30 得意不得意、いろいろあります
不意打ちの石に襲われたアンジュさん。
ボクが助け起こそうとしたところに、ラヴィさんがやってきた。
「あああああっ!? ご、ごめんなさいっ! アンジュちゃ……きゃあっ!?」
青い顔で走ってくる途中、つまづいて顔面スライディングをしながら滑り込んでくる。
そのままアンジュさんにすがりつき、凶弾に倒れた人を前にしているかのようにおいおい泣きはじめた。
「あぁぁぁぁんっ……! ごめんなさい、ごめんなさい……! わたしが下手なばっかりに……!」
どうやら投石器の練習で、誤って石をぶつけてしまったようだ。
でも、練習用の的は完全にあさっての方角にある……どうやらラヴィさんは、投石器を使うのがかなり苦手らしい。
「大げさだよラヴィ、もうなんともないから泣かないで」
アンジュさんは、天空城の回復効果ですぐに起き上がった。外傷も残ってないようだ。
でもラヴィさんは、決壊したダムみたいな嗚咽をもらしながらアンジュさんの耳をさすっている。
まあ、なんともなくてよかった……とボクはひと安心していると、
「……ソラ チョット……」
いつのまにか側にいた、エイヤさんから手招きされた。
「なに? エイヤさん」
「チョット コッチ キテ」
ボクはエイヤさんから手を引かれ、天空城から離れた砂浜のほうに連れていかれる。
「ラヴィ ノ コト」
「ラヴィさんのこと? ラヴィさんがどうかしたの?」
エイヤさんはちょっと言いにくそうにしながらも、ボクに打ち明けてくれた。
ラヴィさんは石ヤリも投石器も、壊滅的に下手らしい。
得意な子が教えてあげたそうなんだけど、いくらやっても全然うまくならず、それどころかドジってまわりにケガさせてしまうそうだ。
ラヴィさん本人も下手なことに気づいているらしく、何度も謝りながら練習しているらしい。
「あきらめちゃダメだって、ソラちゃんが言ってた……だからわたし、あきらめない……!」と必死にがんばっているそうだ。
がんばるのは良いことだけど、一向にうまくならないのが見ていて不憫らしい。
それに横から石が飛んでくるような状況だと、みんなおちおち練習していられないそうだ。
……以上が、エイヤさんが話してくれた内容。
なぜかエイヤさんは気まずそうにしていたけど、ボクは彼女のことをすっかり見直していた。
「……エイヤさん、教えてくれてありがとう! みんなのことを、そこまで気づかってあげられるなんて……すごい! すごいよ、エイヤさん!」
自分がうまくなるだけじゃなくて、下手な子をフォローしてあげて……しかもまわりの練習の邪魔になっていることまで感じとるだなんて……。
エイヤさんは力もちなだけじゃなくて、リーダーの才能もあるみたいだ……!
ラヴィさんのことはボクに任せてもらうことにして、エイヤさんには引き続き、みんなの戦闘訓練のフォローをお願いした。
訓練に戻っていくエイヤさんを見送りながら、ボクは考えこむ。
ラヴィさんはボクを守りたい一心で、戦闘訓練をしてくれている。
上達はしてないみたいだけど、ボクの言った「あきらめない」という言葉を胸に、がんばっているようだ。
ラヴィさんの目的が「石ヤリや投石器の扱いにうまくなる」なんだったら、そのままでもいいと思う。
今度はボクがつくようにして、上手くなるまで教えてあげればいいだけだから。
でも……ラヴィさんの望みはそうじゃなくて、「ボクを守りたい」んだ。
それは……苦手な石ヤリや投石器を使わなきゃ果たせない目的じゃないはず。
物事を成し遂げるための道筋は、ひとつじゃない。
そのための手段は、より得意なもののほうがきっといいはずだ。
なんとかしてラヴィさんの得意なもので、「ボクを守りたい」という気持ちを叶えてあげられないものだろうか。
ラヴィさんが得意なものといえば……すぐに思い浮かぶのは料理。
あと洗濯。ボクのオーバーオールを毎日洗って干してくれるんだ。
おいしい料理を作ってくれたり、キレイな服を着せてくれるのも……立派にボクを守ってるうちに入ると思うんだけどなぁ……。
でもラヴィさんは、それじゃ納得してくれないだろう。
それは当たり前のようにやってるから、もっと新しいのが必要なんだ。
彼女の新たな魅力を引き出して、かつ「ボクを守ってる」っていう実感が得られるものって、なにかないかなぁ……?
