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竹刀の剣士、異世界で無双する ハルミ編 その30

「竹刀の剣士、異世界で無双する」の第2部です。ヨウスケの娘のハルミとその周りの人たちの活躍をお楽しみください。

 この小説は、毎週木曜日に更新する予定です。

30 少年剣道大会に向けて


 あたし達の家にモミジが来てから、1か月たった。季節はもう冬だ。安和市は雪が降ることは少ないが、内陸にあるので、冷え込みは強い。裸足での稽古がそろそろつらくなってきたころ、大きな行事がせまってきた。安和市の段級審査会と、安和市少年剣道大会だ。

 段級審査会は、12月10日の土曜日に、安和市中央体育館で行われた。夏の審査会と同じ場所だ。今回も、あたしは中二の宮野鉄平さんと日本剣道型を披露した。宮野先輩も2度目なので、落ち着いたものだ。級審査には、ユカとナナ、ミオとサキが挑戦し、見事に合格した。ユカとナナは4級。ミオとサキは5級になった。剣持先生の話では、ユカとナナは2級ぐらい、ミオとサキも3級ぐらいの実力はあるそうだけど、剣道に跳び級の制度はないので、順番に級を上げていくしかないということだ。

 そして、今回はじいちゃんと母さんも段審査を受けた。じいちゃんは六段、母さんは五段に挑戦だ。二人とも久しぶりの審査会と言うことで、少し緊張していたらしい。じいちゃんは70歳とは思えないほど、堂々とした上段の構えで、相手を圧倒し、見事に片手面を決めていた。母さんも、中段からの優雅な足さばきで、相手の出端小手をとらえていた。とってもかっこいい!見に来たクミさんたち三人も、じいちゃんと母さんの技に顔を赤くして見惚れていた。スマホとタブレットとスケッチブックは、標準装備だ。じいちゃんも母さんも、ブランクを感じさせない技で合格した。


「なんか、この頃体の調子がいいんじゃ。」

「はい、私も体がすごく軽く感じます。」

なんて、二人が話してた。そしたら、モミジがサキの腕の中で、耳をピクリと動かし、ちらりと二人を見た。

(モミジ、二人になんかしたの?)

(むっ?おじじ殿とおかか殿だけではないぞ。そなたも体の調子が良いじゃろう?)

(そういえば・・って、ヤッパリ何かしたのね?)

(そなたらと一緒に、食事をしておるからのう。)

(どういうこと?)

(神にささげる食事を、神饌しんせんと言う。)

(しんせん?)

(左様。昔は、祭りをおこなって、神とともに食事をし、健康と豊穣を祈ったものじゃ。そういう時に神にささげる食事を神饌しんせんと言うのじゃ。

 わらわは、ほれ、毎日そなたらと食事をしておるじゃろう?おばば殿とおかか殿が献立を考えて、精一杯の気持ちを込めて毎日の食事を準備していただいておる。その気持ちが尊くての。もちろん、食事が美味であることも大切じゃ。

 それで、いつの間にか、食事を楽しみにするわらわの思いが、皆の食事を神饌しんせんにしていたようじゃ。)

(ようじゃって?うっかりってこと?)

(毎日の食事が、美味すぎるのじゃ!)

この小狐は、ただの食いしん坊だった。

(そういうわけで、毎日神饌しんせんをわらわと共に食しておるのじゃから、健康になるのが当たり前じゃ。)

とにかく、モミジのおかげで、私たち家族はとても体調がよくなっているらしい。そう言えば、ばあちゃんも稽古の度に動きがよくなってる気がする。

(うむ、おばば殿も体が若返っておるな。もともと若々しかったが、今では、普通の人の50代ぐらいに動けるじゃろう。)

 なんか、すごいことになっているらしい。


 そんなわけで、無事に段級審査会を終えた。次の週には少年剣道大会がある。これは、安和市全体の道場や剣道クラブ、中学校の剣道部が協力して行われる大会だ。小学生と中学生の部があり、それぞれに個人の部と団体の部がある。母さんやじいちゃんの話では、安和市は剣道が盛んな街で、道場やクラブがたくさんあるらしい。市内のすべての中学校に剣道部があるのも特徴と言うことだ。安和市の少年剣道大会は年に4回も行われている。最初は5月のゴールデンウイークのころ、2回目は9月のシルバーウイークのころ、そして3回目が今回の12月の大会、4回目が3月の始めに行われている。夏休みは、中学生の大会があるので、少年剣道大会は行われない。あたし達小学校1年生は、剣道を始めたばかりの子が多いので、今回の12月の大会がデビュー戦となるそうだ。


