呼び出し
授業が終わり、ステファニーはサロンへ向かった。この日の昼休みに兄のエドワードが教室に訪れ、放課後にサロンに来て欲しいと言われた。
普段は馬車溜まりまで一緒に歩くキャサリンに教室で別れを告げ、サロンへと歩く。一体何の話か、ステファニーには全く予想がつかなかった。
サロンの扉の前には兄が立っていた。ステファニーが近づくと「殿下が待っている。」と言われ、ステファニーはますます困惑した。
部屋の中にはフレデリック王子が1人、ソファに座っていた。ステファニーが王子の向かいに座ると、エドワードは扉の横に控えるように立った。
兄が席に座らなかったのを見て、これは大事だとステファニーは思い、体がピリッとするのを感じた。
フレデリック王子がゆっくりと口を開いた。
「来てくれてありがとう。突然だけど、これに見覚えはある?」
王子が、手のひらに乗るていどの小さな箱を、ステファニーに渡した。
ステファニーが箱を受け取り中を見ると、ノエア草の葉が入っていた。
「これは、ノエア草の葉です。甘い香りがしますね。」
ステファニーはフレデリックの質問の意図がわからず、困惑の表情を浮かべた。
「そう、ノエア草の、痺れが出る葉だ。昨日の放課後、これが給湯室の棚にあったそうだ。これが意味するところがわかるかい?」
フレデリック王子がステファニーに聞くが、ステファニーには全くわからず、首を横に振った。この葉が給湯室に置いてあったら、誰かが間違えて飲むかもしれない。そんな事故が起こるかもしれなかった事と自分が呼び出された事との関係がわからない。
「では、順を追って説明しよう。まず、この葉が私に届いた経緯から言おうか。棚にこの葉があるのを見つけたのはクーパー伯爵令嬢と仲の良い女子生徒で、彼女たちはサロンでお茶をすることになっていた。彼女はいつものように皆んなにお茶を入れようとして、自分たちが使っている棚にこの箱を見つけた。彼女は寮生でマダム・ジュネの手伝いをしたこともあって、これが何かすぐにわかった。そこで誰にも言わずに私に報告した。」
フレデリック王子が一文ごとにステファニーの様子を確認しながら話すので、ステファニーも一文ごとに首を縦に振って了承の意を伝える。ただ、ステファニーは最後の文に引っ掛かりを覚えた。誰にも言わず殿下に報告の状況がわからない。
ステファニーが納得していないことに気がついて、フレデリック王子が説明をする。
「ああ、ステファニーとクーパー伯爵令嬢の関係の事は私も把握していたから、伯爵令嬢に近い生徒に、情報源になってもらったんだよ。どんな些細な事でも伝えて欲しいって。場合によっては秘密裏に動いて欲しいってね。で、ここまでは、いいかい?」
今のところ特に疑問がないので、ステファニーは「大丈夫です。」とはっきりと言った。