他にラヴィさんが得意なことって、なにがあるだろう。
ラヴィさんの良いとこならいっぱい思いつくから、そこから何か見出だせないかなぁ。
ボクはなんとなく、オーバーオールのポケットからスマート天空石を取り出す。
画面のトップメニューに並んでいるアイコンから、『情報』を押してみた。
この『情報』にはボクのことだけじゃなく、みんなの事がこと細かに書いてあるんだ。
ずらりと並んだリストの中から『ラヴィ』という名前にタッチする。
ラヴィさんの全身の絵と、身長や体重などの文字情報が出てきた。
えーっと……年齢14歳、身長150センチメートル……Gカップってどういう意味だろう?
ふと、名前の横にハートマークがついているのに気づく。
他の人の名前にはついてなかったのに……と思いながら、そのマークに触れてみた。
すると画面の下からニュッと、オジサンが出てくる。
「それは『使徒』のマークじゃな、ソラを心の底から尊敬したり、愛している者につくんじゃ。このマークがついている人間は、『使徒成長』の奇跡で使徒にすることができるんじゃよ」
「使徒って……もしかしてあの『十二使徒』とかの使徒?」
ボクはスマート天空石に向かってつぶやく。
しかし答えは画面からじゃなくて、背中のほうから返ってきた。
「神々に仕える人間のことをいうんだよ」
振り向くと、アンジュさんが立っていた。
「あ……アンジュさん、もう大丈夫なの?」
「うん。っていうか、元からたいしたことなかったし。でもラヴィが大げさなんだよね……なんともないのにベッドに連れてこうとするから、まいてきちゃった」
アンジュさんは、過保護な母親から逃げてきた娘みたいだった。
「それよりもさ、ソラって神様のくせに、使徒のことも知らないの? ……へへへ、教えてあげよっか?」
「アンジュさん、知ってるの? うん! 教えて!」
ボクが元気いっぱいに返事をすると、アンジュさんはなぜか背筋をゾクゾク震わせた。
「くぅぅ~っ! なんでも知ってるソラに『教えて』って言われるの、気持ちいい~! さぁて、どうしよっかなぁ~!?」
天にも昇りそうなアンジュさんは、物欲しそうな横目でチラリとボクを見る。
「そんな……! お願いだから教えてよ、アンジュさん!」
もう一度お願いすると、アンジュさんは足ツボマッサージでもされてるみたいに、脚をピーンと伸ばしてつま先立ちになった。
「くぅぅぅ~っ! きくぅ~! ……もっと、もっと言って!」
「ねぇぇ~! アンジュさん、教えてよぉ~! ねぇってばぁ~!」
ボクがすがりついてお願いしてようやく、アンジュさんは『使徒』について教えてくれた。
……『使徒』というのは簡単に言うと、神様の弟子のこと。
神様に付き添い、働く存在らしい。
天使であるアンジュさんとは似た存在なんだけど、見た目は人間のまま。
神様と人間の間に立ち、お互いの意思疎通を助けるのが役目だそうだ。
神様の力の一部を使うことができ、さまざまな奇跡で人間たちを導くという。
そういえば、あの海割りの奇跡で有名なモーセも使徒だった。
天使と使徒の違いが良くわからない、とボクが聞いたら、アンジュさんは『階級』について教えてくれた。
この世界は、六つの階級に分かれるらしい。
1:神祖 … すべての神様の頂点に立つ存在のこと。天空石のなかにいるオジサンのことだと聞いて、ボクはビックリした。
2:主神 … これはボクのことらしい。一般的な『神様』で、ひとりにひとつ世界を持っているそうだ。
3:属神 … 主神がリーダーだとすると、これはその下にいる神様のこと。『戦いの神』とか『愛の神』とか、細かいのになると『鏡の神』とか『トイレの神』とかいるらしい。
4:天使・聖獣 … これはアンジュさんやポポのこと。神様を助ける存在。アンジュさんとポポが同じ階級というのが、ボクには意外だった。
5:使徒 … これはさっきアンジュさんから教えてもらった。
6:人間 … これは集落にいるみんなのことだ。
……なるほど、こうやって並べてみると、わかりやすい。
使徒というのはより人間に近い存在、ということなんだ。
ちなみにこの階級は『大階級』というらしい。
それぞれの『大階級』の中には、『小階級』というさらに細かい階級があるそうだ。
4の天使でいえば、『熾天使』とか『大天使』とかいうやつ。
より上の階級のほうが偉く、大きな力を使えるらしい。
『階級』についての説明を終えたアンジュさんは、「でもなんで急に、使徒のことなんて気になりだしたの?」とボクに聞いてきた。
ボクは、ラヴィさんに使徒のマークが付いていたことを打ち明ける。
「なんだ、だったらラヴィを使徒にすればいいじゃない。使徒になればよりソラに近い存在になれるから、神様の力の一部も使えるようになるし……より世界づくりが便利になるよ」
アンジュさんは、野菜は生より火を通したほうが身体にいい、みたいなあっさりした口調で言う。
でもボクは、そんな簡単なことじゃないんじゃ……と思っていた。
