第46話 オリエンス教会 フェイズ5
続きです。
アリング商会の元締めであるゲールノートは建物の自室で、何時ものように昨日の売り上げの確認をし、それを紙に書いていた。
「‥‥‥昨日の最終的な金額は200万フラルか。まあまあの金額だな」
一通り終わり一息を吐こうと、ゲールノートは椅子の背凭れに体重をのせた。
徐にゲールノートはどこか遠くを見るかのように目を細めた。
「(目標達成にかかる金がまだまだ足りない。もっと効率的に大口の顧客を増やし、資金回収を強めなくては。‥‥‥そう考えると昨晩の出金は痛かったな)」
自分ではどうしようもない事に頭を抱えるゲールノートは、対抗策としての昨晩の出来事を思い出していた。
コネを使ってある建物に入り、そこにいた案内人に通されたのはある一室だった。
そこは一般家庭にあるかのような質素な机と明り用のランプが置いているだけだった。
少し待っていると自分が入ってきた扉から黒のロープで全身を隠している人物が入って来た。
仲介人と名乗るその人物に依頼内容を言うと、少し考え金額を提示して来た。
消費者金融を営んでいるゲールノートだったら何とか払えるが、一般家庭だったら逆立ちしたとしても払えない金額だった。
最初は渋ったが、後々の事を考えゲールノートは提示された金額で了承した。
まず仲介手数料と手付金として提示された金額の半額を払い、残りは依頼完了後に支払う事となった。
「(サナダと言う邪魔者の殺害が幾ら自分達で出来ない事ととはいえ、仕事を外部委託させると金が掛かるな。最善なのは自分の所で出来ればいいが、出来ない事をしようと高望みしずぎて足元がすくわれるは避けたい。これは必要経費として、考えるほかないな。‥‥‥もしかしたら差し向けられた暗殺者にもう殺されているかもしれんな)」
ゲールノートは真田が無様に死んでいる姿を想像して、自身の精神を表すかのように脂ぎった笑みを浮かべた。
自分をコケにした真田が殺された所を想像してすっきりとしたのか、ゲールノートの表情は晴れやかとなった。
ゲールノートは久しぶりに爽快な気分で残りの仕事に取り掛かろうとしたが。
バァッン!!と、何かが爆発したかのような音が、ゲールノートが作業する事を拒ませた。
ゲールノートの驚きに満ちた瞳は勢いよく開けられた扉とそのドアを蹴飛ばした真田の姿を捉えた。
「(ア、アイツは。なななな、何で此処に!!??)」
ゲールノートの瞳はゲールノートにとってはあり得ない光景を移していた。
その瞳に映す者は凄腕の暗殺者によってとっくに殺されているか、その日常生活を監視されていると思っていたからだ。
そのどちらとしても真田が此処に来るとは夢にも思わなかったのだ。
しかしゲールノートは動揺を営業スマイルで覆い隠した。
このような時に自身の感情が出るのは、不利益になると経験で知っているからだ。
「何だ君か、大きな音を立てて開けるから驚いたぞ。そんな開け方をするなと親に注意されなかったのか」
「すいませんね。冒険者なもんで礼儀作法は無縁なんでね。‥‥‥言っておくが男達からの加勢があると思うなよ。お前の場所をちょっと聞き出したら、全員何処かへと走り去って行った。今、何処に居るのか見当もつかないな」
「(くっ、あの無能共め!!)」
その光景を簡単に想像出来たのか、ゲールノートは内心毒づいた。
「さて」
真田はゴミを見るような冷たい目でゲールノートを見下ろしていた。
異様な雰囲気を感じ取ったのか、ゲールノートに焦りが見え隠れしていた。
「な、なんだ」
「先程、何者かの依頼で動いた者達から命を狙われた」
ゲールノートは思わず声が出そうになるが、何とかそれを阻止した。
何とか自制心を総動員して平静を装い。
「な、何故それを儂に言うのだ。厄介事なら街に居る騎士たちに言えばいいだろう」
「シスターの件で邪魔をした俺をお前が邪魔者と判断し、何かしらの手段を用いり暗殺者に俺の殺害を依頼したと思ったからだ」
「そ、それだなら間違いだな。儂は暗殺者に接触した覚えは無い。そもそも儂にお前を殺す理由など最初から存在しない。‥‥‥儂は金貸しだ。金にならない事は一切しないのが信条なのでな」
「そんなものは関係ない。理由が無くても、人は人を殺す」
「そ、そうかもしれんが、儂は違う。‥‥‥そこまで儂と断定するぐらいのなら、証拠はあるのだろうな。儂が暗殺者にお前の殺害を依頼したという明確な証拠が」
