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魔術師になったなら  作者: 宇佐田
〈5〉
16/16

5-3


あの金髪のフィノさんがギルドの長で、黒髪のブレノさんが副長で、お師匠様が師長だと初めて知りました。ただし、お師匠様はギルドの依頼仕事は滅多に受けず、実質的には副師長が師長役を務めているみたいです。


それでお咎めなしだとか……お師匠様は何者なんでしょうか。


ああ、ほんとうに。


あの一幕のおかげで、魔術師は戦闘でぱっとしないという考えをキレイさっぱり改めさせられました。ぱっとしないのは、腕がないからなんですね。魔術師という職業のせいじゃありませんでした。


お師匠様ほどの腕というのは無茶な気もしますけど。



わたし、少しはぱっとする魔術師になれるよう、がんばります……!!






第一歩として、片づけを(さすがに)手伝っているうちに、なし崩しにまた迎え入れられたっぽいギルドへ顔を出してみることにしました。


火矢はなんか手を読まれるかもしれないから、次はお師匠様を見習って雷の鞭にしよう。あれに居合わせたおかげで、初速の高め方のコツが頭に入った気がする。今までよりさらにきっちりがっちり魔力を収束させてやれば相当な威力の向上が期待できる。



……よ、よし。



よし。



怖くない怖くない怖くない。



「リオ!」


「わあああああああああっ」



背中をたたかれた瞬間、飛び上がっていました。



「あれ、ごめ……?」



びっくりして混乱したような顔をしていたのは、ルナノでした。


いえ、こっちこそ、ごめんなさい……。




ぷっぷくすくすされながら、一緒にギルドに入りました。


うるさいよもう!



「だっておまえ、なに、背中が弱点なの?」


「誰だってそうでしょう」


「オレはあんな反応しないけど?」



なんてじゃれあいながら、一歩なかへ入った瞬間のことでした。



「――よォ」



低音の声で呼びかけられて。


ぐいっと。


襟首をとられて、引っ張りあげられました。喉が絞まってゲッとなります。足が。浮いて。首絞まる。おえっ。



ガチッ、と不穏な金属音。何人かが同時に武器に手をかけた音。万一にもすっぽ抜けないように留め具がしてあるから。



それで大体わかりました。大体っていうか、全容っていうか。



ガルフラウですね。



首根っこつかまれて持ち上げられてるから、後ろにいる犯人が誰なのかわたしにだけ見えないんです。



「話ぐれえさせろや」



つか、くび。くびぃ。首が絞まってる。話の前に息の根を止める気か。


じたばたしたら、遠心力がかかって余計に詰まりそう。早くおろせ早く。


気が遠くなるほどゆっくりと下ろされた途端、ゲッホゲホと盛大に噎せて咳が止まりません。しぬ、しぬかと、しぬかとおもった。



「……わりぃ」



ぼそりと呟くように謝られました。当然ながら返事をする気にはなれません。


もう、こわくてこわくてこわくてこわかった上に更にまた息を止められそうになって、頭がパンク寸前でした。たったあれだけの酸欠では考えられないくらい、ガンガン鳴り響く頭痛がしています。


