適応?
ガタン…ゴトン ガタン…ゴトン
揺れている…。
「先輩?…ユウキ先輩!!」
宇津木 心美
スマホから目を離し横に座っている後輩を見た。
「また、なろう小説読んでるんすか?」
スマホを覗いてくる。
「なんだ? 別にいいだろ」
「好きっすねーー。
そんなに異世界に行きたいんスカ」
コトミはスマホを見終わるとユウキの顔を覗き込んだ。
少しドキリとする
「子供っすね」
「うるせー!!」
「あいたっ…いたたっ、痛いっす!先輩!!」
ユウキはコトミの鼻をつまみ持ち上げた。
少ししてユウキは鼻を放す。
「例え子供っぽかろうが良いんだよ。
読んでる今が俺にとっての幸せだからな。
人生は山あり谷ありだ。
金がなくても、辛いことがあってもそんな中でも幸せを感じられる。
それなら例え馬鹿みたいに見える事だろうが子供っぽかろうがそれでいいんだよ」
幸せになったもん勝ち
勝ち組だ
「そっすね」
コトミはそう言いながら今イヤホンを外した。
「って聞いてないだろ!」
こいつ!! 絶対俺の話、聞いてなかった!
ちょっといい話っぽく言えたかなと思えたのに。
ユウキはもういいやと、またスマホの小説を読み始めた。
コトミはそんなユウキを見て、ぼそりと呟いた。
「私の幸せは、先輩といることっす」
「ん?…なんて?」
ユウキは小説に集中していた為聞こえなかった。
コトミはそれを見て笑って言う。
「なんにもっす!」
…
なんであいつの事を?
目覚めるとユウキは石畳の上に寝ていた。
「寒っ」
近くで寝ている茶トラ猫を寄せて暖を取る。
ユウキは職を失い再びこの場所に舞い戻っていた。
ユウキは先程、見た夢を思い出し掛け布の中に頭を入れ思う。
まあ、たしかに…異世界か。
実際来てみたは良いが今はホームレス…散々な目にあったし辛い…。
自由の代償…。
しかしユウキは夢の中で語った自分の言葉を思い出し笑った。
「どんなに貧しくても、辛くても幸せを感じられた者勝ちか…。
たしかにな…」
ユウキはそう言葉を口にする事で元気を貰った気がした。
…
「すいませーん、ここで働きたいんですけど」
ユウキは就職活動を再開した。
仕事が無ければ見つければいい。
目をつけたのは荷物運びの仕事。
ここなら、大変だろうが技術が無くてもなんとかなるだろう。
「あ? 男がここで?」
ぷっ
女性は笑いユウキを見た。
「ムリムリ、男に力仕事はできねぇよ。
帰んな」
次に目をつけたのは鍛冶屋。
なんか、かっこよかった
「すんませ…」
「おい、てめぇ!!
男がここに入んじゃねぇよ!!
職場が穢れる…」
なっ…ただ入ろうとしただけなのに…。
それでもユウキは引かずに言った。
「僕を雇ってもらえませんか?」
鍛冶職人の女性はそれを聞き首にかけたタオルで額の汗を拭うとユウキを睨んだ。
「ふざけてんのか?
ここは男が仕事をする場所じゃない」
まあ、慣れだ、場所によってはこんな事もあるさ。
魔道具屋
ミニスカート……………却下
おまけに、人員は足りてると断られた。
…
「今日もこれだけか…」
ユウキはオレンジを剥き口に頬張る。
猫はどこかから持ってきたのか魚の骨をユウキの隣で食べている。
そうしてオレンジを食べられる幸せを噛み締めながら立ち上がった。
「よしっ!物乞いするか」
ユウキは出来るだけ自分を元気づける為、不安を取り除く為にわざとらしくではあったが笑って次の行動に移した。
「すいません…お金を下さい。
少しで良いんです…お願いします」
そうしていると一人の女性が立ち止まった。
ユウキはお金を恵んで貰えるのかと期待したがそれ以上の物だった。
「かわいそうに…もし家で良ければ泊まりなよ」
これは願ってもいない申し出だ。
ユウキは嬉しくなり笑って女性の手を取った。
「本当ですか!?
ありがとうございます」
その日ユウキはその家で泊まる事にした。
「どうぞ中に」
もう外は暗く寒い。
「おじゃまします…」
ユウキが入ると女性も中に入り扉を閉めた。
暖炉が暖かい…心が温まる。
女性の家は2階にある家でアパートの様にその部屋を借りているらしい。
「料理、僕も手伝いますよ」
「いや、いいよ君はゆっくりしていて」
なんていい人なんだろう。
ユウキはそれに甘えて久しぶりの暖を取った。
食事はシチューだった。
その中には肉や野菜がたくさん入っている。
「美味しい…」
久しぶりだった…まともな食事にありつけたのは。
温かいご飯。
ユウキの瞳からキラリと涙がこぼれ落ちた。
「おいおい、そんな美味しかったのかい?」
「はい…美味しいです…」
ユウキは涙を袖で抑え、お腹いっぱいに食べた。
異変は食事の後に起こった。
泊めてくれると言った心優しき人ははどこへやら。
「それじゃあ、分かるよね?
ご飯も食べさせて上げたんだから」
「へっ…」
その顔には以前にも見たストーカーの女性と同じ表情が浮かんでいた。
ユウキの頭の中でサイレンがなっている。
こいつっやばい。
「その前に…お風呂に…入りたいです」
ユウキは風呂場に入るなりタオルを結んで繋ぎ窓に垂らした。
ふっ俺も強くなったものだ。
ユウキは窓からその家を出て地面に辿り着くと走り出した。
ふははは、さらば!!
その日お腹いっぱいになりユウキは寒空の中ではあったがいつもの場所でぐっすりと眠った。
読んでいただきありがとうございました
m(_ _)m