その問いに真田は答える事は出来なかった。
ノーウェイの森で襲って来たアイーシャ達から依頼人の名や仲介人を聞き出している訳では無い。
この場に乗り込んだのは、今までの経緯と襲われるタイミングから判断しただけに過ぎなかっただけだ。
ゲールノートがいうように明確なまでの証拠は真田は持ち合わせていない。
「証拠も無いのに犯人扱いするとは、とんだお笑いものだな。儂はお前のような無能に付き合っていられるほど暇では無いのでな、さっさとシスターの所に帰って乳繰り合うんだな」
ゲールノートは真田の態度から自身の勝利を確信したのか、人を小馬鹿にしたかのような暗い笑顔を浮かべた。
しかし真田は表情を変えずに冷めた目をしていた。
「確かに証拠は無い。‥‥‥だが。お前に殺害を依頼したと自白させる方法があるとしたらどうする」
「な、何だと」
ゲールノートの表情に焦りが滲み出てきていた。
真田はノーシェバッカスを発動させると、亜空間から木目調の秤と長方形の箱を取り出した。
秤は縦約40cm、横約30cmのシンプルな自立式の天秤ばかりだ。支点である中心の棒から左右に均等な長さの棒が伸びていた。そしてつり合うように3本の黒い紐で吊り下げられている半径約5cmの円形の平らな皿があった。
真田は自立式の天秤ばかりをゲールノートに見せつけるかのように机の上に置いた。
訳が分からず怪訝な表情をするゲールノートを無視したまま、真田は約20cmの長方形の箱を開けた。
その中には、羽ペンに使われるかのような1枚の白い羽根が曲がらないように綺麗に固定されていた。
一見、鳥などの羽根に見えるが、それを根本的から否定するかのような高潔な気品が羽から伝わっていた。
真田は細心の注意を払いながら羽を箱から取り出し、真田は左の板に天秤が動かないように丁寧に羽を置いた。
その瞬間、室内の雰囲気が変わった。
ゲールノートが気付けない程の些細なものだが、真田は根本的な所が明確にまでに変わった事に気付いていた。
真田は静かに独り言のように呟いた。
「これはある神話に登場する、死者の裁判に使う天秤を模して作られた魔法工芸品だ。その精度はほぼ本物と同じ、違うとすれば製作者が違う事ぐらいだ」
真田が取り出したのは、古代エジプト人が死者の霊魂が死後の楽園アアルに入るまで描いた死者の書に出て来るラーの秤の模造品だった。
ラーの秤は冥界の王である裁判長オシリス、月と知識の神であり書記のトト、お迎えとミイラ製作の神であるアヌビスの立会いの下で行われる死者の裁判に使う道具だ。
古代エジプトでは魂は心臓に宿ると考えられていた。
ラーの秤の一方に正義と真実の神マアトの羽を乗せ、もう一方に死者の心臓を載せる事となり、それで死者の生前に起こした罪の有無を調べる。
心臓と羽がつり合えば罪は無く、神々が住まう神の国か生前と同様の生活が出来る霊の国に行き死後の生活を行う。もし心臓が床に傾けば、罪がありと判断され地獄であるツアトに落される事となっている。
一時期、真田が魔法工芸品作りに熱中していた時期に作った作品の一つだ。
「ほう、こんなものがそうなのか。儂には只の秤にしか見えないがな。‥‥‥まさかそれを使って、私に自白させるとは言わないだろうな」
「そうだ。本来なら正義と真実の神が持つ羽を使わなければならないが、それを用意できないので。代わりにあらゆる事象を見回す事が出来る場所に干渉し、その情報を引き出す事が出来る羽を用意した。これで嘘偽りの無い結果が出る事となる」
ゲールノートはフッ!!と、真田を馬鹿にするかのように鼻で笑った。
「それは面白い、やってみるといい」
「その言葉、後悔するなよ。‥‥‥なに、お前がする事は子供でも出来るような簡単な事だ。ただ俺の質問に正直に答えればいい。それだけだ」
「それは助かるな。儂も歳だからな激しい運動は出来ないからな」
ゲールノートの軽口を無視して、真田はそのまま続けた。
「試しにお前に1つ質問する。‥‥‥ゲールノート、お前は男か」
ゲールノートは何言っているんだ此奴はと眉を顰めそうになったが、勝負を中断させるのも面倒臭いと言わんばかりに渋々、はいと答えた。
するとつり合っていた筈の天秤は独りでに動き出し、何も載っていない筈の平皿は上に静かに上がって行き、逆に羽が載っている板は下に下がっていた。
構造上の限界点が来たのか、2つの板はピタリとその位置で止まっていた。
