何度読み返して見間違いではないらしい。


 どう見ても同じ事を書いてある。つまり①と②を選んで結果は同じという事だ。なら、選ぶ必要があるのか?当然の疑問が浮かび上がる。


 それ以前に、素振りを1万回もしたくない。


 俺の一族は魔法が長所だぞ。この一族に生まれてから12年、魔法を使う為に励んできた。素振りをする?剣を振る?


 そんな事をしたら家族にバカにされるに決まってる。こんな選択肢とやらを選ぶ価値はない!


『さぁ、選ぶのだ!!!』


 うるせーー!!


 そう声に出して怒鳴りたいのに声すら出ない。俺に起きている摩訶不思議な現象はどうやらこの選択肢を選ばないと、終わらないらしい。


 仕方ないか。


 ───①だ!俺は選択肢の①を選ぶ。


『承知した』


 頭の中に声が響き、頭の中に浮かんでいた文字が消えていく。これで身体が自由に動くのか?そう安堵した瞬間、俺の意思を無視して身体が勝手に動き出す。


 ───なんだ、これは!!!


 足を止めようと意識しているのに身体が勝手に動く。止まれ、止まれと声に出してる筈なのに言葉にならない。


 理解が追いつかないまま俺の身体は俺の意志とは別に動き、地面に転がっていた木の枝を手にして素振りを始めた。


 まさか?


 嘘であって欲しいと心の底から願う。俺の口から俺の意志とは違う声が出る。


「いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち⋯⋯」


 素振りの度に数が増えていく。


 このまま俺の身体は勝手に1万回素振りをするつもりだ⋯⋯。


「きゅう、じゅう、じゅういち、じゅうに」


 助けてくれーーー!!!
















 俺が解放されたのは日も暮れて、月が空に輝いた頃。


 どれだけ手が痛くても、血が流れようとも俺の意思を無視して身体は勝手に素振りを続けた。


 異変を察知した使用人が止めにきたが、俺の口は勝手に動いて使用人を追い払ってしまった。


 お願いだから、助けて。


 そんな心の声は届かないまま。


 ようやく1万回の素振りを終え、疲労のままに地面に倒れる。そこでようやく俺の意思の通りに身体が動く訳だが⋯⋯。


「くそくそくそ」


 身体は疲労困憊、手は痛くて仕方ない。こんな状態ではまともに動ける訳がない。


『お見事!選択肢を見事に成し遂げた汝を我は頂きへと導こう』


 ───誰も、お願いしてないです。


『さぁ、選ぶがよい!』 


①【休憩は十分だ。寝る前に素振りをあと1000回行おう】

②【休憩は必要だが、その前に素振りを後1000回行う】


「⋯⋯⋯⋯」












 ───脳内選択肢が、俺を殺しにきている。

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