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05 初めての奇跡で、大地を切り取ってみました

 お土産のリンゴをポポに食べさせてあげたあと、ボクは散歩もそこそこにホコラに戻ってみる。

 すると、新たなメッセージとともにオジサンが迎えてくれた。


「おかえりソラ。新たな土地で散歩と木登りをしたようじゃな。さらにリンゴを食べ、聖獣にリンゴを食べさせたことで『神様経験値』アップじゃ。ソラにとって初めてのことをすれば、多くの経験値がもらえるぞ」


 ボクにとっては初めてのことばかりだったので、かなり『神様経験値』があがっている。

 次のレベルまであとちょっとだ。


「では次は、『ジオグラフ』の使い方を教えよう」


 オジサンは神様の奇跡のひとつ、『ジオグラフ』の使い方を教えてくれた。

 ボクはそれを頭に叩き込んで、またホコラを出る。


 ポポはホコラの外にある草原に座っていて、日向ぼっこをしていた。

 いまは犬の姿をしているのに、猫みたいな香箱座りをしている。


 ボクはそこから少し離れた所に立ち、右手を地面にかざす。

 そしてオジサンに教えられたとおりに叫んでみた。


「……ジオグラフ!」


 ボクの声に反応して、右の手のひらからレーザーみたいな光の筋が出る。

 その光が当たった地面には、学校の校庭とかで使うライン引きみたいな白い跡が残った。


 この白い跡を残した地面が切り取られて、天空城にくっつくらしい。

 そのまま空に浮けば地面もいっしょに持ち上がって、天空城の土地が広がるというわけだ。


 一度にたくさんの地面を切り取っちゃうと、重くて持ち上がらないらしいから……ボクはためしに天空城のまわりをぐるっと回って、ひとまわり大きくなるように白い跡を残してみた。


 これでいいのかな……? と思いつつ、額の汗を拭っていると……ボクの足元でゴロンゴロン転がっていたポポが急に起き上がり、激しく吠えだした。


 ポポが吠える方角を、目で辿っていくと……ボクがさっき登ったリンゴの木の陰に、緑色の肌をした鬼みたいなのがいて、こっちを睨んでいたんだ。


 鬼といっても賽の河原にいたような大きいのじゃなくて、ちっこいやつ。

 といっても、ボクよりは大きいけど……。


 ボクはその鬼みたいなヤツを、どこかで見たことがあった。


「もしかして……ゴブリン?」


 ゴブリン……ファンタジーの小説やゲームなどによく出てくるモンスターのこと。

 緑色の肌に、尖った耳と牙の生えた口が特徴で、一匹だと臆病なんだけど集団になると強気になって、人や村を襲うというイヤなヤツなんだ。


 ゲームとかでもよく徒党を組んで襲いかかってくるんだけど、そのゴブリンは一匹だけのようだった。

 最初は警戒していたようだけど、こっちが子供と犬だけだとわかると、腰巻きに差していた石オノを抜いて、


「ギャッ、ギャッ、ギャーッ!」


 意味不明の絶叫とともに、襲いかかってきた……!

 どう見ても、話し合いが通じるような相手じゃなさそうだ……!


「うわあっ! やっ、やばっ!? ポポ、逃げて!」


 ボクの前で背を向け、吠え続けているポポ。

 でもいくら呼びかけても、逃げようとしない。


 そうしている間にも、ゴブリンはどんどん迫ってくる。

 ボクはポポを守らなきゃという一心で、地を蹴った。


「こ……こんのぉーっ!!」


 ポポを追い抜き、ゴブリンに立ち向かっていく。

 その勢いのまま、思いっきり身体をぶつけてみたんだけど、


「……うわあっ!?」


 相手はボクより一回り以上大きかったので、当たり負けをして逆に倒されてしまった。


「ギャーーーッ!」


 続けざまに、ボディプレスのように飛びかかってくるゴブリン。

 ボクはあっという間に、マウントポジションで押さえつけられてしまう。


「しっ……しまった! くっ……離せっ! 離せよぉっ!!」


 なんとか跳ねのけようと暴れたんだけど、びくともしない……!


