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32 海のモンスターを、おびき寄せます

 天空城のある海辺には、そこかしこに石山が積み上げてある。

 いつ敵の襲撃があっても、投石ができるようにしたんだ。


「なんか賽の河原みたいだね……」


 その光景を眺めていたアンジュさんは、苦い薬を飲まされた子供みたいな顔をしていた。

 そういう彼女も背中に矢筒を背負い、常に弓を持ち歩いていて準備万端。いつでも戦えるようにしている。


 ボクたちは日々訓練と準備を重ね、マーマン迎撃の体制をちゃくちゃくと整えていた。


「……クラエッ!」


 砂浜では、海辺に立てた練習用の人形めがけ、投石器で石をぶつける子たちがいる。

 百発百中とまではいかないけど、かなり命中させられるようになったようだ。


「ウオオオオオーッ!」


 投石の援護を受けつつ、石ヤリを手にした子たちが突撃、人形を突きまくっている。


 遠距離攻撃をする子と、近接攻撃をする子……お互いを邪魔しないようにコンビネーションを練習し、目覚ましい成長を遂げていた。


「みんなぁ~、がんばってぇ~! ケガしないでねぇ~!」


 戦うみんなの最後尾にいるのは、我らが癒やし手のラヴィさん。

 練習だというのにハラハラした様子で、戦いを応援している。


 彼女は常に後ろに控え、ケガした子が出たら治す役割だ。

 ラヴィさんは最近まで葉っぱの服だったんだけど、今はより目立つようにとボクの家のシーツで作った純白の服を着ている。


 ボクの隣で練習風景を眺めていたアンジュさんが、ふとボクのほうに視線をやった。


「ねぇソラ、マーマンって最初に会って以来、ぜんぜん出てきてないよね……? どっか行っちゃったのかな……?」


「うーん、そうなのかなぁ。ずっとコキールに海をパトロールしてもらってるんだけど、全然いないみたいなんだ……」


 ボクはそう答えながら、海の方を指さす。

 沖のほうには、貝殻で作ったゴーレム『コキール』がいて、トビウオみたいに跳ね泳いでいた。


 コキールは貝殻でできているだけあって、泳ぎがとってもうまい。

 足の貝殻をスクリューみたいに回転させて、魚雷みたいに速く泳ぐんだ。


 そうやって毎日、海の方を調べてもらってるんだけど……マーマンは見つからない。

 本当にアンジュさんが言うように、どこかに引っ越しちゃったのかなぁ……。


 でもこのあたりの勢力図を見ても、いまだ黄色で、モンスターの支配下にある。

 やっぱりこの海のどこかに、マーマンは隠れているんだ。


「ああっ!? 見て見てソラ! コキールのすぐ近くに背びれがあるよ!? 大変っ! あれってサメじゃない!?」


 焦った様子でアンジュさんが示す方角を、ボクは手をひさしのようにして見た。


「ああ、あれはイルカだよ」


「なっ、なんでわかるの!?」


「サメはあんまり背びれを出して泳がないんだ。それによく見て、背びれの先が丸くなってるでしょ? サメの背びれの先はもっと尖ってるんだよ」


 すると、ボクの説明が正しいことを証明してくれるみたいに、水面からイルカが跳ね出た。

 コキールと一緒に、水族館のショーみたいにシンクロして泳いでいる。


「ああーっ!? ホントだっ!? い、イルカだぁーっ! かわいいーっ!!」


「ちょっ、どこ行くのアンジュさん!?」


 ボクは海に走っていこうとするアンジュさんの腰に抱きついて、押しとどめようとしたんだけど……力の差でズルズル引きずられてしまう。


「イルカと遊ぶに決まってるでしょ!」


「ダメだよ、マーマンがいるかもしれないのに! 倒すまでは沖に出るのは危険だよっ!」


「へーきへーき! 長いこと出てきてないし、コキールもいるし、大げさだって! それにマーマンって下級モンスターだから襲われても大丈夫だって! ジョーズじゃあるまいし!」


「……ジョーズ……?」


 ボクはアンジュさん引きずられながら、思い出していた。

 たしか、巨大なホオジロザメが人を襲う映画だ。


「そうか……! もしかしたら……マーマンが現れない理由が、わかったかもしれない……!」


 それはアンジュさんの何気ない一言だったけど……ボクには大きなヒントになったんだ。


  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 アンジュさんに沖まで行かせるわけにはいかなかったから、ボクはコキールに頼んでイルカを浅瀬のほうまで連れてきてもらう。


 初めて見るイルカはとっても愛らしくて、ボクはアンジュさん以上に興奮してしまった。


「かっ……かわいいーっ! イルカって、こんなにかわいいんだっ!」


 つぶらな瞳に誘われて、抱きついて頬ずりしてみると……ツルツルしてるのに柔らかい感触。

 しかも子猫みたいにキューキュー鳴いて……身体はボクよりずっと大きいのに、なんだかとってもいじらしい感じがするんだ……!


