第1話 役立たずの【翻訳家】、最果ての魔境に捨てられる
「お前のような役立たずは、もう俺のパーティーにはいらない」
石造りの荘厳な神殿の奥深くで、勇者ザイードの冷酷な声が響き渡った。
俺、レクトはため息を一つ吐き、足元の石畳を見つめる。
「……理由を聞かせてもらってもいいか?」
「決まっているだろう、お前のその無能な職業【翻訳家】のせいだ」
ザイードは嘲笑を浮かべながら、俺を指差した。
「魔物の言葉を翻訳したところで、攻撃力はゼロだ」
「俺たち最強の勇者パーティーに、戦えないゴミを養う余裕はない」
周囲のパーティーメンバーたちも、冷ややかな視線を俺に向けている。
誰も俺を庇おうとはしない。
「わかった。なら、俺はここで抜けさせてもらう」
荷物をまとめようと背を向けた瞬間、背中に強烈な衝撃が走った。
「ぐっ……!」
ザイードが俺の背中を全力で蹴り飛ばしたのだ。
俺の体は宙を舞い、神殿の奥にある【奈落のゲート】へと吸い込まれていく。
「ひはははっ! 大人しく最果ての魔境で魔物の餌にでもなるんだな!」
ゲートが閉じる直前、ザイードの醜い高笑いが聞こえた。
気がつくと、俺は見渡す限りの荒野に放り出されていた。
空は赤黒く濁り、空気には濃密な瘴気が漂っている。
ここが、一度入ったら二度と生きては出られないとされる【死の魔境】。
「いきなり魔境送りか……いくらなんでもやりすぎだろ」
痛む体を起こしたその時、背後から凄まじい殺気が膨れ上がった。
振り返ると、そこには見上げるほど巨大な黒竜が立っていた。
Sランク指定の絶望、漆黒の魔竜デス・ドラゴンだ。
『グルルル……脆弱なニンゲンめ、我が贄となるが良い』
巨大な顎が開き、すべてを焼き尽くす【獄炎のブレス】が放たれようとした瞬間。
俺の脳内に、謎の文字列が滝のように流れ込んできた。
【Target: Death_Dragon / Action: Hellfire_Breath】
「……なんだこれ? 英語のソースコード……?」
俺の職業【翻訳家】が、世界のシステム言語を読み取ったのだと直感した。
「それなら、このコードを【翻訳】して書き換えれば……!」
俺は迫り来る炎を見据え、頭の中で文字列をいじった。
【Action: Hellfire_Breath】を【Action: Soap_Bubble】へ変更。
次の瞬間、黒竜の口から放たれたのは、恐ろしい地獄の業火ではなく。
ぽわんっ。
「……え?」
可愛らしいシャボン玉が一つ、ふわふわと宙を舞った。
『……ガ?』
黒竜自身も何が起きたのか理解できず、間抜けな声を漏らす。
「……これって、マジで何でもありの【バグ】スキルじゃないか?」
最弱職と呼ばれた俺が、世界の理を書き換える神の力に気づいた瞬間だった。
【キャラクター・プロフィール】
【レクト】
役割:主人公
職業:翻訳家(真の姿:システム・アーキテクト)
年齢:18歳
性格:事なかれ主義だが、やられたらやり返すリアリスト。世界のシステム言語を読み取り、自在に書き換える【バグ】の力に覚醒した。
【ザイード】
役割:勇者(レクトの元パーティーリーダー)
年齢:19歳
性格:傲慢で自己中心的。レクトの真の価値に気づかず、魔境へと突き落とした張本人。
【漆黒の魔竜デス・ドラゴン】
役割:魔境のモンスター
脅威度:Sランク
特徴:最果ての魔境に生息する最強クラスの竜。レクトのスキル書き換えにより、恐るべきブレスをシャボン玉に変えられてしまった。