天秤の様子を見ていたゲールノートは、感じた事が無い強い衝撃が心を襲い言葉を失っていた。
真田はそんなゲールノートの様子を尻目に淡々とした様子で口を開いた。
「ある地域の話では嘘つきをした人間を落とす地獄がある。そのように嘘つき自体が罪である。正直に答えたお前に反応し、このような結果になった。‥‥‥良かったな。これで少し寿命が延びたぞ」
「ちょ、ちょっと待て。その言葉だと、嘘を言えば死ぬという事なのか」
「当たり前だろ。言っただろ、これは死者の裁判に使う道具だと。人間の裁判の結果の行き先が牢屋か外であるように。死者の裁判の結果の行き先は天国か地獄のどちらかだ。天国ならそのまま生き続け、地獄なら死ぬ事となる」
真田は絶望を突きつけるかのように続けた。
「これは模造品とはいえ、製作者が違うだけの本物にとびっきり近い偽物だ。本物を使った際は、地獄に行くべき罪人の心臓はある幻獣に食われる事となる。‥‥‥さて問題だ。製作者が違うだけの本物に近い偽物を使った時に嘘を言えば、どうなるのだろうな」
「そ、それは‥‥‥」
あれだけ余裕綽々だったゲールノートに余裕など微塵も残されていなかった。
あるとしたら得体の知れないものから感じる不安しか残されておらず、瞳には怯えの色が色濃く映し出されていた。
今や目の前の天秤はゲールノートの目には、死へ誘う死神の鎌のように見えていた。
ゲールノートは今にも逃げ出したい思いを理性を総動員して封じ込め、真田に問いかけた。その口調に普段の余裕など一切感じられなかった。
「答える前に聞きたいのだが。もし仮にお前を殺害する依頼をしたという旨の質問に肯定するような答えを言うとどうなるのだ」
「そうだな。今回は特に実害が無かったから、お前が死ぬような事は無い」
ゲールノートは真田の言葉に安堵を覚えた。
「‥‥‥ただし」
真田は右手で机の端を掴むと、バキッ!!と、強引に捩じ切った。
「そのままじゃ筋は通らねえから2、3ヵ月はベットの上で安静して貰うようにはなるな」
バキバキバキッ!!と、真田は細かく砕いた木片をゲールノートに見せつけるかのように溢した。
皿のように見開いたゲールノートの目には、それが身体中の血液が逆流するかのような恐怖を感じさせるのには十分だった。
真田が傾いていた皿から羽を取ると、伸びたゴムが収縮性によって元の大きさに戻るように天秤はつり合った状態に自動的に戻った。
真田は動かさないように皿に羽を静かに置きながら。
「言っておくが質問に黙って時間切れを狙っても無駄だぞ。被告人は裁判中は拘束されるように疑いをかけられているお前はその場から移動する事が全く出来ないぞ」
驚くゲールノートは力の限り振り絞り椅子から立ち上がろうとするが、見えない鎖で何重にも椅子ごと縛られているかのようにピクリとも動けないでいた。
唯一束縛されていない頭部だけしか動かせないでいた。
真田はあらゆる感情を無くしたかのような限りなく平坦な口調で。
「さあ質問タイムだ、ゲールノート。お前は俺を殺すように何者かに依頼したのか」
最後通牒のようにつきつける真田にゲールノートは青白い顔で黙っていた。
「(ど、どうすればいい。何か見えないもので拘束されている以上、このまま黙っていたら食事や睡眠など取れなくなり衰弱してしまう。それだと苦しみから逃れたい一心で、依頼したと認めてしまう。それは絶対にあってはならぬ。認めれば死なないかもしれないが、10年20年先の我がアリング商会の汚点になってしまう。それは絶対に避けねばならない。‥‥‥一体どうすればいいのだ)」
二進も三進もいかない状況に動けないのに思わず頭を抱えそうになった。
ゲールノートは現状を打破しようと考えを廻らせるとある事に気付いた。
それを前提に真田の言動の推測を立て、1本の糸でつながった事に確信を得た。
「(あいつは嘘を吐くと死ぬと言ったが、それ自体が嘘に違いない。ただそう言っているだけで、儂に認めさせるための詭弁だ。あやつは極端な事を言って思考停止させ思考の誘導を行い、儂に認めさせ殴る事が目的だ。否定し続けて時間を延ばせば、不審に思った屋敷に居る誰かが騎士連中を連れてくるかもしれない)」
ゲールノートはニヤリと自身の勝利を確信したのかように気味の悪い笑みを浮かべた。
「お前の質問に答えてやろう。‥‥‥儂はお前を殺害するよう誰かに依頼した事は一切無い!」
ゲールノートは断言するかのように叫んだ。