 段級審査会の次の日、日曜日の居合の稽古はお休みになり、午後から少年剣道大会への特別稽古が行われた。剣持道場に通ってくる小学生、全員が集まった。およそ60人ほどが道場に並んで正座している。中学生は、それぞれの学校の部活ごとに出場するので、ここにはいない。

 個人戦には、全員が出場するけど、団体戦は道場やクラブごとに出場チーム数が決められているそうだ。剣持道場は、市内で最も子どもの数が多いので、3チームが出場できる。1チームは5名が登録できる。剣持道場は3チームの割り当てなので、選手は15人になる。60人から15人が選ばれるわけだ。今日は、剣持道場の代表になる団体戦チームのメンバーが発表される。みんな緊張して、剣持先生の発表を聞いていた。


「それでは、少年剣道大会の団体戦チームを発表する。」

剣持先生が、手元の紙を見ながら話しだす。60人もいるのに、物音一つなく、静まり返る。

「まずAチームじゃ。

 先鋒 二宮 太志 5年生

 次鋒 相馬 美優 6年生

 中堅 脇原 浩二 6年生

 副将 名和 玲子 6年生

 大将 矢島 壮太 5年生」

Aチームは、男女混合の5年生と6年生から選ばれた。このメンバーで5月と9月の大会は、優勝したそうだ。普段あたしと稽古をしているグループの人たちで、かなり強い人たちだ。名前を呼ばれたとたん、パッと顔を輝かせる人、無言でガッツポーズをする人、みんなそれぞれに、喜びを表していた。

「続いてBチームじゃ。

 先鋒 井上 隼太 5年生

 次鋒 峰岸 雄馬 4年生

 中堅 所  和彦 5年生 

 副将 丹羽 栄太 4年生

 大将 領家 修一 5年生」

Bチームは全員男子のチームだ。4年生と5年生から選ばれている。あたしも稽古したことがあるけど、結構速いし、強い人達だ。

「最後にCチームじゃ。

 先鋒 掘田 優香里 1年生

 次鋒 前原 沙紀  1年生

 中堅 吉原 菜々美 1年生

 副将 工藤 美央  1年生

 大将 矢賀 春海  1年生」

あたし達五人の名前が呼ばれた!

 あたしは、4歳のころから剣道を習っているけど、試合は初めてだ。だって、幼稚園の部ってないし。小学校に入学してから、試合に出られるって聞いていた。それでも、1年生だから個人戦だけで、団体戦に出ることはないと思っていた。団体戦は道場の代表だから、高学年の強い人が選ばれるって聞いていたからだ。それなのに、1年生が五人も団体戦に選ばれた!本当にいいの?あたし達はびっくりして、お互いの目を合わせたけど、周りの人たちは、うんうん当然だよねって顔をしていた。


「以上の3チームで、団体戦を戦う。

 剣道は、礼に始まり、礼に終わる。強いことはもちろんじゃが、相手を大切にし、仲間や家族に感謝する気持ちが大切じゃ。今回、残念ながら選ばれなかったものの気持ちを背負って戦う覚悟が必要じゃ。団体戦に選ばれたからと言って、威張ったりするものはおらんと思うが、選手にふさわしくない行動をした場合、遠慮なく入れ替えるので、気を引き締めて稽古をしなさい。」

「礼!」

矢島壮太さんの号令で、全員が礼をした。全員に号令をかけるのは、5年生の壮太さんの役目だ。つまり、壮太さんがこの道場のキャプテンになっている。

「道場脇に整列!」

壮太さんの号令で、みんな道場脇に移動し、自分の面・小手のところに座る。

「姿勢を正して!・・・面付け!」

あたし達は、手ぬぐいをまき、面をつけ、小手をはめて竹刀を持ち、稽古の準備をする。

「今日からは、団体戦のチームは、五人で稽古をしなさい。ほかの者は、いつものグループで稽古するんじゃ。」

剣持先生の指示が出た。あたし達は、チームごと、グループごとに並んで向かい合う。

「正面に!・・・礼!」

壮太さんの号令で、全員が道場の正面にある神棚に礼をする。

「互いに!・・・礼!」

全員が、相手に向き直って、礼をした。

「切り返しから・・始め!」

剣持先生の号令とともに、太鼓がドンとならされる。

「「「やあー!」」」

みんな、おっきな声を出して、打ち込みを始めた。



 お読みいただき、ありがとうございます。

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