「うーん……でも、人間じゃなくなるってことだよね……ラヴィさん自身はなんていうか……」
ボクは隣にいるアンジュさんに向かって、悩むようにつぶやく。
しかし答えは隣からじゃなくて、背中のほうから返ってきた。
「……なるっ! わたし……なりたい! ソラちゃんの使徒になりたいっ……!」
振り向くと、ラヴィさんが立っていた。
ボクを守ると言ったときの、決意した表情で……!
■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:18)
今回は割り振ったポイントはありません。未使用ポイントが1あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(1) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 マジック … 天空城の奇跡を手から出せる
神の叡智
(0) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(0) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(0) LV3 天啓 … 人間に知恵を授ける
●創造の奇跡
魔法生物
(4) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(1) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(0) LV3 使徒成長 … 人間を使徒にする
有機生物
(1) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(1) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 生殖 … 生命を親にする
回復
(1) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 死者転生 … 異界から死者を蘇らせる
●水勢の奇跡
波浪
(0) LV1 小波 … 小さな波を起こす
(0) LV2 大波 … 大きな波を起こす
(0) LV3 津波 … 津波を起こす
水かさ
(1) LV1 減水 … 水を減らす
(1) LV2 増水 … 水を増やす
(1) LV3 海割り … 水を一時的に割る
操水
(0) LV1 霧散 … 霧を作り出す
(0) LV2 噴水 … 水を噴出させる
(0) LV3 渦 … 渦を作り出す
水中
(0) LV1 呼吸 … 水中で呼吸できるようになる
(0) LV2 浮力増 … 水中の浮力を増やす
(0) LV3 浮力減 … 水中の浮力を減らす
●天候の奇跡
雲
(1) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ??? … ???
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ??? … ???
雨
(1) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ??? … ???
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
雷
(1) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ??? … ???
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
●天空城の奇跡
高度
(0) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 ??? … ???
速度
(0) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(0) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 ??? … ???
流脈
(0) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(0) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(0) LV3 ??? … ???
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 ??? … ???
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ??? … ???
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ??? … ???




