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“怪物”伯爵は愛妻家 〜嘘がつけない人造人間、拗らせ夫とクセ強使い魔に甘やかされすぎて危険です!?〜  作者: 藤崎まみ
第2章

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2


結局、就寝時間まで水質検査だのなんだのに夢中になっていたヴィクターが、寝室にやってきた。


夕食時に食卓に現れず、ベルフェリアは一人でアガサの作ったご馳走をおなかいっぱい食べていた。

ヴィクターの食事ははアイゴールが研究室に運んでいたようだった。


……ノイキャン中なのに、寝るのは一緒なのか。


徹底したこだわりに微妙な顔をするベルフェリア。



「…というわけで、この屋敷の水質は“硬水”だった。

つまりミネラル分が多く含まれているわけだが、これはカルシウムやマグネシウムだ。水分補給には適しているが、入浴という点では、肌に刺激のない軟水の方が好ましいようだ」

「……はぁ、そんなに違うんですね」

「ベルフェリアは生まれたばかりだから肌も弱いんだろう。刺激は少ない方がいいだろうな」



ペラペラと楽しそうに話すヴィクターに、分かったような分からないような曖昧な返事をするベルフェリア。


日本の入浴文化を思うと、一番に思いつくのは温泉だった。

この世界にも大衆浴場があると雑誌で見て、元日本人として少しウキウキしたが、疫病が出たなどのニュースを見てそっとページを閉じていた。


……不衛生、コワイ。



()()()()っていうのが、各地にあったような。足湯とか、露天風呂とか?

地方の観光名所になってるんです」

「ほう。都会の大衆浴場のようだが、衛生面が段違いだな」

「温泉水が飲めて、体にいい!みたいな効能のあるところもあって…。

そういえば、ここでも炭酸が取れるところには温泉があるんでしたよね?」

「あぁ、そうだな。今思えば、硬水の喉越しが悪いから私も炭酸にして嗜んでいるのかもな」



そういえば、海外のドラマなどでも見るとガス入りの水がデフォルトだったような気がする、と思い返すベルフェリア。


……日本国内も旅行とか海外にも行ってみたかったかも。


買い物すら億劫な癖に、もうできないと思うとやってみたかったなと未練がましく思う。


しかし、そんな金銭的な余裕がなかった前世の生活。きっと機会があっても行かなかっただろうと結論付け、そんな過去の自分に苦笑する。


ヴィクターがごろりと寝返りを打ち、ベルフェリアに向き直る。ギシリとスプリングが軋んだ。



「さて。今夜も一つ、前世の話を聞かせてもらおうか」

「今の温泉の話じゃダメですか?」

「興味深いものはあるが、他にも聞きたい」

「うーん。じゃあ、温泉あるあるとか?

温泉に入ったあとは瓶に入った()()()()()()を飲むらしいです」

「牛の乳か?」



こうして、寝る前にベッドの中でベルフェリアの前世の記憶をヴィクターに話して聞かせるのが日課になっていた。


前世の話などヴィクターにとってまるで得にならない話で、むしろ彼からこの世界の話を聞く方がずっと有意義なはず。しかし、こうして毎晩ベルフェリアから聞き出そうとする。


