03 天空城をもらったので、新生活を始めてみました
ハッ!? とボクは飛び起きる。
あたりは薄暗い河原じゃなくて……天井や壁にある窓から、光がいっぱい差し込むログハウスの中だった。
いつの間にかボクは、ふかふかで、船の上みたいに大きなベッドの上にいたんだ。
オジサンの手を握った瞬間、頭の中が真っ白になって……気がついたらここにいた。
服装も浴衣じゃなくて、大きなポケットのついたオーバーオールに変わっていた。
もしかして、ここはオジサンの家かな? なんて考えながら、ボクはベットから飛び降りる。
寝室らしき部屋から出てみると、隣室はリビングと台所だった。
リビングには木製の食卓と、レンガづくりの暖炉がある。
部屋にはテレビどころか電灯すらもないようで、なんだか昔の西洋の家っぽいカンジの内装だった。
あのオジサンが住んでいるとしたら、イメージ的にはピッタリなんだけど……。
でも、この部屋にもオジサンはいなかった。
しょうがないので玄関らしき扉から外に出てみると……太陽のまぶしさと、吹き込んでくる風の爽やかさを感じて、ボクは目をパチクリさせてしまった。
「ええっ……!?」
見渡す限りに広がる大空……!!
足元には芝生があるんだけど、途中で途切れている。
そして時折、霧のような白い煙が、ボクの身体を撫でつつ通り過ぎていく。
今ボクがいるのは、かなり高い所なんだ……! とすぐにわかった。
おそるおそる草原の縁まで歩いていって、下を覗き込んでみる。
「……わあぁ……!!」
眼下には、ミニチュアみたいな森や草原があった。少し離れた所には山が見えるけど、その山より高い位置に、ボクはいた。
こんな高い所に来たのは、生まれて初めてだ……!
ここは……かなり高い山の上にある、山小屋なのかな?
ボクが夢中になって下を覗き込んでいると、ふと、横からニュッと顔が出てきた。
「うわあっ!?」
ボクはびっくりして飛び退き、危うく落ちそうになる。
すぐ横には、白くて毛むくじゃらの生き物がいたんだ。
ボクはその生き物を、電子書籍の動物百科で見たことがあった。
「も……もしかして……犬?」
独り言のつもりだったんだけど、その生き物は返事をするように「ワンッ!」と鳴いた。
この鳴き声……やっぱり犬だ……!
そして、この身体の大きさと、毛の多さ……たぶん『グレート・ピレニーズ』かな?
ボクは四つん這いになって、おそるおそる、犬に近づく。
そっと顔を寄せてみると、ベロンと大きな舌で舐められた。
「わっ、く、くすぐったいよ! あはははっ!」
ボクはまたひっくり返ってしまう。
犬はボクにのしかかるようにして、さらに顔を舐めてきた。
「あはははっ! やめて! くすぐったいって! ……も、もう! このぉ、まけないぞ! こちょこちょこちょ!」
ボクはやられっぱなしでたまるかと、犬をくすぐる。
すると犬はコロンと草の上に寝転がって、お腹を見せてきた。
「どうだっ! まいったか! こちょこちょこちょ~!」
ボクは犬のお腹をさする。
白いクッションみたいにフカフカで、柔らかくて気持ちいい。
するといきなり……ボクの手の甲がボンヤリと光り出した。
あれっ? と思って見てみると、ボクの右手の甲には太陽みたいなアザがあって、左手には月みたいなアザができていた。
それが、かたや赤く、かたや青く光を放っていたんだ……!
初めて犬と触れ合って、楽しい気持ちだったのに……なんか変なことになってる……!?
ボクの身体、いったいどうなっちゃったの……!?