それに反応するかのように天秤がゆっくりと自動的に傾き始めた。
何も載っていない皿の方が。
真田は二束三文の劇を見せられたかのような興ざめした顔で見ていた。
「馬鹿な事を」
「‥‥‥え?」
呆けるゲールノートが真田の言葉の意味を理解するタイミングは直ぐに来た。
天秤の何も載っていない皿が限界点に到達すると同時にビキッ!と、亀裂が走る音がした。
ゲールノートは最初は空耳かと思ったが、次第にビキビキビキッ!!!と、亀裂音が大きくなり、線も天秤から天井へと縦に走っているのが見えた。
ある程度の位置に到達すると、亀裂の音や線は止まった。
中から打ち破られるかのように亀裂が広がると、あらゆるものを黒く塗り潰すかのような漆黒の空間が広がっているのが見えた。
その漆黒の空間で微かだが『何か』が動いて、光の方へと向かって来ているのが見えた。
『何か』が外に出てその身体を晒す光景を、ゲールノートはその異様さに息を呑んだ。
その者の頭は人間なら簡単に千切ってしまいそうな顎を持つ鰐だった。
その者の髭と胴体上部は気品が溢れ鉄の鎧など紙同然のような鋭い爪を持った獅子だった。
その者の胴体下部と尻尾は突進力を支える強靭な足を持つ河馬をしていたのだ。
動物の生態に詳しくないゲールノートでもこんな生物はあり得ないと直感できるまでに。
出て来たのは死者の書に出てくる、罪ある者の心臓を食らう幻獣アミメットだ。
死者の裁判が無罪となった死者は心臓を持って神か霊の国に行く。逆に有罪となった死者は地獄に落される。
では。
地獄に落される死者の心臓はどうなるのか。
答えは単純だった。
この幻獣アミメットに貪り食われるのだ。
そしてその魂は消滅し2度と転生は出来ないようになっている。
アミメットは裁判の結果、罪人が発生し、その心臓を喰らおうと出て来たのだ。
アミメットは固定されて動けない罪人ゲールノートを文字通り獲物を狙う鋭い目で見ると、その大きな口を呑み込むかのような勢いで開けた。
ゲールノートは口の形に添って生える矢じりのような鋭い歯から、逃れようと暴れようとするが指先一つ動けず、自由だった頭部すら動かす事が出来ずにいた。
閉じられていくアミメットの口に逸らせないまま、ゲールノートは来るべき激痛に耐えようと反射的に目を瞑った。
するとどうだろうか。閉じられていくアミメットの口は、そこに存在していないかのようにゲールノートの身体を通り抜けていた。
待っても激痛が来ない事に不審に思ったゲールノートは、怒られた子供用におずおずといった様子でゆっくりと目を開けた。
瞳に映るアミメットの口が自身の身体を通過している状態に最初は驚いたが、やはりこけおどしだったと、安堵しニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。
だがそれは長く続かなかった。
まるでゲールノートの血や肉かのように難無く通過していたアミメットがゲールノートの心臓を捉えると、口を野球選手のバットスイングのように思いっきり振り抜いた。
アミメットの口先には、ドクン、ドクンと不気味に動いている逆円錐状の握り拳大の血に染められた真っ赤な心臓があった。
右心房にある洞結節から送られる規則的な電気信号により、心室の収縮と拡張を規則的に繰り返し、左心室に残っていた血や心筋用にと回された鉄錆臭い真っ赤な血がアミメットの口から雨のようにしたたり落ち、コインと書類を強烈な赤に染めていた。
アミメットは心臓を何度も口の中で咀嚼すると、普段食べ慣れていない物だった所為か、一瞬しかめるがそれも直ぐ戻り、自分の塒へと戻ろうと漆黒の空間へと引き返って行った。
アミメットの身体が完全に漆黒の空間に入りきると同時に亀裂は修復されていき元の状態に戻った。
亀裂の消失と共に自由となったゲールノートは、一体何だったんだと口を開こうとしたするが、その前にバタンッ!!と、受け身が取れないまま机に倒れこんだ。
身体の内側から発生する身を裂くかのような激しい痛みや全身に血液を送るポンプ役である心臓が無くったため、急激に血圧が低下しショック症状を起こし、手足は不気味に痙攣していた。
何が起きたのか理解できないまま、反射的に近くに居た真田に痙攣する手を伸ばした。
しかし真田は今にも死にかけているゲールノートを顧みる事無く、自立式の天秤ばねを亜空間に収納し、羽も箱に入れて収納した。
