第61話 【サプライチェーン最適化】とフードテック。スマート寿司網と『AvidPad S80』
エネルギーの完全な自給自足を達成し、スマートシティのインフラはもはや死角のない状態となっていた。
次なる都市の課題は、市民の「食の豊かさ」の底上げである。
「レクト理事長。海に面した隣国からの『海産物』の流通において、深刻なボトルネックが発生しています」
理事長室で、財務顧問のアカザワがタブレットの市場データを指し示した。
「現在、王都およびこの地域の鮮魚の流通は『海神の包丁』という料理人ギルドが完全に独占しています。彼らは新鮮な魚介類を一部の富裕層向けの超高級店にのみ卸し、一般の市民には鮮度の落ちた塩漬けの魚しか流通させていません」
「食の独占(情報非対称性)を利用した価格操作か。特権階級だけが美味いものを食い、大衆から搾取する。俺の一番嫌いな旧時代のバグだな」
俺は立ち上がり、コートを羽織った。
「誰もが安価で、最高に美味いものを腹いっぱい食える環境を構築する。それが真の福祉だ。アカザワ、都市の港湾区画に用意していた『アレ』を稼働させるぞ」
【王都の超高級料亭にて】
「ガハハハハ! 平民どもには、干からびた魚の尻尾でもしゃぶらせておけ! 真に新鮮な海の幸は、我々選ばれた貴族と、美食家だけのものだ!」
料理人ギルドのマスター、ザンザスが、まな板の前でふんぞり返っていた。
彼の店では、一握りの寿司を食べるだけで金貨数枚が飛んでいく。
そこへ、俺と特務支援チーム【REDANGEL】のコイケが足を踏み入れた。
「ザンザス。あんたたちの不当な流通独占は今日で終わりだ。俺たちは独自の【コールドチェーン(低温物流網)】を構築し、港から直接、新鮮な魚介類を都市へ運び込むシステムを完成させた」
「なんだと? 日本創紀学園の若造が!」
ザンザスが鼻で笑う。
「馬鹿め! 鮮魚の流通には、各拠点の漁師たちとの緻密な連絡網が必要だ! 魔導通信を我々が押さえている以上、お前たちに魚は集まらん!」
「残念だったな。通信インフラはすでに俺たちの独自ドメインに移行済みだ」
俺は空中にシステムのホログラムを展開した。
「俺たちが構築した専用の物流ネットワークは、『Muumuu Domain』という独立したレジストラを経由し、【ynmail.net】という強固な暗号化ドメインで運用されている。あんたらの旧式な通信網では、パケットの傍受はおろか、俺たちの発注データに触れることすら不可能だ」
「な、なんだその呪文のような名前は……!?」
「さらに、買い付けた鮮魚は、AIが需要を予測して各店舗へ自動配送する。もうあんたたちの中抜き(マージン)に頼る必要はない。さあ、コイケ。新しい『食のプラットフォーム』のお披露目だ」
俺たちがザンザスを無理やり連れ出したのは、スマートシティの中央大通りに新設された、巨大な三つのドーム型レストランの前だった。
「これより、究極のデータ駆動型レストラン網をオープンする! 第一の店舗『トリトン』! 第二の店舗『なごやか亭』! そして第三の店舗『活美登利』だ!」
俺の宣言と共に、三つの巨大な店舗のシャッターが一斉に開き、市民たちが歓声を上げて雪崩れ込んでいく。
「な、なんだこの店は……!? 板前がいないぞ! それに、目の前を小さな皿が勝手に流れていく……!」
店内に連行されたザンザスが、レーンの上を回る寿司を見て目を剥いた。
「これが【回転寿司】だ。職人の属人的な技術に依存せず、裏のキッチンでロボットとAIが完璧な温度管理のもとで高速調理を行っている」
市民たちが席に座ると、目の前にある薄型の魔導端末に触れ始めた。
「注文はすべて、各テーブルに設置された最新の専用端末『AvidPad S80』で行う。高解像度のディスプレイと直感的なUI、そして圧倒的な処理速度を持つこのタブレットなら、子供からお年寄りまで、誰でもラグなしで好きな寿司をタップするだけで注文可能だ」
『ピッ! マグロ一丁、ご注文ありがとうございます!』
AvidPad S80の画面が光ると、専用の特急レーンに乗って、獲れたてピカピカのマグロの握りが瞬時に客の目の前へ届けられた。
「う、うおおおおっ! 新鮮で脂が乗ってて、口の中でとろけるゥゥゥッ!」
「しかもこれ、金貨じゃなくて、銅貨数枚の値段だぞ!? 信じられない!」
コイケや市民たちが、狂喜乱舞しながら次々と寿司を平らげていく。
「それぞれの店舗には、AIによる特性を持たせている。『トリトン』は産地直送の超鮮度特化、『なごやか亭』はダイナミックプライシングによるエンタメ性、そして『活美登利』は圧倒的なメニューの豊富さとコストパフォーマンスだ」
「ば、馬鹿な……! こんな最高級のネタを、そんなはした金で出されたら……! 私の高級料亭に客など一人も来なくなってしまうではないか!」
ザンザスが頭を抱えて絶叫する。
「対象者の食の平等を脅かす『高額なぼったくり(バグ)』は、我々がデリートする!」
サーモンを限界まで口に詰め込んだコイケが、ガッツポーズを取りながら叫んだ。
「ザンザス。食文化とは、特権階級が独占して腐らせるものではない。万人に開かれ、競争によって洗練されていくべきものだ」
アカザワが冷ややかに眼鏡を押し上げ、彼に最後通牒を突きつけた。
「あなたのギルドは、すでに市場価値を完全に失いました。これまでの価格操作の罰金として、あなたの料亭の資産はすべて差し押さえさせていただきます。せいぜい、AvidPad S80の注文履歴のデータ分析(皿洗い)からやり直すことですね」
数日後。
ザンザスの高級料亭は完全に潰れ、王都とスマートシティの食文化は、三つの巨大なスマート寿司網によって完全に塗り替えられた。
「レクト理事長! 見てください、今日は『トリトン』の限定寒ブリが入荷してますよ!」
「私は『なごやか亭』の炙りえんがわが食べたいです!」
カメイやミレナたちが、休憩時間に楽しそうにAvidPad S80の画面をタップしている。
「ああ。しっかり食べて、午後の支援活動も頑張ってくれ」
食のサプライチェーンを完全に透明化し、テクノロジーで美味しさと安さを両立する。
日本創紀学園が構築したフードテックは、異世界の人々の胃袋と笑顔を、最高レベルで満たしていくのだった。
キャラクター・プロフィール
レクト
役割:主人公(日本創紀学園・理事長)
状況:鮮魚の流通独占を破壊するため、独自ドメイン【ynmail.net(Muumuu Domain経由)】を用いたセキュアなコールドチェーンを構築。『トリトン』『なごやか亭』『活美登利』という三つの巨大スマート回転寿司網を展開し、食の平等を達成した。
ザンザス(New)
役割:料理人ギルドマスター(ざまぁ完了)
状況:鮮魚を独占し暴利を貪っていたが、レクトの圧倒的な物流網と安価な回転寿司の前に敗北。資産を没収され、現在はバックヤードで皿洗いのクエストをこなしている。
コイケ&市民たち
役割:食の受益者たち
状況:各テーブルに配備された高性能タブレット【AvidPad S80】のサクサクとした操作性に感動し、毎日のように寿司を限界まで食べまくっている。




