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家譜 ~中書省員外郎 李成安の生涯  作者: 早瀬 構
第一部

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プロローグ

――本作の日付は、読者の便宜のため、

   グレゴリオ暦換算で記載する。


――人名・地名その他の固有名詞は、日本語

   の通行表記を基本に統一する。


――漢字文化圏の人物は漢字表記、その他は

   片仮名表記を原則とする。


――本作は作中人物の視界と伝聞に即して

   叙述するため、官職名・制度・系譜等の

   一部を簡略化する。


――なお本作は歴史上の人物・事件に材を

   採るフィクションであり、史実の細部・

   解釈とは異なる場合がある。

 私は、ニシビスのヨハンナン。ニシビスというより、ヌサイビンという名のほうが、いまの支配者どもには通りがよいだろう。


 数百年前には交易路の要衝として栄えた土地だというが、いまでは信仰を口実にした連中に幾度も踏みにじられ、ただ鄙びただけの町になった。


 私はそこで生まれ、東方教会の洗礼を受けた。八つのとき、町を襲った賊にさらわれ、身体に一生消えぬ枷を負わされた。……もっとも、私のような枷を負う者など、そう珍しくもない。


 ダマスカスで奴隷として売られ、幾人かの主人の手を経て、十五のときに通州の商人、李福海に買われた。


 李福海は私を、書記兼通詞兼雑役夫として使った。昨年からは、その次男の成安の守役まで仰せつかった。


 守役といっても、私と成安は二つしか違わぬ。文字どおりの子守りというより、外の風を感じさせる役、あるいは病弱な若旦那の身の回りを整える役目を期待されたのだろう。


 なにしろ、成安は線が細い。よく風邪を引き、腹もすぐにこわす。


 私はほどなく成安と打ち解け、彼を若様と呼ぶようになった。ただ、その人柄は何ともつかみどころがない。よく言えば鷹揚、悪く言えば太平楽の坊ちゃんである。


 そしてこの冬も、若様は熱病に倒れられた。薬師は大事ないと言ったが、三日三晩、高熱に震え、うわごとをもらし続けた。


 翌朝、ようやく熱が下がった。私は彼に粥を差し出した。


 熱の引いた成安を見たとき、私はまず目に引っかかった。


 あれは、病み上がりの若旦那の目ではない。


 まして、苦労知らずの坊ちゃんの目でもなかった。

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