アタフタしていると、ボクが出てきたログハウスの隣にある、石でできたカマクラみたいなのが目についた。
そのカマクラの中には大きな水晶の柱があって、ボクの手の甲に呼応するみたいに光り輝いていたんだ。
「これは……一体……?」
ボクはベッドから飛び起きてからというもの、理解できないことの連続だった。
ビックリし過ぎちゃったのか……光る水晶くらいじゃ、もうあまり驚かなくなっていた。
水晶の柱に近づくため、カマクラの中に入ってみると……柱の側面に、液晶画面みたいなものが浮かびあがってきた。
ボクが病室で使ってたタブレット端末みたいな画面には、ボクに手を差し伸べてきたオジサンの顔が映っていて、
「ソラよ! こっちじゃ、こっち! こっちに来て、この『天空石』に触れるんじゃ!」
という吹き出しが出ていた。
「あっ……オジサン!? ここはどこなのっ!? オジサンは、どこにいるのっ!?」
ボクがいくら呼びかけてみても、『天空石』とやらに浮かび上がっている画面のオジサンは返事をしなかった。
同じ吹き出しのまま、固まっている。
もしかしてと思い、タブレット端末を操作するみたいに画面に触れてみると、
「ほっほっほっ……さっそく聖獣のアルバレッグと仲良くなったようじゃな、1レベルアップじゃ!」
画面の上のオジサンは、ニコッと笑った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
画面の上のオジサンは、まるでゲームのチュートリアルみたいに一方的に喋り続けた。
オジサンが話してくれた内容を整理してみると、ボクが今いるのは、空に浮く『天空城』らしい。
この天空城を拠点にして、ボクは神様として生きていくことになるそうだ。
天空城といっても今はまだログハウスと、天空石のあるカマクラしかないから、ボクの手で拡張していく必要があるらしい。
ちなみにカマクラだと思っていたのは正しくは、祠というそうだ。
いまのボクは神様見習いだけど、神様らしいことをすれば、『神様レベル』が上がって、いろんな『奇跡』が使えるようになるとのこと。
ちなみにボクが犬だと思っていたのは『アルバレッグ』という聖獣で、聖獣と仲良くなったからレベルがひとつ上がったらしい。
ボクの手の甲にあったのは『神様の紋章』らしくて、レベルアップしたことを知らせるために光ったそうだ。
「アルバレッグは変わった聖獣でな、犬と猫のふたつの姿を持っていて、自由に変わることができるんじゃよ」
そのメッセージを読んでいたボクのくるぶしあたりに、しゅるりとした感触があった。
視線を落とすと……そこには白い猫がいて、アクアマリンみたいな綺麗な瞳でボクを見上げていたんだ。
「わぁ! キミ、本当に猫になれるんだ……!」
ボクは驚きつつもしゃがみこんで、猫になったアルバレッグを抱き上げる。
初めて触る猫は柔らかくて、ふんわりしてて……干したての布団みたいなニオイがした。
「ふふ、キミは真っ白で、フワフワだね。まるで、タンポポの綿毛みたい……よぉし、キミの名前は『ポポ』だ!」
さっそくボクの腕の中でくつろいでいる『ポポ』は、ミャッと短く鳴いた。どうやら返事をしてくれたようだ。
そのやりとりを見ていたかのように、画面の下のほうに小さくある『神様経験値』の数字がカウントアップする。
オジサンの吹き出しが切り替わった。
「おっ、名前を付けてあげたようじゃな。聖獣に好かれるのは神様の基本じゃから、その調子でいっぱいイチャイチャするがよいぞ。聖獣と仲良くなると『神様経験値』がもらえて、やがて神様レベルがあがるんじゃ」
続けて表示された、オジサンの説明を総合すると……。
『神様経験値』というのがあって、それが一定以上になると『神様レベル』があがるらしい。
レベルがあがると『奇跡ツリー』のポイントが1ポイントもらえて、そのポイントを振り分けることにより、いろんな奇跡を覚えることができるらしい。
「ではさっそく、奇跡ツリーにポイントを振ってみるがいい。最初は『ジオグラフ』を覚えるとよいぞ」
ボクはポポを抱っこしたまま操作を続け、『奇跡ツリー』の画面を開く。
いっぱいある項目の中から『ジオグラフ』を選んで、タッチしてみた。
■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:2)
今回は『ジオグラフ』に1ポイントを割り振りました。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(0) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 ??? … ???
神の叡智
(0) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(0) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(0) LV3 ??? … ???
●天空城の奇跡
高度
(0) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 ??? … ???
速度
(0) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(0) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 ??? … ???
流脈
(0) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(0) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(0) LV3 ??? … ???
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 ??? … ???
●天候の奇跡
雲
(0) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ??? … ???
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ??? … ???
雨
(0) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ??? … ???
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
雷
(0) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ??? … ???
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ??? … ???
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ??? … ???
●創造の奇跡
魔法生物
(0) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(0) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(0) LV3 ??? … ???
有機生物
(0) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(0) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 ??? … ???
回復
(0) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 ??? … ???




