第14話 【転移ゲート】と第一期生の入学。そして、おっさん職人の覚醒
王都の広場での騒動から数日後。
厳しい【魔法の入力フォーム】の審査をクリアした第一期生の合格者たちが、続々と王都に設置された【転移ゲート】をくぐっていた。
45歳の魔導具職人、ガンツもその一人だ。
光のトンネルを抜けた彼が恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「ここは……本当に、あの恐ろしい【死の魔境】なのか……?」
見渡す限りの青空と、澄み切ったマナが満ちる空気。
そして目の前には、王城すら凌駕する白亜の巨大なキャンパスがそびえ立っている。
「す、すごい……! 床の素材一つとっても、どうやって作られているのかまったくわからん……!」
職人であるガンツは、校舎の異常なまでの建築技術に圧倒され、震えが止まらなかった。
「ようこそ、【創紀学園】へ」
そこへ、ゆったりとした足取りで歩み寄ってくる一人の青年がいた。
俺だ。
「俺がこの学園の理事長を務める、レクトだ。年齢も身分も関係ない、ここでは全員が対等な【伴走者】だ」
「あ、あなたが……! も、申し訳ありません、私のような老いぼれが、このような神聖な学園に……」
ガンツが慌てて平伏しようとするので、俺は彼を制止した。
「いや、ガンツさん。俺はあなたのような人材をこそ、一番求めていたんだ」
「私、ですか……? しかし、私は地味な生活用魔導具しか作れない、王都でも落ちこぼれの職人ですが……」
ガンツが自嘲気味に笑う。
俺はシステム画面から彼が入力したデータを空中に投影した。
「『部屋のゴミを自動で集める魔導具』や『室温を一定に保つ魔石回路』……これ、地球で言うところのお掃除ロボットとエアコンじゃないか」
「ち、ちきゅう……? えあこん……?」
「こっちの話だ。ガンツさん、その魔導具の試作品、今持ってるか?」
俺が尋ねると、ガンツは鞄の中からソフトボール大の金属の球体を取り出した。
「これが、室温を保つ魔導具です。ですが、魔力の消費が激しすぎて、実用化には至っておらず……」
俺はその球体を受け取り、視界に【ソースコード】を展開した。
【Target:Temperature_Control_Device】
【Error:Mana_Leakage_Rate 80% / Code_Structure:Inefficient】
「なるほど、熱変換のコードが無駄だらけで、魔力が漏れ出してるのか。ちょっと【最適化】するぞ」
俺は空中で指を弾き、コードを一気に書き換えた。
【Action:Optimize_Code(最適化)】
【Add_Function:Eco_Mode & Auto_Sensor】
「実行」
ピィンッ。
金属の球体が淡い青色の光を放ち、空中にふわりと浮かび上がった。
直後、ガンツの周囲の空気だけが、まるで高原の風のように涼しく、快適な温度に固定された。
「なっ……!? ま、魔力消費がほぼゼロに!? それに、対象者の体温を自動で感知して温度を調整しているだと……!?」
ガンツが目玉が飛び出そうなほど驚愕し、球体を凝視する。
「回路の組み方を少し【翻訳】して整えただけだ。ガンツさんの発想と基本設計があったからこそできたんだよ」
「……っ!」
ガンツの目から、再び大粒の涙が溢れ出した。
「私の……私の人生をかけた研究は、無駄ではなかったのですね……!」
「当たり前だろ。攻撃魔法なんて、兵器にしかならない。人々の生活を豊かにする技術こそが、これからの時代を創るんだ」
俺の言葉に、ガンツは深々と、祈るように頭を下げた。
「レクト理事長……! このガンツ、命に代えてもあなた様の期待に応える魔導具を開発してみせます!」
こうして、王国中から集まった「異端だが優秀な才能」たちが、俺のチート設備と技術指導によって、次々と覚醒していくことになった。
学園の滑り出しは、極めて順調だった。
【一方その頃】
隣国の巨大国家、ガルディア帝国の宮廷会議室。
「……何だと? 我が国の優秀な密偵が、王都の広場で捕縛されただと!?」
帝国の情報大臣が、報告書を叩きつけて怒鳴り声を上げた。
「は、はい……。王国が突如として設立した【創紀学園】なるものの審査において、一瞬でスパイであることを見破られたらしく……」
「馬鹿な! 我が帝国の隠蔽魔法は完璧なはずだ! ただの石板の魔導具に見破られるなどあり得ん!」
大臣はギリッと歯を噛み鳴らした。
帝国はこれまで、圧倒的な資金力で王国の優秀な人材を引き抜き、王国を内側から崩壊させる計画を進めていた。
だが、その【創紀学園】の登場により、引き抜き工作が完全にストップしてしまったのだ。
「しかもその学園は、あの【死の魔境】の奥深くにあるというではありませんか。手出しができません」
部下の言葉に、大臣は冷酷な笑みを浮かべた。
「ふん……ならば、力ずくでその学園ごと叩き潰すまでだ」
「大臣、まさか……」
「ああ。我が帝国の誇る最強の暗殺部隊【黒き刃】を魔境へ向かわせろ」
大臣の目に、傲慢な光が宿る。
「年齢不問のふざけた学園など、我が帝国の力の前では砂上の楼閣に過ぎん。理事長ごと皆殺しにして、王国の希望を完全に絶ち切ってやれ!」
彼らはまだ知らない。
その学園を統べる理事長が、一万の魔物の大群をワンクリックで削除し、神の結界を張る【絶対的なバグ存在】であるということを。
帝国の愚かな決断が、彼ら自身の破滅へのカウントダウンを早めた瞬間だった。
【キャラクター・プロフィール】
【レクト】
役割:主人公(創紀学園・理事長)
状況:新入生たちを迎え入れ、彼らの技術を【バグ】で最適化・アップデートしていく。人々の生活を豊かにする技術を高く評価し、生徒たちから圧倒的なカリスマとして崇拝され始める。
【ガンツ】
役割:第一期生(魔導具開発科)
年齢:45歳
状況:自分の研究がレクトによって完成させられ、実用化されたことに号泣。レクトを「技術の神」として崇め、学園の開発部門のリーダー的な存在へと成長していく。
【帝国情報大臣】(New)
役割:新たな敵対勢力(ざまぁ対象)
状況:人材引き抜き計画をレクトに潰され激怒。最強の暗殺部隊を魔境に送り込み、学園を武力で制圧しようと目論む。自身の戦力がレクトの【ファイアウォール】の前ではゴミ同然であることに、まったく気づいていない。




