兄弟
フレデリック王子は、珍しく、城の兵に大声を出していた。
「それで! アスター侯爵令嬢は、どこへ行ったんだ!」
キャサリンが控え室に着いたら自分に連絡が入るように手配をしていたが、いつまで経っても連絡が来ない。不思議に思い門番に尋ねると、とっくに城に到着していると答えがきた。しかし、準備している控え室には誰もいないし、キャサリンを案内したはずの近衛騎士もいない。そして、誰もキャサリンを見ていないと言う。
フレデリックは苛立っていた。
「フレデリック、どうした?」
不意に声をかけられる。半分ほど開いたドアの向こうから、ギルバートが顔をのぞかせていた。
「兄上! どうしてここに?」
フレデリックが驚きの声を出す。
「廊下を歩いていたら、お前の声が聞こえて。それが珍しく怒鳴り声だったから。ノックしたんだが聞こえなかったようで、勝手に開けてしまった、すまない。で、どうした?何があった?」
ギルバートは部屋の中に入ると、眉を下げて謝り、そしてフレデリックに尋ねた。
「それが、キャサリンが城に着いたはずなのに、どこにもいないのです。」
フレデリックは一部始終をギルバートに伝える。
ギルバートはフレデリックの説明を聞き終わると、落ち着いた声で言った。
「なるほど、お前の苛立ちはわかった。しかし、ここで兵を怒っても仕方がない。まずは父上にお伝えするんだ。それが終わったら、舞踏会に出る準備をして、ホール入り口へ行け。」
「でも、キャサリンが、、、」
「彼女の事は私に任せて、お前は舞踏会に出ることを考えるんだ。陛下の挨拶の時に王族が揃っていないのは、いらぬ憶測を呼ぶ。わかったな?」
ギルバートの質問にフレデリック王子がうなずく。
舞踏会の最初に国王陛下の挨拶があり、その時には王族全員が舞台に並ぶ。2歳程度の幼い子でも挨拶が終わるまでは舞台上で顔見せをするので、今回フレデリック王子が欠席するわけにはいかない。
「パートナー無しでも、大丈夫でしょうか?」
フレデリック王子も苛立ちがようやく鎮まり、物事を考えられるようになってきた。
「そうだな、マーガレット嬢を入り口に向かわせよう。彼女には私のパートナーをお願いしてあるから、事情を話しておく。」
マーガレットは王子たちのはとこにあたり、隣国に婚約者がいる。そのため、今回のような公のパーティーに、王子のパートナーとして出席するのに、まさにうってつけである。
「そんなに深刻な顔をするな。キャサリンだって、何も連絡がなければおかしいと気づくさ。彼女も王城には何度も来ているし、自分でホールまで来るかもしれないぞ。」
そう言って、ギルバートはフレデリック王子を励ました。




