新たなる出発
フレデリック王子は再びステファニーを向いた。
「ブランドン伯爵には、今回の計画について大筋で了承してもらっている。ステファニーの気持ち次第だが、できるだけ早くに実行に移して欲しい。」
「わかりました。今日帰ったら、急いで領地へと出発しますね。」
ステファニーが弾んだ声で言うのを聞き、フレデリック王子は苦笑いだ。
「領地に出発する前に、忘れずに記憶喪失になってくれ。」
「そうでしたね。今日、木から落ちることにします!」
フレデリック王子はさらに苦笑し、ステファニーは、まかせてください、と胸を張る。
エドワードが数歩、ステファニーに近いた。
「ステフ、僕が家に帰ったら計画が台無しだから、僕は普段通り寮にいるね。ティムにも大まかなことは話してあるから、わからないことは彼に聞くんだよ。」
当事者である自分よりも従僕のティムが先に計画を知ったことに、いささか疑問を覚えたが、ステファニーは、「わかりました。」と答えた。
その後、3人でいくつか確認をし、ステファニーは帰宅することになった。
ステファニーはドアノブに手をかけ、後はそのまま部屋を出ていくだけというところになって、突然、クルリとフレデリック王子に向き直った。
「フレデリック様、今まで婚約者でいられて楽しかったです。フレデリック様のこと、好きでしたよ。」
そう言ってニッコリと笑うと、小走りするかのように速く、廊下を去っていった。
サロンの中には、苦笑いするフレデリック王子と、唖然とするエドワードが残された。
「ティム、ティム! 準備、準備よ!」
ブランドン邸に帰宅すると、ステファニーは大声で叫びながら廊下を走った。
「お帰りなさいませ、お嬢さま。そんな大声で、いかがなさいましたか?」
自室から出てきたティムが、驚いた目でステファニーを見る。
「領地へ戻る準備よ、明日の朝には出発しましょう!」
ステファニーはティムへと駆け寄った。声の大きさは幾分か小さくなったが、今にも駆け出しそうな勢いはそのままだ。
「明日ですか? エドワード様からは、数日以内とおうかがいしましたよ。」
「明日だって、数日以内じゃないの! ねえ、何を持っていく?」
ステファニーはティムの腕を掴むと、そのまま部屋へ連れて行こうとする。
「お待ち下さい。まずは、ご主人様と奥様に戻ってきていただきませんと。誰かに遣い行ってもらいましょう。」
ティムは、ステファニーのはやる気持ちをなんとか落ち着かせようとする。
「お父様はお仕事中だし、お母様はお茶会中よね? わざわざ人を遣らなくても、、、」
「そういうわけには、まいりません。お嬢様が記憶を失うほど頭を打たれたのですよ。至急お戻りいただかないといけません!」
「確かに、それもそうね。ああ、本当にワクワクするわ。胸が高鳴って、今夜は眠れないかもよ!」
ステファニーの心はすでに領地へと飛んでいるようだ。スキップを踏むかのように足取り軽く歩く主人の後ろを歩きながら、ティムの心も弾んできた。
ステファニーの話は今回で一区切りです。
次からは第三章が始まります。




