第21話 【香葬】はしめやかに執り行われる……そして――
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【香葬】に関して、牧師様の献身的な働きや、領主であるエドワード様、そしてハンナさんの井戸端会議で情報を流して貰ったりして、なんとか形になりつつあった。
同意を得られるって素晴らしいことだわ。
それを感じずにはいられない程、エルメンテスは【香葬】に対して前向きになっていた。
この地の新聞記者からも、私の方に取材がきたこともあった。
その際、聞かれたのが――。
「【香葬】を提案したのはアメリアさんだとお聞きしておりますが」
「はい。【香葬】を提案したのは私です。王都では今では当たり前に行われている祈りの儀式でもありますから」
「ですが、ご実家のダグリスト家による発案だと言う話が王都ではありますが」
「それはあり得ません。私はダグリスト家を追放された身です。それなのに、【香葬】が注目されたとたん名誉に便乗しようとするなど……元実家とはいえ、想像したくもありません」
「追放されたの……ですか?」
「はい。それからは一方的な命令のような手紙が来ることはあっても、私から返事を返したことは一度もありません」
と、いうやり取りもあった。
記事は直ぐに新聞に刷られ、王都でも流れたようで、その後のダグリスト家がどうなっているのかは不明。
ただ、マーヤ様がとてもいい笑顔でいたので、きっといい塩梅に何かが動いたのだろうと判断しているわ。
実家からの一方的な命令のような手紙も一切来なくなり、ほっと安堵しながら【香葬】の準備は進んでいく。
――そしてついに、その日がやってきた。
街の皆さんも、私も喪服に着替え、前もって教会に大量のお祈り用のお香を納品していたので、エドワード様が迎えに来てくれて一緒に馬車に乗り、教会へと向かう。
道中、エドワード様はこんな事を言っていたわ。
「本日、エルメンテスの周囲の検問所は【香葬】が終わるまで固く閉じられる。それと、警備も厳重に行われる」
「大事な領地をあげての【香葬】ですもの。致し方ありません」
「街に入ってきていた旅人たちも、大事な【香葬】の間は宿から一歩も出ることは許されない。そう指示をしている」
「わかりました」
「アメリア」
「はい?」
「君の提案からここまで、エルメンテスが一丸となって行う【香葬】が出来る。感謝している……ありがとう」
「私は提案しただけだわ。そして現実にするために民を動かしたのは、私ではなく、」
「だが、君の提案なくしては始まらなかった。大元の毒霧を消すなんて事は……実現出来ないものだと考えていた」
「エドワード様」
「香りが……生きるものだけではなく、死者をも慰めるものだと教えてくれたのは、アメリアだよ」
「けれど、本当に成功するかどうかは……まだ未知数だわ。本当に彷徨える魂が天に登れたとしたらきっと……この土地に光が差すわ」
曇り空の多いエルメンテス。
牧師様の話では、曇が多いことこそ、魂がとどまり続けている証のなのだという。
太陽の光を感じても、曇った空から差し込む光くらいが精々で、エルメンテスの領地は全体的に曇っているのが当たり前だと言われてきた。
けれどそれらは、毒霧のせいだと言うのが、近年になって判明されている。
エドワード様のお父様の代で、調べ上げたことらしい。
「民の祈りが、今も彷徨える魂を香りと花と共に導くことが出来れば……きっと」
「ああ、きっと……。そして誰よりも心に寄り添おうとする……。香りで人を癒そうとしてくれる君がいてくれたら……うまくいくと思う」
「まぁ! 私、王都にいらっしゃる聖女様ではありませんわよ?」
「その聖女様ですら、この土地には入れなかったんだ。あまりにも想いが強すぎてね」
「そうでしたの……」
「最終的な準備の確認をしよう。一緒に」
「ええ、一緒に致しましょう」
こうして、教会に着くと馬車から降り、エドワード様と従者の方と共に教会に先立って入り、【香葬】の最終確認を行う。
作ったお香は沈香を使ったわ。
エドワード様から沢山頂いた物の中のひとつで、とても厳かな香りする、場を清める効果もあるお香のひとつ。
浄香にも似た香りでありながらも、厳かな凛とした香りのする沈香は、祈り場には最適だわ。
街の人達全員とは言わなくとも、大半の方がお香を上げられるようにしたし、献花をマーヤ様が行い、後はひとりずつ、花を持ってお香を立てて花を供え祈る。
エドワード様が宿屋や検問所を閉じた理由は、祈りに雑音が入らないようにする為。祈りに集中し、毒霧を根本から弔う為には、必要なこと。
教会内に沢山の喪服を着た住民が集まり、席が満席になる程集まった頃、教会の厳かな鐘の音が鳴り響き、私とマーヤ様、エドワード様は別の用意された椅子に座っていたけれど、立ち上がり、まずは私はお香の前に立つ。
ひとりひとりにお香を渡すためだ。
まずは牧師様からの【香葬】に付いての説明が行われた後、マーヤ様が私からお香を受け取り、私が炎を魔法で着けてから火を消し、それを香炉に入れてから献花を供える。
とても厳かで、それでいてしめやかに執り行われる【香葬】。
続いて、領主であるエドワード様が行い、次々に序列の偉い方から順番に、そして市民へと移っていく。
供える為のお香は煙が少ないお香を作ったけれど、それが功を奏したのか、教会が煙いっぱいになることなかった。
香りと焚き上げられた煙は、教会の窓から外へと流れて空気が浄化されていく。
その時、私の隣に来たエドワード様がふと何かを感じ取ったようで、ひとりの男性に目を着けていた。
どうしたのだろうと思っていると――男性は、私からお香を取る時にぽつりと呟いたのだ。
「お気をつけなさい。貴女を狙う者がきている」
「え……」
「守ってもらうんですよ」
そう言って私のもとから去っていった。
――私を狙う者が来ている。
つまり、エルメンテスに〝元父親〟の手先が来ているということだろうか?
それとも……。
胸の奥がざわめく……。けれどエドワード様がそっと私の手に触れた。
「……ここにいるよ。無理はするな」
その言葉には命令ではなく、支える意志だけが込められていた。
目線を送ればマーヤ様も……。
ああ、そうね。
私にはこんなに強い味方がいらっしゃるじゃない。
支えてくれる素晴らしい方々がいるじゃない。
「勇気が出ましたわ……ありがとうございます」
「君は胸を張ってこの光景を見届ける義務がある。そして……私も、マーヤ様も」




