婚約
「どうか、私の婚約者になっていただけますか?」
フレデリック殿下は何をおっしゃっているのかしら? 婚約のことはお受けすると、すでにお伝えしているのに。。。?
キャサリンが小首を傾げて不思議そうな顔をした。
それを見て、フレデリック王子は苦笑する。
「そんな目で見ないで欲しいね。そんなに変なことを言ったかな。前に婚約の話をしたときは、正直に言うと、『周りの状況を考えると、キャサリン嬢が無難かな』という考えだった。」
キャサリンが静かに頷く。
「でも、今は違う。私の隣には、キャサリンにいて欲しい。棚に上って扉を開けられること、正装したドレス姿で駆けること、大声をだして怒ること。そのどれもが愛しいと思う。きっと、私は、あなたを愛し始めているのだと思う。そんな愛しいあなたに、婚約を申し込みたい。」
フレデリック王子の真剣な眼差しと柔らかな口調で語られる告白に、キャサリンの胸はドキドキしてくる。
『愛しいあなた』ですって! 殿下からそんな風に想われているなんて、思いもしていなかったわ。あぁ、なんだかほおが熱い。。。心臓もバクバクしてきた。。。どうしよう。。。
とりあえず、何か言わなくちゃね。でも、何を言えばいいの。。。?
キャサリンは、大きく深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。
「他人のために身を引くことのできる殿下を素晴らしいと思います。私は、殿下をお支えしたいと思っています。殿下が前を向いて進んでいるときは後ろにいて、立ち止まった時にそっと寄り添えるような、そんな距離で支えたい。そう、思っております。」
ああ、思っていることが上手く言えないわ。どうしたらきちんと伝わるかしら。
言い淀むキャサリンを、フレデリック王子は優しい目で見つめる。
フレデリック王子の瞳を見つめるうちに、キャサリンの心に一つの思いが浮かんだ。
この瞳が、怒りや悔しさ、辛さで歪むことがあっても、私は絶対に離れないわ。
キャサリンは、ニッコリと微笑んだ。