それはまるで、親が子の話を真摯に聞くような、まったりとした雰囲気でベルフェリアは心地よかった。


…たまに子守唄を強請る子どものようにも見えるけど。


話していると次第に眠気がやってくるのはベルフェリアで、うつらうつらするのに気付くと、灯りがゆっくり絞られる。



「ヴィー様」

「どうした」

「……夜ご飯は出来たら一緒に食べたいです。ひとりで食べるの、寂しい」

「すまなかった。改善しよう」



嘘が付けないベルフェリアは、いつもは余計なことを話さないように気を付けていた。

しかし眠気が相まって、ついヴィクターに不満を溢す。


一方、ヴィクターは素直なベルフェリアのわがままが堪らなく愛おしかった。

触れたくて手を伸ばしそうになるのをグッと我慢して、強く握りしめる。



「……おやすみ、ベルフェリア。いい夢を」

「はぃ、……おやすみなさい」



前世でよくやったスマホを弄って入眠するような非効率な浅い睡眠ではなく、ぐっすり眠れるこの安心感がベルフェリアの気持ちを安定させていたのは間違いなかった。



***



次の日の朝起きて、朝食を食べていると、ヴィクターが意気揚々と宣言した。



「浴室のプランが決まった。

露天風呂付きにする。……温泉を掘るぞ!」

「はぁ…!?ぐ、ゲホッ」

「まあ、思っていたより大掛かりになりそうで楽しみですね」



給仕していたメアリーはのほほんと聞き入れるが、ベルフェリアは朝食のグラノーラを喉に詰まらせそうになった。

サッと飲み物を手渡され、慌てて喉を潤す。



「どうせ硬水のシャワーで満足できなければ、温泉の方がベルフェリアも嬉しいだろう?」

「ゲホッ、…いやいや、お、温泉ってそんな簡単に掘れるんですか…!?水脈とか」

「地面の下は掘れば掘るほど温度が上がる地温勾配というものがある。ベルフェリアの前世でもこれを利用していたはずだ。

なに!千〜三千メートルほど掘れば出てくるだろう」



簡単に言うヴィクターの目は至って真面目で、冗談を言っているように見えない。ヴィクターの尋常じゃない発想に動揺するベルフェリア。


……ポロッと天然温泉の話なんかするんじゃなかった。

でもまさか昨日の今日で、そんなことを言い出すと思わなかった。


アガサを連れて屋敷の裏の林の中へと向かうのに、オロオロとついて行くベルフェリア。


何故かアガサはどこかご機嫌だった。



「よし、アガサ。この辺りでいいだろう。直下掘りで頼む」

「はい、ヴィクター様。

いいですね、こんな大仕事は久しぶりで腕がなります」

「??なにか工事に重機とか使うんじゃ……?」

「ベルフェリア様、さぁこちらへ」



アイゴールの手招きに、少し離れたところからヴィクターとアガサを見守る。


背の高い木々に囲まれた自然たっぷりの林の中は、鬱蒼としていて薄暗い。

こんなところでは重機も何も入れたものでは無さそうだった。


アイゴールが手に持っていた水晶に魔力を通す。


球体の薄い膜のようなものがベルフェリアの手前から屋敷の建物を覆い尽くす。



「防御結界でございます」

「わ、魔法っぽい。ん?……ぼうぎょ?」



生で見たファンタジー感にソワソワしたベルフェリアだったが、不穏なワードに首を傾げた、次の瞬間。



ーズドォォォォォォン!!!!ー



ピカッとアガサが光ったと思った瞬間、地響きに近い轟音。グラグラと地面が揺れる。そして土埃が立ち込め、バサバサと野鳥が驚いて飛んでいくのが見えた。


……え、今ミサイル、落ちた?


ーその日、『怪物屋敷』にて爆発騒ぎが起きたと近くの街で大騒ぎになった。


周りの木々が半径5メートルほど吹き飛び、地中深くにアガサの拳一つ分の大きさの風穴が空いていた。

しばらくすると、その穴からこんこんと熱い温泉が噴き出した。



「いいパンチだった、アガサ」

「光栄です。……ざっと千メートルはいったかと」

「水質検査と浴室の建築を進めよう」



ベルフェリアは温泉を手に入れた!


立ち込める湯気に変わる頃、ヴィクターがウキウキで作業を始めるのを呆然と見るしかできない。

現実逃避をしたくなるほどの出来事に、ヘタリと地面に座り込むベルフェリア。



「温泉欲しいなんて、言ってないのにぃ…!!」



どうしてこうなったと頭を抱える羽目になった。





お読みいただきありがとうございます。


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よろしくお願いします。



完結作品です↓


優しい世界甘々、体格差カップルのお話。

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