真田は助けを求める青白いゲールノートを感情が一切無い冷淡な目で見ていた。
「嘘を吐かなければ、このようにはならなかったものを。愚か者め」
真田は吐き捨てるかのように呟くと、ここにはもう用は無いと部屋から出て行った。
真田がドアを閉めると同時にゲールノートは2度と動く事は無くなった。
それから数日後。
カンッ!! カンッ!!と、金属同士がぶつかり合う高音がオリエンス教会内に山彦のように鳴り響いていた。真田がクリューベに約束したように椅子の製作をしていたのだ。
真田は木工所に残りの木材を取りに行き、オリエンス教会で信者や拝観者が座る椅子を子供達と協力しながら製作していた。協力といっても、金物屋でかった丸釘を取って貰ったり、釘を打ち込む際に木材を支えたりして貰っているぐらいだ。
男達に壊された事により椅子の数は少数へと減っていたが、真田が作っている事によりその数は男達が来る前に戻りつつあった。
椅子も教会内に置くものは終わり、後は予備用を作るだけとなった。
作業も一段落ついた事で、真田が強張った背筋を伸ばそうと背伸びをしていると。
「お疲れ様です、サナダさん。お湯を飲まれて、一息ついて下さい」
そう木のお盆に乗せた木のコップを差し出したのは、オリエンス教会所属のシスターであるクリューベだった。
何時ものように顔以外の露出が一切無い黒の修道服を着ていた。
「ありがとうございます、シスター。ご厚意に甘えさせていただきます」
真田はシスターから受け取ると、熱さで下を火傷しないように少しずつ飲み、冷えた身体を温めていた。手伝っていた子供達も自分の分を貰うと、真田と同じように飲んでいた。
「はぁー。やはりこういう寒い日には温かい飲み物が一番ですね」
完全に緩み切った顔をしている真田を、クリューベは微笑ましそうに見ていた。
真田達の間に心地よい静寂が流れていた。
ふとクリューベが何か思い出したのか、徐に口を開いた。
「サナダさん、風の噂ですがアリング商会が潰れたって聞きましたか」
「いや、初耳ですが」
「数日前、何時になっても帰って来ない事を不審に思った屋敷の人が、見に行くと机の上に倒れている主発見したのですよ。直ぐにお医者さんに見せたらしいのですが、既に死んでいると言われたらしいです。でも屋敷の人は主は命にかかわるような持病は持っていなかったと言うのですよ」
「ふむふむ、それで」
「騎士の方達が遺体を調べたのですが、特に外傷と言う外傷が無かったので病死と判断されたらしいですよ」
「そうですか。人間っていつ死ぬか分かりませんから、危険な冒険者をしている私も気を付けないといけませんね」
軽口をたたく真田をクリューベは怪訝な目で見ていた。
「サナダさん、この噂に関わっているのではないのですか。‥‥‥死亡した時間帯に黒い髪の少年が接触していたとの噂話がありますが」
当事者である真田は何も言わず、ちびちびとお湯を飲んでいた。
疑わしそうに半目で見ていたクリューベは、ふと表情を和らげた。
「貴方が何も言わないのは、『そう』なのでしょうね」
真田は少し気まずそうにし、残りのお湯を一気に飲み干し残りの椅子を組み立てようとしたが。
「ウワッ、アチャァァァァあああああああああああああああああああああああ!!!」
胸が焼けるかのように痛みに耐え切れずに真田は奇声をあげながら、冷たい水を求めてドアを蹴破るかのように勢いよく開け、外の井戸に向かって行った。
クリューベと子供達は最初ポカンとしていたが、誰かがクスクスと忍び笑いしていったが、それが周囲に伝わって行くと次第に大きくなり、晴れやかな笑い声が教会を包み込んでいた。
主神ヒュペリーオンの巨大な石像はそれを優しく見守っていた。
タクト君が作中で使っていた自己満足という言葉。
他者に責任を持たせないようにする方便として使っているので、一見筋が通っているように見えますが、どことなく歪んでいるように聞こえるのは。言葉自体が歪んでいるのか、それとも使っているタクト君自身が歪んでいるのか、どちらなのでしょう。それは今後のタクト君の活躍次第ですかな。
それはさておき、更新が滞って申し訳ないです。遅筆の上に急な仕事と展開に迷いが生じて、遅くなってしまったのです。申し訳ないです。
今後は2週間に1回ペースで何とか更新していくつもりなので、クアットゥオル・シーズンを今後とも宜しくお願いします。
矛盾誤字脱字がありましたら、御指摘の方を宜しくお願いします。