 人懐っこいイルカはボクやアンジュさんだけでなく、女の子たちにも大好評。

 女の子たちもキャーキャー言いながらイルカを抱きしめていた。


 その様子を、物欲しそうに眺める男の子たち。


「イイナー……」


「ウラヤマシイ……」


「どうしたの? 羨ましいなら見てないで、みんなも一緒にイルカと遊べばいいのに」


「イヤ……イルカハ イイ……」


「ソレヨリモ イルカニ ナリタイ……」


「……イルカになりたいの? 変なの……」


 ボクは、男の子たちの気持ちがよくわからなかった。


 あ、そうだ、それよりもマーマンをおびき出す方法を思いついたんだった。

 ちょうどよかったので、マーマンに襲われた男の子たちの話を聞いて、確認してみることにする。


 ……するとやはり、ボクの思った通りだったんだ。


 ボクは女の子たちがイルカと遊び終えるのを待った。

 イルカは座礁しちゃうといけないから、ちゃんと沖に帰してあげる。


「あー楽しかった! イルカをあんなに近くで触ったのって初めて!」


 満面の笑顔で戻っていくアンジュさんを、ボクは呼び止めた。


「あっ、待ってアンジュさん、ちょっとお願いがあるんだ」


「なあに、ソラ?」


「赤い汁が採れる、花とか実を集めてきてほしいんだ。なるべくたくさん」


「赤い汁? なにに使うの? 染のものでもするつもり?」


 ボクはアンジュさんを手招きして、しゃがみこんでもらった。

 こしょこしょと耳打ちする。


「……ああっ、なるほど! それならニワトコの実がよさそうだね! オッケー、行ってくる! ちょっとフルールを借りるね!」


 イルカと遊んだせいなのか、それともボクの作戦にやる気になってくれたのか……アンジュさんは上機嫌。

 フルールのいる丘のほうへ、スキップしながら向かっていった。


 その背中を見送ったあと、ボクは次の準備をする。


 石器で作ったコップを持ってきて、天空城の庭に座り込む。

 あぐらをかいて、股の間に石器を挟み込んで……腰に差している石剣を抜く。


 神の力が宿っているせいか、石にしては切れ味のいい白い剣。

 ちょっと怖かったけど……ボクは勇気を出して刃に親指をあてがい、ぐっと力をこめた。


「痛っ!」


 背筋がゾッとするような痛みが走り、親指の腹がパックリと裂ける。

 しかし傷口は一滴の血も流すことなく、すぐに塞がってしまった。


 あ……そっか、天空城の庭は治癒効果があるから、すぐに治っちゃうんだ。


 ボクは立ち上がって庭から離れ、砂浜で改めてやることにした。


 同じようにしゃがみこんで、石剣で親指の腹を斬る。

 すると痛みとともに傷口から、血がポタポタ滴ってきた。


「きゃあっ!?」


 悲鳴がしたので顔をあげると……この世の終わりみたいな顔をしたラヴィさんが立っていた。


「そそそそそそそソラちゃんっ!? ケガしちゃったのっ!? 痛い!? 痛いよねっ!? すぐにナイナイしてあげるから……!」


 ラヴィさんはまるで自分が失血してるみたいに、青ざめながらボクの手を取る。


「あ、待って待ってラヴィさん、わざとやったんだよ。血を採るために」


「ち……血をとるっ!? それよりも早く治さないと……! ソラちゃんが死んじゃうっ!」


 ケガが心配でたまらないのか、ボクの言うことも耳に入っていない様子のラヴィさん。

 とうとう瞳の端に、涙の粒を浮かべだした。


「お、落ち着いてラヴィさん、このくらいじゃ死なないよ……それに治さないでいいから。血を採ろうとしてるんだ」


 ボクは噛んで含めるように、ラヴィさんに言い聞かせる。


 でも、それでもラヴィさんは子供をさらわれた親みたいに取り乱していたので、しょうがないので治してもらった。

 そうしないと、まともに話を聞いてもらえないと思ったからだ。


 ボクはラヴィさんが落ち着いたところで、改めて説明する。


 アンジュさんのジョーズの話をヒントに、ボクはマーマンに襲われた男の子たちの話を聞いてみた。

 すると予想どおり、海の底にある鋭い岩で脚を切ってしまい、血が出ていたという。


 ジョーズ……いわゆる鮫は、鼻が利く動物で、海水に溶け込んだ血液を嗅ぎつけることができるらしい。

 その鋭さはかなりのもので、数キロ先で流された少量の血液でもわかるくらいだと、何かの本で読んだ。


 それでボクは、もしかしてマーマンたちも同じような能力があるんじゃないかと思ったんだ。

 ボクの血を海にまいてみたら、おびきよせられるんじゃないかと思い……こうして血を採っていたんだ。


 ちゃんと説明したら、ラヴィさんはわかってくれた。

 でもボクがまた指を切ろうしたら、ガシッと両手で抑えてきて、


「だったらわたしの血を使って。ソラちゃんの血が流れているところなんて、想像するだけでも悲しくなって、涙が出ちゃうの」


 ラヴィさんは真剣なまなざしで献血を申し出てくれたけど、ボクはとてもそんな気にはなれなかった。


「え……ラヴィさんの血を? それはちょっと……」


「どうして?」


「何かの間違いで傷が残ったりしたらイヤだから。ボクの身体だったらべつに平気だけど……」


 するとラヴィさんは、氷河期を迎えた恐竜みたいな表情になった。

 あ、しまった……例えが悪かったか……と後悔したけど、もう遅い。


「そ……ソラちゃんの身体に傷が残るなんて、絶対に絶対にダメッ!」


 心配性のラヴィさんは、ボクの身体に傷が残ると思い込んでしまった。

 こうなった彼女は頑固なんだ。もう何を言っても絶対に、ボクが指を切ることを許してくれないだろう。


 全力をもって妨害してくるに違いない。

 普段はおっとりしてる彼女だけど、ボクのことになると命をも投げ出しかねない行動力を見せるんだ。


