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竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その63

 皆さん、いつもお読みいただき、ありがとうございます。リアルの方が忙しいのですが、「忙しいほうが、ほかのこともはかどる」とは、本当のことのようです。興に乗ったので、続けて投稿します。

63 3月の少年剣道大会 その参


 一方、白井さんは大きな拍手で、宮崎さんを迎えていた。

「あの足さばきの選手に、引き分けに持ち込んだのは、よくやりました。わたしが、勢いをつけてきます!」

 次鋒戦は、白井さんとナナになる。二人とも開始線で、蹲踞の姿勢を取る。

「始め!」

白井さんが、オーソドックスな中段を取るのに対して、ナナはやや手元をあげてかすみに構える。ナナが言うには、この構えの方が、相手の動きに応じやすいそうだ。

 互いに間合いを詰め合い、剣先が触れるほどになった。その時、白井さんの姿が消えた!

「小手ー!」

白井さんは、ナナの右側で、残心を取っていた。赤旗が3本上がる。松方チームの応援席が盛り上がる。

「なにが、起きたのです?見えなかったのです!」

ミオが叫ぶ。

「落ち着きなさい、美央さん。

 白井さんは、あなたの「抜き」を使っただけです。」

「白井さんが、「抜き」を使えるのです?」

「現に、使っていたでしょう?まだ、完成には至りませんが、間違いなく、左ひざの「抜き」を使って、小手を打ったのですよ。

 皆さん、先ほどのジャンプ面や、今の「抜き」を見ると、松方チームは、わたしたちを相当研究しています。わたしたちの技は、すべて真似されていると考えたほうがよいでしょう。」

「そんなに、簡単にまねできるものですか?」

ユカが尋ねる。

「いいえ。簡単ではありませんよ。先ほど白井さんも言ってたでしょう?この3か月、つらい稽古を積んできたと。あなたたちの技にしても、もともとは誰かが考えたものを真似しているのです。技と言うものは、真似されるものだと考えなさい。

 さて、わたしたちの技は真似されました。そして、体力や試合経験では、松方チームの方が上です。

 皆さん?どう戦いますか?」

静子先生が、真剣な目をする。

「・・・ん。・・・よく見る。・・」

「そうだね。相手が何をしようとしているか、よく見て考えないと・・・。」

サキと、ユカが答える。

「その通りです。付け加えるなら、あなたたちの技は、すべて、真似されていると考えることです。」

あたし達は、改めて松方チームの恐ろしさを感じた。


 試合は二本目に入っていた。白井さんが、2本目を取ろうと、積極的に打ち込んでいる。しかし、ナナは全て受けたりかわしたりして、返し技を放つ。その返し技も、白井さんは受けたり、かわしたりして再び、ナナを攻める。激しい打ち合いになってきた。

 と、その時、ナナがスッと大きく下がり、間合いを切った。打ち込もうとしていた白井さんは、一瞬動きを止める。そこに、ナナが飛び込んだ。

「こーてー!」

しかし、白井さんは、半歩下がり小手を抜くと、面を打ちに来た。

「めーん!」

ナナは、かろうじて竹刀で受け止め、鍔迫り合いに持ち込む。白井さんは、右足を軽く踏み込んで体当たりを仕掛けた。ナナの上半身がのけぞる。そこを、

「どーうー!」

白井さんの引き胴が放たれた。しかし、ナナは、大きく後ろに跳んでかわした。


「ほーう・・・」

両チームの応援席から、ため息が漏れる。

「菜々美さんは、見事に立て直しましたね。しかし、決め手に欠けます。」

静子先生がつぶやく。

「ナナが間合いを切った時が、チャンスだと思ったのですが・・・。」

ユカも考え込んでいる。

「あの技は、先ほど美央さんが見せました。松方チームに、同じ技は通用しません。」

静子先生が答えた。

「ジャンプ面も、「抜き」も真似されて、引いてからの飛び込みも対策されたら、あたし達は、どうしたらいいんだろう?」

「春海さん。技にこだわるのもいいのですが、もう少し、試合全体を考えることです。剣道の技は、突き詰めれば、面、小手、胴の3つしかないのです。あとは、どんなタイミングで技を出すかが大切になります。

 皆さん、剣道の「許さぬところ」は、覚えていますか?」

「たしか、

 出るところ、引くところ、居付いたところ、技の起こり、技の尽きた所、受け止めた所

だったでしょうか?」

ユカが答える。

「その通りです。相手をじっくりと見て、「許さぬところ」を見極めるのです。」

「うわー!難しい!」

あたしが頭を抱えた。

「ですから、剣持先生も「試合経験が大切」と言っておられたのです。今日の試合も、大切な経験になりますよ。」

静子先生が微笑んだ。あたし達には、まだ試合経験が足りないらしい。この冬は、中学生や高校生ともたくさん稽古をしてきたのだけど・・・。

「あなたたちも、しっかり稽古をしてきましたが、まだ足りません。そして、実戦や試合に勝る経験はないのです。今日の試合の、一瞬一瞬を、自分の経験にできるようにしましょう。」


 ここで、試合終了の笛が鳴った。ナナは結局1本負けとなった。


「さあ、みんな!ここからよ!この勢いで、思い切り戦うのよ!大丈夫!わたしたちは強い!」

白井さんが、仲間に大きな声を出している。

「ようし!みんな!白井が取った一勝をつなぐんだ!」

監督も、みんなを激励している。

 一方、ナナは真っ赤な目をして帰ってきた。あたし達の前にくるなり、座り込み、泣き出した。

「ごめん~なさ~い~!・・・わたしが~油断したせいで~!」

ユカがナナの肩を抱いて語り掛ける。

「ナナのせいじゃないよ。わたしたちみんな、油断してたんだ。

 白井さんは、本当に強かった。

 でも、ナナも、最初の一本の後は、互角に持ち込んだじゃないか。大丈夫、あとはわたしたちが頑張るから。」

「・・・ん。・・・任せる!」

サキも力強くうなずいた。

 静子先生もナナの背中をなでながら、話した。

「ラグビーの言葉に、こんな言葉があります。

 一人は、仲間のために。仲間は、一人のために。

 菜々美さんが、頑張ったおかげで、みんな自分の弱いところを知り、さらに頑張ろうと思えるようになったのです。負けたことは事実ですが、これは、価値のある負けですよ。菜々美さんは、本当によく頑張りました。胸を張りなさい。」

