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第50話 【IoTスマートホーム】と自立支援。強欲な親族と『究極の居宅介護』

学園を中心とした完全環境都市スマートシティの行政と物流、そしてセキュリティが完璧に整備されたことで、近隣の都市や国からも「質の高い福祉」を求めて多くの人々が訪れるようになっていた。

ある日の午後。理事長室で俺が淹れたてのコーヒーを飲んでいると、特務支援チーム【REDANGEL】のリーダー、コイケが渋い顔で報告にやってきた。

「レクト理事長。少し厄介な相談案件ケースが入りました。都市の郊外に住む、伝説の老魔導士・ヴォルカン殿の件です」

「ヴォルカンといえば、かつて魔王軍の幹部を単独で退けたという英雄だな。彼がどうしたんだ?」

「御年八十を越え、最近は視力と足腰が極端に衰えてしまい、日常生活に支障が出ているのです。しかし彼は非常にプライドが高く、『他人の世話にはならん!』と、治癒士の訪問すら拒絶して屋敷に引きこもってしまって……」

コイケがタブレットの資料をめくる。

「さらに問題なのが、彼の甥である貴族のバリスです。バリスは『一人暮らしは危険だから、私が経営する養護施設に入れて手厚く介護する』と言って、半ば強引にヴォルカン殿を屋敷から追い出そうとしています」

「手厚い介護ねえ」

俺は横に立つ財務顧問のアカザワに視線を向けた。

「……バリスの経営する施設、というのは名ばかりです」

アカザワが冷徹に眼鏡を光らせる。

「私の調査によれば、実態はただの『姥捨て山』。劣悪な環境に高齢者を押し込め、彼らの年金と財産を吸い上げる悪徳ビジネス(貧困ビジネス)です。バリスの真の狙いは、ヴォルカン殿の広大な屋敷と隠し財産でしょう」

「なるほどな。対象者の尊厳を踏みにじり、財産を奪うための『強制収容』か」

俺は立ち上がり、コートを羽織った。

「福祉の基本は『自己決定の尊重』だ。本人が住み慣れた家で最期まで暮らしたいと願うなら、それを可能にする環境インフラを構築するのが俺たちの【伴走支援】だ。コイケ、現場に向かうぞ」

【郊外・ヴォルカンの屋敷にて】

「帰れ! ワシはまだ一人で生きていける! 誰の哀れみも受けんぞ!」

薄暗い屋敷の中で、杖をついた白髭の老人――ヴォルカンが、怒鳴り声を上げていた。

視力が落ちているため、部屋の中は散らかり放題で、彼自身も何度か転倒したのか服が汚れていた。

その目の前で、嫌味な笑いを浮かべる甥のバリスが、屈強な私兵たちを連れて立っていた。

「お爺様、意地を張らないでくださいよ。こんなゴミ屋敷で一人で死なれたら、一族の恥です。さあ、私の用意した『素晴らしい施設』へご案内しますよ。この屋敷の権利書は、私がしっかり管理しておきますから」

「ふざけるな……! ワシから思い出の家まで奪う気か!」

バリスが私兵に顎でしゃくり、無理やりヴォルカンを連れ出そうとした、その瞬間。

「対象者の尊厳ある生活を脅かす強制排除バグは、我々がデリートする!」

真紅のコートを纏ったコイケたちが窓から突入し、私兵たちを一瞬で床に組み伏せた。

「な、なんだお前たちは! 私は正当な親族の権利として、この老人を保護しようとしているのだぞ!」

喚くバリスを無視し、俺はヴォルカンの前に歩み寄った。

「伝説の魔導士殿。俺は日本創紀学園のレクトだ。あんたの『この家で一人で暮らしたい』という願い、俺のシステムで叶えてやる」

「システム……? 小僧、ワシは介護など受けんと言っているのだ! 見知らぬ他人に下の世話までされるくらいなら、舌を噛んで死ぬ!」

「心配するな。他人の手は一切借りない【究極の居宅介護】をインストールしてやる」

俺は空中にシステム画面を展開し、屋敷全体をターゲットに指定してエンターキーを叩いた。

【Execute:IoT_Smart_Home_Compiler(全自動・環境適応型スマートホームの構築)】

ピィンッ!

