西の離れ
今日、ステファニーはドレスの試着のために王城を訪れていた。
「フレデリックさま、このドレスすごいですね!」
ステファニーが試着しているドレスはAラインドレスと言われる、腰回りが比較的スッキリとしたものだ。
「気に入ってもらえたら嬉しいよ。」
ドレス姿のステファニーを見て、フレデリック王子も微笑む。
舞踏会で着るドレスはダンスの見栄えを良くするためもあって、スカートの下に何重にもパニエを着てボリュームを持たせる。ステファニーは、それがとても苦手だった。
いつもの、コルセット&パニエ&ドレスだととっても動きにくいけど、これはパニエが1枚だけでいいなんてすごいわ!それなのに見た目は、ふんわりとして綺麗。こんなにも素敵なドレスを準備してくださったなんて、この前はフレデリックさまを疑って悪かったわ。
「腰がすごく軽いです。これなら全力疾走も出来ますよ。ありがとうございます!」
ステファニーは感謝の気持ちを伝えだが、フレデリック王子は苦笑いだ。
「ドレスで全力疾走は、どうかな。。。」
デザイナーとお針子が、持ち帰って手直しするために肩や背中に印をつけていく。
ステファニーは言われるままに体の向きを変える。ふと、窓から見える建物が目についた。
「フレデリックさま、この窓から見えるのはどこですか?」
「城内の西側だろう。何か気になる物があるかい?」
フレデリック王子がステファニーの近くへ来て、一緒に窓から外をのぞく。
「あの尖塔は何ですか? 」
「あれは礼拝堂だよ。陛下が毎朝、国の安寧を祈っている場所だ。ステファニーは行ったことがなかったかな?」フレデリック王子が外を見たまま、ステファニーに聞いた。
「ありますけど、上から見るとあんな感じなんですね。じゃあ、その向こうに見える茶色の建物は何ですか?」
ステファニーは礼拝堂の奥に見える、茶色い家根の建物を指差す。
「あれは『西の離れ』だな。今は叔父上の家族が住んでいる。あそこは代々の王弟家族が住むから、そのうち私が住むことになるだろう。」
「フレデリックさまの家になるんですか?」ステファニーはビックリした。
「私だけじゃなく、ステファニーも住むのだぞ。」フレデリック王子が、わかっているか?というように、ステファニーの顔を覗き込んだ。
「私も?冗談じゃなくて?」ステファニーはさらに驚きの声を上げる。
「王弟家族、だからな。俺の婚約者はステファニーなんだから、当たり前だろ?」
ステファニーに驚かれて、フレデリック王子も驚いたようだ。一人称が『俺』に変わっている。
「王城内に住むなんて、聞いていません!」
「そうか?それは悪かったな。」
フレデリック王子が悪びれもせず、首を傾げて言った。そして声のトーンをひそめて続ける。
「もともとあそこはギルバート兄上が住むはずだったんだよ。兄上が王家に残り、俺は軍に入るつもりだったけど、、、兄上が降ってしまったから。。。まっ、数年先の話さ。陛下が引退して、兄上が即位なさる時だから。」
後半のフレデリック王子の言葉を、ステファニーは聞いていなかった。
『スペアのスペア』から『スペア』になるって、こういうことも変わるんだ。。。そうか、将来は城内に住むのか。。。そうか、そうなんだ。。。
ステファニーは、茶色の屋根を見続けた。