「・・・ぐす・・・うぅ・・・。ありがとう~ございます~。」

「さあ、優香里さん。あなたの番です。精一杯戦っていらっしゃい!」

「はい!」

竹刀を握ると、ユカがコートに向かった。あたし達は、精一杯の拍手で送る。

 ユカの相手は、6年生の長谷部さん。小柄でスピードのある選手だ。何より、技の起こりが読みにくい無拍子を使ってくる。この3か月の間に、さらに強くなっているだろう。今は、ユカを信じよう。


「始め!」

 始まりは、とても静かだった。ユカは小刻みに足を動かしながら、少しづつ間合いを詰めている。ピンと張った背中、程よく力の抜けた肩から、とても集中しているのが分かる。長谷部さんの姿勢や、重心、足の動きから、狙いを探っているのだろう。あたし達も、集中して両者の動きを見る。

 剣先が触れ合う間合いに入った。長谷部さんの左足のかかとがぐっと沈み込み、右足のひざが深く折れ曲がる。「抜き」が来る!そう思ったとたん、

「小手ー!!」

ユカが、飛び込んだ。白旗が3本上がる。あたし達の応援席から、大きな拍手が沸いた。

「見事な、出端小手です。長谷部さんの技が起こるところをとらえました。

 長谷部さんは、無拍子を高めるか、「抜き」を身につけるかで、迷っていたのでしょう。技の起こりが見えてしまいましたね。」

静子先生が解説した。

「無拍子と、「抜き」は、ちがう技なのですか?」

あたしが質問する。

「そうですね。では、沙紀さん。あなたは無拍子が使えるようになりましたが、「抜き」は使えますか?」

静子先生が、サキに聞く。

「・・・ん。・・無理・・」

「では、美央さん。あなたは「抜き」をかなり高めましたが、無拍子は使えそうですか?」

「多分、無理なのです。」

ミオが首を振る。

「どういうこと?」

あたしは、不思議に思った。

「無拍子も、「抜き」も技の出どころが読みにくい点では、同じです。

 しかし、体の使い方は、まったく違います。

 無拍子は、重心を移動させないようにして、左足の蹴りだけで動くものです。

 対して、「抜き」は、重心を移動させることで勢いをつけて、素早く動くものなのです。

 重心を移動させない無拍子と、移動させる「抜き」は、両立しません。それを無理に両立させようとしたので、長谷部さんの動きは読みやすくなったのです。」

静子先生の解説に、サキもミオもうなずいている。あたしには両方とも使えないから分からなかったけど、大きな違いがあるんだ。

「次は、長谷部さんは、「抜き」を使わないようですよ。」

静子先生が、コートを指し示した。


 二本目も、静かな始まりだった。ユカはさっきと同じように、じりじりと間合いを詰めている。長谷部さんは、左足のかかとを沈めている。右足のひざは折れていない。なるほど、「抜き」をすてて、無拍子だけで戦おうというわけだ。両者の剣先が触れ合ったところで、ユカが動きを止めた。長谷部さんは、さらに詰めて来る。

 一足一刀の間合いに入った時、ユカが長谷部さんの竹刀を上から抑え込んだ。

「うまい!無拍子の頭を潰しました!」

静子先生が、小さく叫ぶ。そうか。無拍子と言っても、技の起こりは必ずあるんだ。それが見えにくいだけなんだ。ユカは、一足一刀の間合いに相手を招き入れることで、動きの流れを読み、技に入るところで竹刀をかぶせて、技を防いだんだ。

 ユカは、竹刀をかぶせて、相手の出ばなをくじいた後、すぐさま面打ちに行った。しかし長谷部さんも、竹刀で受けて、鍔迫り合いに持ち込む。長谷部さんが体当たりをするが、ユカは自分から後ろに跳んで、体当たりの衝撃をいなす。すぐさま、ユカが前に出て、小手、面の二段打ち。長谷部さんが受けると、体当たりからの引き胴。それも、長谷部さんが撃ち落す。

 そこからは、激しい打ち合いになった。ユカが連続技を出して追い詰めるが、長谷部さんも冷静にユカの打ちを受け止めたりいなしたりして、返し技を出す。その返し技を受け止めて、さらにユカが連続技を出す。まるで、掛かり稽古のように激しく動き回っていた。


「ピィー!」

試合終了の合図が響いた。この試合は、ユカの1本勝ちだ。あたし達の応援席が盛り上がる。

「まだです!まだ、勝敗も、本数も並んだだけです!さあ、伊藤さん!あなたの出番です!あなたの5年間を出し切って来ましょう!」

「はい!」

白井さんの檄に、伊藤さんが応え、松方チームの応援席から大きな拍手が起こる。

「優香里さん。素晴らしい試合でした。沙紀さん。続きますよ!」

静子先生も、興奮している。

「・・・ん。・・・ナナ、・・見ていて!」

サキは、ナナの背中をポンとたたいて、コートに向かった。



 剣道の戦いの姿を書くことは、私にとってとても楽しいことです。でも、読者の皆さんはどうでしょうか?感想をいただければ、幸いです。

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