屋敷全体が眩い光に包まれた。

足の踏み場もなかった床のゴミは、どこからともなく現れた円盤型の『自動お掃除ゴーレム(魔導ルンバ)』によって一瞬で片付けられ、ピカピカに磨き上げられる。

さらに、薄暗かった部屋には、声に反応して最適な明るさで灯る【スマート照明】が設置された。

「な、なんじゃこりゃあ!?」

「ヴォルカン殿、試しに『システム、お茶を淹れてくれ』と言ってみてくれ」

「し、しすてむ? お茶を淹れてくれ?」

『承知いたしました、マスター・ヴォルカン』

壁に設置されたAIスピーカーが心地よい声で返答すると同時に、キッチンの【スマート魔導ケトル】が自動で湯を沸かし、適温のハーブティーがトレイに乗って、自走式カートで彼の目の前まで運ばれてきた。

「おおおっ……! ワシが動かずとも、声だけで部屋が応えてくれるのか!」

「視力が弱っていても問題ない。このAIは、今日の天気から新聞の朗読、さらには『お薬の時間です』という服薬アラートまで、すべて音声でサポート(伴走)してくれる。転倒を検知すれば、自動で【REDANGEL】の医療チームにSOSが飛ぶ仕様だ」

これこそが、IoT機器とAIを駆使した【スマートホーム】。

他人の哀れみも、過剰な干渉も必要ない。システムが本人の残された能力を最大限に引き出し、自立した生活を完璧に支えるのだ。

「ば、馬鹿な! こんな魔法陣、聞いたこともないぞ! だが、そんなものは誤魔化しだ! この老いぼれは私が施設へ連れて行く!」

焦ったバリスが、懐から短剣を取り出してヴォルカンに掴みかかろうとした。

『Alert:不審者の攻撃的行動ハザードを検知。防衛システム(セコム)を起動します』

AIの無機質な音声と共に、屋敷の天井から無数の『魔力スタンガン』が展開され、バリスとその私兵たちに容赦ない電撃パラライズが降り注いだ。

「ぎゃああああぁぁっ!?」

黒焦げになって倒れ伏すバリスたち。

「……あー、言い忘れたが、最新のホームセキュリティも完備している」

俺が苦笑すると、ヴォルカンは呆然とした後、腹の底から大声で笑い出した。

「わははははっ! なんという愉快な家だ! これならワシ一人でも、魔王軍が来ようが親族の横槍が入ろうが、安心して暮らしていけるわい!」

老人の目からは、長年の不安から解放された大粒の涙が溢れていた。

「レクトとやら……感謝する。お前はワシの命だけでなく、魔導士としての誇りまで守ってくれた」

「礼には及ばない。それが俺たちの仕事だからな」

その後、バリスは貧困ビジネスの詐欺と高齢者虐待の罪で衛兵に引き渡され、彼の全財産は被害者たちの救済に充てられることになった。

「レクト理事長。これでまた一人、対象者の笑顔と尊厳を守れましたね」

すっかり綺麗になった屋敷の庭で、コイケが誇らしげに微笑む。

「ああ。真の福祉とは、ただ施設に押し込めることじゃない。どんな状態になっても、その人が『自分らしく生きられる環境』をデザインすることだ」

俺たちは、自動お掃除ゴーレムをペットのように可愛がり始めた伝説の魔導士に別れを告げ、夕焼けに染まるスマートシティへと帰路についた。

テクノロジーが人間の尊厳を護り、心を自由にする。

日本創紀学園が描く未来は、年齢や障害という壁すらも優しく溶かしていくのだった。

キャラクター・プロフィール

レクト

役割:主人公(日本創紀学園・理事長)

状況:強引に施設へ入れられそうになっていた老魔導士を救うため、屋敷を【IoTスマートホーム】へと劇的ビフォーアフター。音声AIや自動化家電を駆使し、他人の手を借りない「究極の自立支援」を実現した。

ヴォルカン(New)

役割:伝説の老魔導士(支援対象者)

状況:老いと孤独から心を閉ざしていたが、レクトのスマートホームによって快適な一人暮らしを取り戻す。現在はAIスピーカーと会話しながら、お掃除ゴーレムを「ポチ」と名付けて溺愛している。

バリス(New)

役割:強欲な甥(ざまぁ完了)

状況:悪徳介護施設を隠れ蓑にした貧困ビジネスの元締め。ヴォルカンの財産を狙ったが、スマートホームの防衛システムに黒焦げにされ、アカザワの告発によって全財産を没収された。

コイケ(REDANGEL)

役割:特務支援チーム・リーダー

状況:本人の「家で暮らしたい」という自己決定権を尊重するレクトの支援方針に深く共鳴。悪徳親族を物理的に排除し、見事な居宅介護のサポートを完了させた。

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