誕生祝い(前)
「よく寝ているわね。」
ダイアナはそう言って、ベビーベッドを覗き込んだ。
ベッドの中では、キャサリンが先月産んだクリスが寝ている。
「今日は午前中に陛下方がいらっしゃって、たくさん遊んでくださったの。だから疲れたのかしら? いつもは、こんなにずっと寝てばかりじゃないのよ。」
キャサリンもベッドの中の我が子を見つめる。すやすやと眠るクリスを見ていると、自分の心の奥がほんわかと温かくなる。私は今とても幸せなんだと実感する。
「ああ、赤ちゃんの匂いがするなあ。」
ダイアナの隣からエドワードがクリスに顔を近づけ、しみじみと呟いた。
「赤ちゃんの匂い?」キャサリンの問いに、ダイアナは首を縦に振る。
「そうよ、この甘いミルクの匂い。う〜ん、懐かしいわ。」
ダイアナはクリスにさらに顔を近づけ、息を思い切り吸い込む。
「懐かしいって。。。お姉さまだって、この前、出産したばかりじゃないの。」
キャサリンは姉の言葉に、呆れたような驚いたような声を出す。
「この前って、もう9ヶ月も前よ。こんな甘い匂いなんて、とっくにしないわ。」
「そうそう、もうしないね。いつの間に卒業したんだろうね。」
妻の言葉にエドワードも笑顔で同意する。
その時、内扉が開いて、隣室からフレデリックがやってきた。公務に一区切りついたのだろう。
「遅くなってすまないね。」
そう言いながら、フレデリックはキャサリンの隣に座った。
「誕生祝いを持って来てくれたんだって? ありがとう。」
フレデリックは、ダイアナとエドワードに礼を述べる。
この国では、誕生して1〜2ヶ月後に行われるお披露目の会に合わせて、お祝いを渡す習慣がある。クリスのお披露目の会は1週間後に行われるが、それは王家主催の公式行事となる。当主夫妻ではないダイアナ達はこの会には呼ばれていないので、今日、お祝いを持って来たのだ。
エドワードはフレデリックから小さめの箱を受け取ると、さっそく箱を開けた。中には、オリーブ油の瓶がいくつも入っていた。
「赤ちゃんの肌は弱いから、これを塗って保護するといいんですよ。うちの子もかぶれないように、毎日塗っているんです。」
ダイアナが、オリーブ油について説明する。
「なるほど、それはいい事を聞いた。先輩の体験談は貴重だな。ありがとう。」
フレデリックはオリーブ油を、ベビーベッドの隣の机の上に置いた。机の上には数個の箱が乗っている。これらも誕生祝いの品のようだ。