 ゴブリンは魚でもさばくみたいにボクの首根っこを掴まえると、石オノを振りかざした。

 太陽の光を受けてギラギラと黒光りする石の刃が、ボクに突き立てられようとした瞬間、


「ガウッ!!」


 白い毛玉が横から体当たりしてきて、ゴブリンをふっ飛ばしてくれた。


「ぽ……ポポっ!!」


 ポポの勇敢な行動に、ボクの闘志も一気に燃え上がる。


 もっと……もっとボクもがんばらなきゃ……!

 ポポを守ってあげなきゃいけない立場なのに、逆に助けられるなんて……!


 ボクは近くにあった石を拾い上げて、立ち上がる。


「こ……今度は負けないぞ! かかってこい、ゴブリ……ええっ!?」


 倒れているゴブリンに見得を切ったまではよかったんだけど……森の向こうから、大勢のゴブリンがドドドドドと走ってくるのが見えたんだ。


「うわあっ!? あんなに大勢いたなんて!! 逃げよう、ポポ!」


 呼びかけると、天空城の外で威嚇していたポポが戻ってくる。

 ボクはホコラに向かって走り、天空石を操作した。


「『ジオグラフ』で大地を切り取ったようじゃな、『ジオグラフ』は……」


「そ、それどころじゃないよっ!」


 ボクはオジサンからのメッセージを無視して、地図アイコンをタッチする。

 開かれた地図画面を操作して、天空城を思いっきり上に引っ張り上げた。


 ズ……ズ……! ゴゴ……ッ!