しばらく経って、咳は落ち着いたけど、呼吸は駄目、どうしても浅いまま戻りません。



ああ、もう。わたしを奪って喰って殺すかもしれないケダモノを前にして、弱ったところを見せつけてどうする。おちつけおちつけ落ち着け。落ち着け。落ち着くんだよ。


魔術――いざとなったら、魔術だ。


そのための制御と抑制を持ち込んだら、すうっと身体のおこりが治まっていきました。



よし。



いよいよご対面だ。わたしを襲った挙句、腕一本を失くしたっていう大馬鹿モンに。


負けるな。怯むな。目をそむけるな。


野獣を征するなら――それ以上の気概をもて。



一歩、二歩、前に出て。くるっと振り返って。


背後にいた、大きな男に向き直って、まっすぐに見上げました。


デカイ。ほんとにやんなるくらいデカイ。巌の如き巨漢と手の届く距離で対峙しないといけないとは。まったく過酷な世界ですよ。



――うで。ああ、ほんとうに左が無いんだ。



二の腕の真中よりやや上くらいから、すっぱり斬り落とされてなくなっていました。


やっぱりちょっと気もち悪い。先端に包帯が巻いてあるのが生々しい。


ガルフラウは袖のない服を着て、その腕を隠すことなく晒していました。



「話って?」



素気なく尋ねます。冷静ぶってはいても、けっこう限界ぎりぎりです。


さっきからもう、周りの様子を慮る余裕も無い。


きっと好奇の目で見られているんでしょうね。武器を取ろうとしてくれたひとがいたってことは、少しは心配されているのか、単に厄介な揉め事と見られているのか。


気にはなるけど、いまこの赤銅色の眼から視線をはずしたら、一瞬で急所をつかれて殺されるかもしれないので。というか、視てれば防げるっていう気はまったくしないのですが、それでも目が逸らせません。


恐怖の対象から目を逸らすには、それはそれなりの勇気が必要で。



ガルフラウには平気だったようです。すっと視線を外されました。



そして、いきなりガツンッとけっこういい音をさせて、わたしの足下の床に片膝を突きました。


……あれ。これ、最近見た……。


大きな挙動にびっくりして後ろに退りそうになったのをどうにか堪えて立ち続けていましたが、何だか途方もなく嫌な予感がして、やっぱり逃げようかと後退りしかけた時。


ガルフラウが腰に帯びていた短剣を引き抜いて、その柄をわたしに差し出してきました。



しまった。



目を伏せ、頭を下げ、恭順の意を表して。視線を逸らしたのはこれのためか。避ける間もなく鳩尾辺りに短剣の柄が突きつけられて。



「リオ。――オレはお前に謝罪する」



その硬い感触はまるで刃を押し当てられたように、つめたく、喰い込んで。



「殺せ。お前にはその権利がある。殺したければ殺していい」



ああ。ああ、ああ、……ああ、あああ、あああああ!!



もの凄く馬鹿にされたみたいで喚き散らしたい気分です。



殺せってか!


やっちまってから殺せってか!!


やらずに治めて殺されずに済む方法かんがえろやあああああ!!



短剣は受け取ってやりましたが、即放棄しました。思いっきり床に叩きつけてやりました。壊れろ。砕け散れ。……まぁわたしの腕力では無理ですね。


ヤツは驚いて初めて見るような無防備な表情で固まっていました。


襟をとります。拳を叩きつけるようにしたら、手が痛かったです。



「――おまえらの自己満足につきあってられるかあああああッ!!」



ゲフッ。


さっき吊り上げられて咳き込んだせいで喉が傷んでいたようです。


こちとら声を操るのが本領の魔術師だというのに、怒鳴り終わった途端にゲホゲホと噎せてきて、アホの襟なんぞつかんでる場合ではなくなりました。



ぜふぜふ噎せて苦しんでたら、ルナノが背中をさすってくれました。居たのか。逃げずに居てくれたんですね。



「り……リオ、大丈夫か?」


「……帰る」


「あ、……うん。気をつけて」



ルナノに送り出されて、そのまま家に帰りました。


みんなにどんな目で見られてたかとか何とかかんとかもういいです。


ケダモノは自力で撃退したんだから、わたしのことは放っといてほしいです。






よく考えたら、「ら」はまずかったですね。「おまえら」は。






ガルフラウに啖呵を切った(ことになるのか)話はあっという間に広まったようでした。たぶん。少なくともギルド内では。


おかげで「コイツあんま気ィ遣わなくてもいんじゃね?」と思ってくれたひともいたようで、以前よりは一緒に仕事をしようと声をかけてもらえるようになりました。



が、順風満帆とは曰く言い難く。



相対的にマシになったからって、全面的によくなったわけではなくて。


結局わたしの存在はイロモノです。


あいもかわらずのパンダです。



とはいえ、これが第一歩となるのかも知れません。



最強魔力を使いこなせる魔術師になるための長い長い道のりの。










ここで一旦、終了です。


続きは別途。(予定は未定)

たぶん、年齢制限があがります。

まぁ、要するにエ○。くなります。よ。っと。

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