 うーん、どうしようかなぁ……と悩んでいると、


「ソラ ナニ シテルンダ?」


 戦闘訓練を終え、ひと休みしようとしていた男の子たちが通りかかった。


 ……ボクは彼らに相談して、血を分けてもらうことにする。

 そしてこれからする作戦のために、演技指導をしておくことも忘れなかった。

■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:19)


 今回は割り振ったポイントはありません。未使用ポイントが1あります。

 括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


 ●創造の奇跡

  魔法生物

   (4) LV1 ゴーレム  … ゴーレムを創る

   (1) LV2 小人成長  … 小人を人間にする

   (1) LV3 使徒成長  … 人間を使徒にする

  有機生物

   (1) LV1 絶滅    … 生命を絶滅させる

   (1) LV2 成長促進  … 生命の成長を早める

   (0) LV3 生殖    … 生命を親にする

  回復

   (1) LV1 治癒    … 病気や怪我を治す

   (0) LV2 死者蘇生  … 死んだものを蘇らせる

   (0) LV3 死者転生  … 異界から死者を蘇らせる


 ●神通の奇跡

  神の手

   (1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る

   (1) LV2 ウェポン  … 武器を出す

   (0) LV3 マジック  … 天空城の奇跡を手から出せる

  神の叡智

   (0) LV1 現界の声  … この世界の声を聞く

   (0) LV2 異界の声  … 異界からの声を聞く

   (0) LV3 天啓    … 人間に知恵を授ける


 ●水勢の奇跡

  波浪

   (0) LV1 小波    … 小さな波を起こす

   (0) LV2 大波    … 大きな波を起こす

   (0) LV3 津波    … 津波を起こす

  水かさ

   (1) LV1 減水    … 水を減らす

   (1) LV2 増水    … 水を増やす

   (1) LV3 海割り   … 水を一時的に割る

  操水

   (0) LV1 霧散    … 霧を作り出す

   (0) LV2 噴水    … 水を噴出させる

   (0) LV3 渦     … 渦を作り出す

  水中

   (0) LV1 呼吸    … 水中で呼吸できるようになる

   (0) LV2 浮力増   … 水中の浮力を増やす

   (0) LV3 浮力減   … 水中の浮力を減らす


 ●天候の奇跡

  雲

   (1) LV1 雲     … 家の煙突から雲を出せる

   (0) LV2 虹     … 虹を出せる

   (0) LV3 ???   … ???

  風

   (0) LV1 風     … 風を起こせる

   (0) LV2 竜巻    … 竜巻を起こせる

   (0) LV3 ???   … ???

  雨

   (1) LV1 雨     … 雨を降らせる

   (0) LV2 洪水    … 洪水を起こす

   (0) LV3 ???   … ???

  雪

   (0) LV1 雪     … 雪を降らせる

   (0) LV2 大雹    … 大きな雹を降らせる

   (0) LV3 ???   … ???

  雷

   (1) LV1 雷     … 雷を落とす

   (0) LV2 導雷    … 目標に誘導する雷を落とす

   (0) LV3 ???   … ???

  火

   (0) LV1 火の粉   … 火の粉を降らせる

   (0) LV2 火の玉   … 火の玉を降らせる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●天空城の奇跡

  高度

   (0) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる

   (0) LV2 天空界   … 「天空界」まで飛ばせるようになる

   (0) LV3 ???   … ???

  速度

   (0) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる

   (0) LV2 高速移動  … 高速移動ができる

   (0) LV3 ???   … ???

  流脈

   (0) LV1 消費減少  … 奇跡力の消費を抑える

   (0) LV2 放出    … 天空城から物体を放出できる

   (0) LV3 ???   … ???

  障壁

   (0) LV1 防御障壁  … 天空城を守るバリアを張る

   (0) LV2 水中潜行  … 水中に潜れるようになる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●太陽の奇跡

  気温上昇

   (0) LV1 気温上昇  … 気温を上げる

   (0) LV2 猛暑    … 猛暑にする

   (0) LV3 ???   … ???

  気温下降

   (0) LV1 気温下降  … 気温を下げる

   (0) LV2 寒波    … 寒波を起こす

   (0) LV3 ???   … ???

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