 大地に根を張る植物を引っこ抜いたような抵抗感のあと、よろめくような揺れが襲う。


「は……はやく……! 早くあがって!!」


 ボクは画面に向かって叫ぶ。

 背後から迫ってくるゴブリンたちの蛮声と、足音がだんだんと大きくなってくる。


 振り向くと、浮き始めた天空島のフチに、ゴブリンたちがぶら下がっているのが見えた。

 上がってこれないようにポポが、ワン! ワン! と吠えかかっている。


 ボクは慌ててポポに合流する。掴まっているゴブリンたちを、


「あっちいけっ! このっ! このっ!」


 と足蹴にして落としてやった。


 でも上昇途中の天空城は高さがなくて、ゴブリンは落ちても平気なようだった。

 何度も起き上がっては、ジャンプしたりお互いの身体によじ登ったりして、地獄の亡者のようにしつこく迫ってくる。


「絶対にあがらせないぞっ! しっ、しっ! ……あっ、今度はこっちかっ!」


 ボクもあきらめない。

 あちこちから現れるゴブリンの頭をモグラたたきに見立て、蹴っ飛ばして追い返し続ける。


 そうこうしているうちに、天空城はようやくゴブリンたちの手の届かないところまで上昇した。

 地上のゴブリンたちは、手放してしまった風船を見上げるガキ大将のように……いつまでもボクに向かって、ギャアギャアと喚き続けている。


「た……助かったぁ……」


 ようやくあきらめてくれた……と思うと気が抜けて、ボクはへなへなとへたり込んでしまった。


「あ、ありがとう、ポポ……。どこもケガはない?」


 息を整えながらポポのほうを見ると、『ジオグラフ』で切り取ったばかりの地面の上にいた。

 デンとある岩の下に前足を突っ込んで、ガリガリと引っ掻いている。


「……どうしたの、ポポ?」


 ボクは四つん這いになって、ポポに近づいていく。

 ポポは掘り起こした穴の中に鼻を突っ込んで、何かを引っ張り出していた。


「なにか見つけたの?」


 振り向くポポ。その口には、人形みたいなのがぶら下がっていた。

 手のひらくらいの大きさの子供で、後襟がポポの牙に引っかかっている。


「きゃーたすけてー」


 サンタクロースの助手みたいな格好をしているその子は、じたばたもがきながら、蚊の鳴くような声でしゃべった。


「えっ……キミ、生きてるの……!? もしかして……小人!?」


 ボクは驚いたけど、ゴブリンのときのような嫌な感じはなかった。

 むしろかわいい子猫に出会ったような、嬉しい驚きだった。


「あっ、かみさまだー!」


 小人はボクに気づくと、両手を前に出して駆け寄ろうと足を動かす。

 でも襟が引っかかっていて、宙に浮いているので全然前に進まない。足をバタつかせているだけだった。


 ボクは手を差し伸べて、小人を助けてあげた。

 ボクの手のひらの上で、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。


「かみさまだー! かみさまだー!」


「神様といっても、まだ見習いだけどね。えっと……キミは小人だよね?」


 尋ねると、手乗りリスみたいなその子は小首を傾げる。


「よくわかんないー」


「……そうなんだ……」


 ボクは、小人だと思うことにした。


「かみさま、にんげんにしてー! にんげんー!」


「えっ? 人間?」


「いいこにしてると、かみさまがにんげんにしてくれるってー! にんげんー! にんげんー!」


 エサをねだる雛鳥みたいに、熱心にすがってくる小人。

 ボクの腕を伝って肩に乗り、ほっぺたをぷにぷに押してきた。


 ボクは困ってしまった。

 してあげられることならしてあげたいけど、小人を人間にするだなんて……いったいどうすればいいんだろう?


 ふと、手の甲が光っているのに気づいた。どうやら、レベルアップしたようだ。


「そうだ、オジサンが何か知ってるかな……?」


 ボクは立ち上がって、ホコラに戻ってみた。


「ほっほっほっ! 『ジオグラフ』で大地を切り取ったうえに、小人と仲良くなったんじゃな! 一気に2レベルアップじゃ! 小人のことを調べたければ、『図鑑』を押してみるがよいぞ」


 ボクは言われるがままに、『図鑑』のアイコンをタッチしてみる。

 すると『小人』のイラストと、説明文が立ち上がった。


 それによると、小人というのは妖精の一種で、この世界では岩や葉っぱの裏、木のウロの中などに住んでいるそうだ。

 人畜無害で純粋無垢。仲良くなると細かい作業とかを手伝ってくれるらしい。


 人間になることに憧れていて、善行を積むと人間になれると信じている。

 小人を人間にするためには『小人成長』の奇跡を使えばよい。


「そうか……『小人成長』の奇跡を使えばいいのか……」


 ボクはチラリと肩に視線をやる。

 肩の隅にちょこんと腰かけている小人は、退屈そうに足をブラブラさせながら、


「はやくにんげんになりたいなぁー」


 と寂しそうにつぶやいていた。


 よし……2レベル上がったってことは、『奇跡ツリー』に2ポイント使えるってことだ。

 それだけあれば、『小人成長』が取得できるんじゃ……。


 そう思って『奇跡ツリー』を開いたところ、


「……『小人成長』を取得するつもりかの? じゃがそれよりも先に、ちゃんと生きていけるだけの環境を用意するのが先じゃ。でないとソラも人間も、すぐに死んでしまうぞぃ……」


 表示されたメッセージに、ボクはドキリとなってしまった。

 脳裏にさっきのゴブリンたちがよぎったからだ。


 そうだ……この子を人間にする前に、あのゴブリンたちをなんとかしなきゃ……!

 それに……ボク自身が生き抜くことも考えなきゃ、ダメじゃないか……!


 ゴブリンが襲いかかってきたとき、ボクはガムシャラに立ち向かっていった。

 でも、全然相手にならなかった……ポポがいなかったら、いまごろ生きていなかったかもしれない。


 今のボクは……ゴブリンに突っ込んでいった時と同じまちがいを、繰り返そうとしていた……!

 小人は人間になれたところで、それで終わりじゃないんだ。モンスターだらけの世界に戻って、生きていかなきゃならないんだ……!


 誰かの願いをかなえてあげたいという一時の感情だけで、ボクは取り返しのつかないことをするところだった……!

