ファーストダンス
学園パーティーが始まり、フレデリック王子とキャサリンが、フロアの中央でファーストダンスを踊っている。
キャサリンがターンするたび、ドレスの裾がふわりと揺れ、その優雅さに周囲からため息が漏れる。
「君とのダンスは案外と楽しいものだな。いつ足を踏まれるか心配しないでいいのが、いいね。」
フレデリック王子が、キャサリンを巧みにクルリと回転させる。
「痛い思いをしたご経験がありますか?」
「まあね。細いヒールのご令嬢は、できれば遠慮願いたいよ。あれは凶器だ。」
痛そうにしかめっつらをする殿下に、キャサリンはクスリとふきだした。
「殿下、このドレスはとても踊りやすいですね。腰回りがスッキリとしていて、足さばきも楽です。何曲でも踊れそうですよ。」
キャサリンが踊りながら、フレデリック王子に話しかける。
王子は、ステファニーが「全力疾走もできる」と感想を述べたことを思い出した。少しだけ心が痛んだ気がして、自分は意外と未練がましいのかも、などと考えた。
「このドレスの型が気に入ったのなら、次の機会は、同じデザインでキャサリン用に仕立てようか。」
「次の機会ですか?」
「まあ、あの提案を君が引き受けてくれたら、だけど。」
ダンス中の会話とはいえ、あの提案と濁す。ステファニーとの婚約を解消する事はまだ機密事項であり、この段階でフレデリックが誰かに婚約を申し込むなんて一大事である。
「次の機会はいつになりますか?」
「12月の王城舞踏会かな。そこで、お披露目があると思う。」
「寒い季節ですね。寒いのは得意でなはいけど、よろしくお願いします。」
「よろしくって、受けてくれるってことかい?」
まさかダンスの最中に返事がもらえるとは思わず、フレデリック王子は目を丸くする。
「はい。お引き受けいたします。」キャサリンはにっこりと笑った。




