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第48話 【ゼロトラスト・アーキテクチャ】と呪術ハッカー。都市を護る『絶対認証』

デジタルツインによる完璧な災害予測で、未曾有の超大型台風すらも無傷でやり過ごしたスマートシティ。

物理的な脅威に対する『絶対防御』が証明されたことで、学園都市の評価はもはや大陸全土で揺るぎないものとなっていた。

しかし、物理的な壁がどれほど高くとも、それをすり抜けようとする悪意は常に存在する。

【帝国の暗部・呪術結社にて】

「ククク……。物理的な城壁がどれほど頑丈だろうと、内部に潜り込んでしまえばこっちのものだ」

薄暗い部屋で、不気味な水晶玉を撫でながら邪悪な笑みを浮かべているのは、帝国最高の暗殺者にして『呪術ハッカー』の異名を持つ男、ゾルタンだった。

「私の誇る【認識偽装の呪い(スプーフィング)】は完璧だ。対象の魔力波長、外見、声帯すらも完全にコピーする。これを使って学園の幹部に化け、あの都市の暗号資産エールコインの金庫を空っぽにしてやる」

ゾルタンは、事前に採取しておいた学園の財務顧問・アカザワの髪の毛を水晶玉に落とし、呪文を詠唱した。

たちまち彼の姿は、分厚い眼鏡をかけたアカザワそのものへと変貌した。

「完璧だ。さあ、学園のシステムに【トロイの木馬】を仕掛けに行こうか」

【翌日・スマートシティの中央管理棟にて】

偽アカザワ(ゾルタン)は、堂々とした足取りで管理棟のゲートを潜り抜けた。

彼の認識偽装は完璧であり、すれ違う警備兵やシステムアシスタントのミレナも、彼を「本物のアカザワ先生」として疑わずに挨拶をしていく。

(チョロいものだ。誰も私が偽物だと気づいていない。このまま中央端末にアクセスし、全財産を帝国の口座に送金してやる!)

ゾルタンは誰もいない端末室に入り込み、コンソールに手を触れた。

「さあ、システムの奥深くまでアクセスさせてもらうぞ。実行エンター!」

彼が送金用の呪術プログラムを走らせようとした、その瞬間だった。

『Access_Denied(アクセス拒否)』

画面が真っ赤に染まり、けたたましいエラー音が鳴り響いた。

「な、なんだと!? なぜだ! 私の姿も魔力波長も、完璧にアカザワという権限者のものをコピーしているはずだぞ!」

「外見や魔力波長パスワードを一つコピーしたくらいで、俺のシステムを突破できると思ったのか?」

背後の扉が開き、コーヒーカップを持った俺と、大剣を担いだ元帝国将軍のレオンティーナが立っていた。

「き、貴様はレクト理事長……! なぜ私が偽物だと分かった! 門の警備も、すれ違った者たちも全員騙せていたはずだ!」

人間アナログは騙せても、システムは騙されない。俺がこの都市に導入しているのは、【ゼロトラスト・アーキテクチャ(何も信頼しない境界防御)】という最新のセキュリティ概念だからだ」

俺は空中に、ゾルタンのアクセスログを投影した。

「昔の城壁ファイアウォールは、『門番を騙して中に入りさえすれば、あとは誰でも信用される』というザルな仕組みだった。だが、俺のシステムは『たとえ内部の人間だろうと、一切信用しない(ゼロトラスト)』ことを前提にしている」

「信用、しない……?」

「ああ。システムにアクセスするたびに、位置情報、操作の癖、端末の認証キー、さらには心拍数の微細な変化など、あらゆる情報をAIがリアルタイムで【多要素認証(MFA)】しているんだ」

俺はゾルタンを指差した。

「お前は姿こそアカザワだが、タイピングの速度が彼より0.2秒遅かった。さらに、普段彼がアクセスしない『午前10時の端末室』というコンテキスト(状況)のズレ。これら無数の違和感アノマリーをAIが検知し、お前のアクセス権限を即座に凍結した」

「ば、馬鹿な……! たったそれだけの違いで……!」

「しかも、お前が今触っているその端末、本物のシステムに繋がっていると思うか?」

俺が指を鳴らすと、周囲の景色がぐにゃりと歪み、端末室だと思っていた場所が、ただの殺風景な「強化ガラス張りの独房」へと変化した。

「なっ!? 幻覚魔法だと!?」

「IT用語で【ハニーポット(囮のサーバー)】と呼ぶ。不正アクセスを検知した瞬間、お前を本物のシステムから切り離し、仮想の『箱庭サンドボックス』へと隔離ルーティングしたんだ」

ゾルタンは完全に自分の敗北を悟った。

帝国が誇る最強の呪術ハッカーは、目的のデータの欠片にすら触れることなく、ただの囮の部屋で一人踊らされていたのだ。

「レオンティーナ、こいつは帝国の手先だ。お前の古巣の後輩だな」

「ええ、呪術結社のゾルタンですね。全く、帝国の連中はまだこんな古臭い手を使っているのですか」

レオンティーナが呆れたようにため息をつき、大剣の腹でゾルタンを軽く小突いて床に転がした。

「対象者の資産と平穏を脅かす不正アクセス(マルウェア)は、物理的に【隔離アイソレーション】完了です!」

「よくやった。後は彼に、情報リテラシーの基礎からみっちり研修コンサルを受けさせよう」

ゾルタンが連行されていくのを見送りながら、俺は本物のアカザワ(彼は別室でVRフィットネスを楽しんでいた)に連絡を入れ、異常がなかったことを確認した。

「どんなに外壁を固めても、真の安全は内部の『信頼性の検証』から生まれる」

スマートシティの市民たちは、自分たちの都市が今、サイバー攻撃を受けていたことすら気づいていない。彼らは今日も平和に笑い合い、美味しいご飯を食べ、仕事や趣味に没頭している。

「脅威を感じさせることなく、裏側バックグラウンドで完璧に対象者を守り抜く。これこそが最高のセキュリティだ」

俺は、青空の下で活気に満ちた都市を見下ろしながら、冷えたコーヒーを飲み干した。

日本創紀学園の防壁は、物理と情報、二つの最強の盾によって、永遠の平和を約束されたのだった。

キャラクター・プロフィール

レクト

役割:主人公(日本創紀学園・理事長)

状況:都市の防衛システムに【ゼロトラスト・アーキテクチャ】と【多要素認証】を実装。内部犯行やなりすましをAIの振る舞い検知で一瞬で見破り、囮のサーバー(ハニーポット)に隔離して安全に無力化した。

ゾルタン(New)

役割:帝国の呪術ハッカー(ざまぁ完了)

状況:認識偽装の呪いでアカザワに成り済まし、都市の資産を奪おうとしたが、タイピングの癖や行動パターンの違いをAIに見破られ秒殺された。現在は独房でパスワード管理の基礎を学ばされている。

レオンティーナ

役割:特務チーム研修生

状況:古巣である帝国の刺客を呆れ顔で捕縛。最近は物理的な戦闘だけでなく、レクトのセキュリティ概念(IT用語)もすっかり使いこなすようになっている。

アカザワ

役割:財務顧問

状況:自分の姿が偽装されていたことなど露知らず、VRフィットネスで気持ちよく汗を流していた。ゼロトラスト環境のおかげで、彼自身の信用が傷つくことは一切なかった。

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