 もっとしっかり、しっかりしなきゃ……! よく考えろ、よく考えて行動するんだ……!


 だってボクは、神様なんだから……!


 ボクは、天空石に映りこんだ自分に向かって、何度も何度も言い聞かせる。

 すると、身体が熱くなっていくのを感じたので、顔をブルブルと振った。


 そうして頭が冷えたところで、『奇跡ツリー』を再び開く。

 ひとつひとつにしっかり目を通して、内容をよく吟味した。


 まずは……水だ。水はすべての生き物に必要だって、本で読んだことがある。

 それにボクもいま、とっても水が飲みたい……。神様といえどお腹はすくし、喉も乾くようだ。


 それと……武器だ。それも……普通じゃないやつ。

 悔しいけど、ボクはまだ子供だ。頑張って戦ったとしても、ゴブリンを倒すのは簡単なことじゃないだろう。

 だから、神様らしい強力な武器があれば……。


 そう考えてボクは、『雨』と『雷』にポイントを費やした。

■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:4)


 今回は『雨』と『雷』に1ポイントずつ割り振りました。

 括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


 ●天候の奇跡

  雲

   (0) LV1 雲     … 家の煙突から雲を出せる

   (0) LV2 虹     … 虹を出せる

   (0) LV3 ???   … ???

  風

   (0) LV1 風     … 風を起こせる

   (0) LV2 竜巻    … 竜巻を起こせる

   (0) LV3 ???   … ???

  雨

   (1) LV1 雨     … 雨を降らせる

   (0) LV2 洪水    … 洪水を起こす

   (0) LV3 ???   … ???

  雪

   (0) LV1 雪     … 雪を降らせる

   (0) LV2 大雹    … 大きな雹を降らせる

   (0) LV3 ???   … ???

  雷

   (1) LV1 雷     … 雷を落とす

   (0) LV2 導雷    … 目標に誘導する雷を落とす

   (0) LV3 ???   … ???

  火

   (0) LV1 火の粉   … 火の粉を降らせる

   (0) LV2 火の玉   … 火の玉を降らせる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●神通の奇跡

  神の手

   (1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る

   (0) LV2 ウェポン  … 武器を出す

   (0) LV3 ???   … ???

  神の叡智

   (0) LV1 現界の声  … この世界の声を聞く

   (0) LV2 異界の声  … 異界からの声を聞く

   (0) LV3 ???   … ???


 ●天空城の奇跡

  高度

   (0) LV1 高度アップ  … 天空城をさらに高く飛ばせる

   (0) LV2 天空界    … 「天空界」まで飛ばせるようになる

   (0) LV3 ???    … ???

  速度

   (0) LV1 速度アップ  … 天空城の移動速度があがる

   (0) LV2 高速移動   … 高速移動ができる

   (0) LV3 ???    … ???

  流脈

   (0) LV1 消費減少   … 奇跡力の消費を抑える

   (0) LV2 放出     … 天空城から物体を放出できる

   (0) LV3 ???    … ???

  障壁

   (0) LV1 防御障壁  … 天空城を守るバリアを張る

   (0) LV2 水中潜行  … 水中に潜れるようになる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●太陽の奇跡

  気温上昇

   (0) LV1 気温上昇  … 気温を上げる

   (0) LV2 猛暑    … 猛暑にする

   (0) LV3 ???   … ???

  気温下降

   (0) LV1 気温下降  … 気温を下げる

   (0) LV2 寒波    … 寒波を起こす

   (0) LV3 ???   … ???


 ●創造の奇跡

  魔法生物

   (0) LV1 ゴーレム  … ゴーレムを創る

   (0) LV2 小人成長  … 小人を人間にする

   (0) LV3 ???   … ???

  有機生物

   (0) LV1 絶滅    … 生命を絶滅させる

   (0) LV2 成長促進  … 生命の成長を早める

   (0) LV3 ???   … ???

  回復

   (0) LV1 治癒    … 病気や怪我を治す

   (0) LV2 死者蘇生  … 死んだものを蘇らせる

   (0) LV3 ???   … ???

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